プロローグ
神越優でございます。
本編『恋に愛されない男』をお読みになってくださった方は知っていると思いますが、はじめましてと言っておきます。
本編を凍結してしまい、真に申し訳ありませんでした。
謝罪のつもりもありまして、二度と書くまいと思いましたが、恋愛モノになりますが、番外編を全力で書くことに致しました。
凍結してしまったせいで、登場することなく、名前のみ出てきた、凛−
彼女が今回の主要人物です。
では、短いお話になりますが、お楽しみくださいませ。
−なんでだろう・・・なんで・・・なんでなんだ・・・
痛みを伴い、腫れぼったさを感じる瞼は、重く、重く、視界を閉ざそうとしてくる。無理矢理開いた視界に入ってくるのは、すっかり暗くなってしまった、冬の夕方。日本という経済大国は、豊かな技術力と、溢れんばかりの自然が表現する美しい四季を持った、諸外国からも日々注目を受けている。そんな、日本の首都、東京。その中でも、一際目立っている町がある。
新宿区三丁目・・・歌舞伎町。
辺りを照らすネオンの明かりが、煙草の吸殻や、平然とポイ捨てされたゴミで汚れた町を、艶やかに照らしている。咽返るような悪臭。ゴミが腐った臭い、下水道の臭い、そして、煌びやかなスーツや、お洒落な女性の、肌を剥き出しにした服等から時折香ってくる、香水の匂い。更に、この日本有数の風俗街をうろついている、欲望にまみれた人々から臭う、酒の臭いも、特徴だろう。
欲望にまみれた、薄汚い街。だが、欲を持つ者からしたら、こんな純粋な街は、滅多に見られない。
人は、誰しもが欲を持って生きている。食欲、睡眠欲、物欲、出世欲、性欲・・・それらを隠しもせず、堂々と生きている人々を、腫れ物のような目で見る者もいれば、共に欲望をひけらかし、思うがままに生きていく人々もいる。
後者のような人間が集まったこの街は、かつての江戸時代に栄えた遊郭のように、歴史を持つ、欲望が集まった楽園でもあり・・・地獄でもある。
殴られた痛みを堪え、怪我をしたあちこちの自分の箇所を庇いながら、ゆっくりと自宅を目指す。自分の同僚3人と、共に暮らす2LDKのマンションはもうすぐだ。
−もうすぐ・・・もう・・・すぐ・・・
血を流し、見るも無残な程にあちこちが青黒くなった顔、普段は綺麗に着こなしているスーツも、グチャグチャのシワまみれになっているのにも関わらず、すれ違う人々は、横目で冷たい視線を一瞬送るだけで、すぐにそれぞれの目的地へと向かう。
この街で、他人との交流は、ほぼ、無い。
いくら傷ついているからといって、心配して近寄れば、自分が何をされるかわかったものではない。だから無関心になるのが一番。自分の欲だけ発散できればいい。それが暗黙のルールみたいなものかもしれない。
−なんで・・・なんだ・・・凛・・・
相川翔輝、18歳の夏だった・・・