1.『武神』は死の床で嘆く。
初めての転生モノ小説です。
よろしくお願いします。
日本には『武神』がいる…
武術に関わる者で、彼の名を知らぬものはいない。
生家に伝わる古武術を幼少時から訓練し、自己で様々な武道・武術の良点を取り入れ、古くから伝わる訓練法、様々なスポーツ科学の理論による訓練等、透間無く鍛えた。
個人参加が可能な格闘大会に参加し、優勝・タイトル等を総なめ。
その後、様々な格闘団体に入っては全て無差別級のタイトルを獲ると脱退。
その間、怒ったプロモーターやスポンサー、マフィアまで絡んできたが、暴力沙汰に関する事は全てを素手で撃退。
その後、めぼしい団体が無くなると、それまでに稼いだ財産を使って、単身の『世界旅行』と称した武者修行。
当てもなく、海を渡る以外は殆ど己の脚だけで巡り、観光地に立ち寄り、ピース写真を撮る事もあれば、紛争地帯やテロ多発地帯等での幾つかの組織を壊滅させたり、未開のジャングルに現存した戦闘部族と闘う事もあった。
『世界旅行』の後、生まれ故郷の日本で腰を下ろしたが、そんな人生を過ごした人物が歳を取って落ち着くわけでもなかった。
普段は有名人として、インタビューやテレビに出る事もあれば、恨みのある人物に襲われ、その度に撃退・壊滅。
自分自身に高額の賞金を賭けて、殆ど毎日のように現れる腕試しとの対戦。
また、強豪の武術家の話を聞くと、海を越えて闘いに行った。
海外の格闘番組にゲスト出演し、自分を馬鹿にした全米ナンバーワンレスラーの公式試合に乱入し、プロレス雑誌に載っていた連続コンボでリングに沈め、全米を震撼させたのは82歳の時であった。
『武神』大神 猛
そんな彼も99歳…今日で100歳の誕生日を迎える。
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大神 猛がいつもの時間に目を覚ました瞬間、彼は自分の死を直感した。
原因は寿命…
昨日の腕自慢の大男は一撃も貰わず叩きのめした。
毒物を使った形跡もなかった。
人間100歳にもなると寿命という死神は隣り合わせどころか親友の間柄。
いつ常世に連れて行かれてもおかしくない。
(い、いやじゃ…)
少しずつ抜けていく生気に彼は恐怖する。
それは彼を知る人間なら信じられないだろう。
試合を通り越して『死合』となった時に大量出血の状態で高笑いを上げながら闘いを楽しんでいた。
そんな彼が死ぬ事に恐怖している。
(こんな死に方はいやじゃ!寝所で死ぬなんて…)
彼は嘆き、迎える死に無駄に抵抗する。
怪我でも病でもない。
蝋燭が尽きるように、溜めていた水が無くなるように、死ぬのだ。
(わ、儂は…儂は…!)
こうして彼は事切れた。
彼の葬儀は盛大だった。
大勢の内縁の妻、大勢の息子・娘・孫、少ない弟子、熱狂的な各界の大物ファン等…
彼の武だけで築いた莫大財産による身内争いは奇跡のようになかった。
内縁の妻達は
「彼からは愛を貰った」
子供達は
「父からは『血』を貰った」
と満足だったようだ。
彼は世界に『伝説』を残して、この世を去った。
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「ん…んん…」
目覚めると彼は椅子に座っていた。
近代的なオフィスを思わせる部屋のゆったりとした上質の椅子。
そして、目の前にはシステマチックな高級オフィスデスク。
そこにスーツ姿の眼鏡をかけた美女が座っている。
「初めまして。『太極』に至り、生命の全うお疲れ様でした。私は『救世神・アリス』です。よろしくお願いしますねタケル様」