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照り付ける太陽が焼くは朽ち果てた人工物。かつて人々が織りなしていたであろう生活臭はもはやここにはない。このさびれた街に漂っているのは自然と同化しかけた荒廃の香りである。
高層ビルの表面で鈍く反射するガラスは所々が途切れ、ひび割れた壁はそこかしこが崩落し、舗装などされるはずもないひび割れたアルファルトの間には雑草が生い茂っている。信号、車、人々の生活を支えていたすべてのモノが風化するほどに無造作に捨て置かれていた。
「飛べっ、飛び移れっ」
「無茶言うなっって、こんっ、の」
殺伐とした都市の中で、何者かから必死に逃げている青年たちがいる。ブーツで地面を素早く蹴り上げる彼らは市街地や瓦礫などが織りなす景色に溶け込めるように迷彩が施された最新式の戦闘用ヘルメットや戦闘服、ボディアーマーなどの専用装備を身に纏っており、各種アタッチメントがつけられた小銃を所持している。鍛え上げられた肉体、伸ばした髭が良く似合うほど野性味のある顔つきをした彼らは距離の離れた3階建てビル同士の間を憶することなく飛んで行った。
「くっそ、」
「大丈夫か」
「だから、無茶言うなって言ったろ!?、てか、これなんか映画のワンシーンみたいだな」
「そもそも、この世界自体が映画みたいなもんだろ。無茶しないと、あいつらからは逃げれないって、よっと」
比較的、重装備な一人がその距離を飛べず、落ちそうになるのを手だけでなんとか支える状態になった。そんな彼に仲間の一人が急ぎ手を伸ばし、彼を持ち上げる。その間、他の者たちは背後に迫る者に制圧射撃を行った。サプレッサーによって抑えに抑えられた燃焼ガスが銃口から散り、ポップコーンが弾けるような音が鳴る数の分だけ薬莢が地面にばら撒かれる。
「急ぐぞ、あともうちょっとだ」
持ち上げた男は、落ちずに済んだ重装備の男を引っ張り上げるようにして引き起こし、背中を叩き鼓舞する。それをされた彼は苦い顔をして愚痴をこぼすように口を開いた。
「この、任務きつ過ぎだろ」
再び、彼らは走り出す。殺伐とした空気が立ち籠めるこの荒廃と化した世界で生き残るために。
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「タケ、床にC4を仕掛けろ、奴らが来たら床ごとぶっ飛ばす」
「分かった」
先ほどの青年たちは割れたガラスや雑誌、壊れた備品などが地面に散乱するビル内にいた。4人は廊下で警戒体勢を布いており、極力、音を出すことを控えているように見える。
「よしっ、開くぞっ!!」
すっかり錆びついてしまったドアにバールを挿し込んだ男がそう言うと、他の男たちは一様に頷く。そして、目線の高さに銃を保持した状態、いつでも射撃可能な姿勢で、次々と室内に突入する。
「クリア!!」
「クリア」
「オールクリアっ」
鋭く目を光らせ、頭を全くブラさずに器用に体を傾けたり、体勢を変えたりしながら瞬時に死角になっている場所に銃口を向け、室内の安全確認を流れるように終わらせる。それと同時に、それぞれの隊員が連携用に使用している部隊間の無線を通して安全を確保したとマイク越しに伝えあった。その瞬間、廊下側から階段を駆け上がる音、獣の呻き声のような鳴き声が聞こえ始めた。