7.『武神』、異世界へ行く。
「『討伐支援』のぉ。んむぅ、これといって、思い付くモノがない」
猛は首を傾げて悩む。
まず、『武器』に関してだが、猛自身は様々な武器を使える。
ヌンチャクやトンファーどころか、刀剣・槍・弓等は修行の一環として取得した。
しかし、どれもしっくりと扱えた事はない。
やはり、素手で戦うのが一番と猛は判断している。
金が尽きない財布…これも主義に反する。
確かに魔王討伐なのだから金子は必要だろう。
しかし、だからといって、無尽蔵に貰えば性根が腐ってしまうような気がするのだ。
「う~む。悩むのう…おお、そうじゃ最初から付いている『聖なる力』とはなんじゃ?」
「はい、『聖なる力』とは魔王が従える魔物の中にはゴースト系の魔族もおり、それを物理的に攻撃する事ができる事と、攻撃魔法による耐性がある程度付きます」
なんかもうすでに十分な気がする。
「う~む…」
もう貰わずに行ってしまおうかと思い始める猛。
「ゆっくりと、お考えください。私もゆっくりと待ちますから」
と言ってアリスは椅子から立ち上がり、デスクの近くに備え付けられていた西洋茶器を準備する。
その動きは精錬されていて、猛は実に見事と思う。
「神様でも自分で茶をいれるのじゃの」
「はい、自分でやった方が楽しいじゃないですか。どうぞ♪」
と準備を終えた紅茶をカップに注ぎ、猛に差し出す。
差し出された紅茶を猛は一口飲み、
「…美味」
率直な感想を漏らす。
「ありがとうございます♪」
「いいのう、お主様」
猛は褒めただけのつもりだった。
本当に、褒めただけだ。
「『お主様のような嫁さんなら、また娶りたいのぅ』」
ー 受理されました ―
『………はい?』
突然の音声に猛とアリスは首を傾げる。
― 魔王討伐支援として世界管理局 救世課 勇者配属担当神 アリスを花嫁とする事を許可します ―
『なっ…なにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!』
猛とアリスは驚愕の叫びをあげる。
「ど、どういうことですか!?」
- そのままの意味です ―
聞こえる女性型電子音はアリスに叫びに答える。
「に、人間が神を妻にするなんて…!?」
― 前例がたくさんあります ―
突如、宙に出現する電子板にズラリとリストが記載されている。
「いやぁぁぁっ!ほんとだぁぁぁぁぁぁっ!」
アリスは電子板を見て頭を抱える。
「きゃ、きゃんせる…キャンセルです!」
― 受理された内容は絶対です ―
無慈悲な女性型電子音…
アリスは頭を抱え、猛を睨みつける。
そのまま、光の速さで猛の胸倉を掴み、猛の頭をシェイクする。
「謀ったわね!?ワザとね!?この好色鬼畜ジジイ!」
「ご、誤解じゃあぁ!まさか褒め言葉がそのまま受理されるものだとはぁぁぁ!」
「嘘つけぇぇぇぇぇ!私にあんな事やこんな事するつもりね!?」
「あ、あんな事もこんな事もそんな事も思っては…」
「そんな事まで!?」
突如アリスが紅茶の入ったポットを持ち上げる。
「わ、私の貞操の為、勇者タケル…しねぇぇぇぇぇぇぇっ!」
「最初からクライマックスとなぁぁぁぁぁぁっ!」
キャラの崩壊したアリスにより、スタート前にリタイヤ寸前のタケルが急に光に包まれる。
― それでは、勇者タケルよ。使命の全うを祈ります。世界管理局 救世課 勇者配属担当神アリスよ。死がふたりを分かつまで、良き妻として夫を支えるように。他の神々からの結婚祝いに、地球・日本地区の100万円相当の、魔王封印の地・アークガルドの通貨1万Gを送ります ―
光に包まれていく猛とアリス。
『ま、待てぇぇぇぇぇぇぇッ!』
― 神の御加護が… ―
完全に光に包まれた後、猛とアリスは消えた。
― ありますように… ―
「う、うむぅ…」
光の眩さに目を瞑っていた猛が眼を開く。
「おおぉ…」
目の前に広がる広大な緑の大地。
そして、光と闇に分かれている天空。
「これが…異世界。確か…電子女声は『アークガルド』と…」
魔王のいる異世界に猛は一瞬、心を奪われた。
ここで猛は…
4人の魔王を倒さなければならない。
そして、最後には自分の『大願』が叶う事を信じて…
「そのまえに…この状況をなんとかせんとの」
猛は紅茶のポットを構えているアリスを見て、呟いた。