4.『武神』、『勇者』と『魔王』を知る。
「まず、『勇者』とは『世界調停システム』の一部であり、『魔王』を殺す者の事です」
この時点で、猛はレジュメを確認する事をやめた。
直感で感じた…
これは、紙の上で確認する事ではなく、アリスの言葉で知る事だと…
それを悟ったのかアリスは何も言わずに説明を続ける。
「まず、『魔王』という者は…『世界』を恨み憎んだ者です」
「『世界』を?」
「はい…『世界』には『純粋な正義』もあれば『理不尽な悪徳』もあります。良くも悪くも『世界』はその均一のバランスにより、保たれています」
それは猛にもわかる。
世の理は陽と陰…善と悪の天秤だというのは叩きつけられた『現実』だ。
「理不尽な暴力を受けた人は『人』を恨み憎む。陵辱された乙女は『男』を恨み憎む。捨てられた子供は『親』を恨み憎む…」
「ふむ…そうじゃのう」
「しかし、その時に…数少ない事ですが、無意識でも、心の底から『世界』を恨み憎んでしまうと、その人物は『魔王』となります」
「…?」
「『魔王』は天秤を『悪』に傾けてしまい、『世界』のバランスを崩してしまう。しかし、『魔王』は別の存在である『神』では殺せない。その『魔王』を殺せるのが…」
「『勇者』…というわけか」
「はい。同じ存在である『勇者』ならば『魔王』を殺す事ができる。『神』にできる事は、他の『世界』に極力影響のない世界に『魔王』を閉じ込める事だけです」
「…ちょっと待て。それじゃあ、その閉じ込めている『世界』の『人間』が『魔王』を倒せば?」
「いいえ」
アリスは哀しそうに首を振る。
「確かに、『魔王』が生みだし従える『魔物』は脅威ではありますが理不尽といえる程の力は持ちません。『人間』でも対抗できます。しかし、『勇者』が『善の太極者』なら『魔王』は『悪の太極者』…『魔王』を殺せるのは『勇者』だけなのです」
「ふむ…説明は納得できるが、その『世界』にとっては理不尽…」
『魔王』がいるかぎり、『魔物』は生まれる。『勇者』がいない限り、絶対に平和は来ない。
「…でもないか。『平和』とやらは『魔王』や『魔物』がいてもいなくてもそうそうあるもんではない」
そう、例えその『世界』に『魔王』がいなかったら人が人を襲う。
もっとも、猛は便乗して悪さをする人間はいるだろうと思っている。
「システムとやらはわかった。では、リスクから聞こうか」
「はい」
パネルを操作し、簡単な絵図を表示する。
「まず、『勇者』は不死身ではありません。『魔王』や『魔物』…『人間』にも殺せます」
「まあ、そうじゃろうの。人は死ぬもんじゃ」
「そして、今現在…『魔王』は4人います」
「…なんと」
「これは、『武の太極者』が他の『太極者』に比べて少ない事とが一因となっておりまして、『魔王』だけが多く出現してしまいました。そして…」
アリスは息を呑み、
「その全てが互いに争っています」