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狐と狼  作者: 黒崎 真琴
7/10

第七幕 三条大橋の笛吹き狐

~前回のあらすじ~


 不定浪士の恐ろしい計画を阻止するため、池田屋に乗り込んだ新選組。しかし、悪戦苦闘の戦いだ。藤堂平助は額に重傷、沖田総司は吐血により、戦線離脱。さらに、九尾雷丸は唯一の弟、九尾風丸に左目をやられる。

 これは、池田屋騒動の翌日のことだ。

☆土方歳三目線


 池田屋襲撃の翌日。平助は額に軽傷、脳に異常はない。総司は…まぁ目立った外傷はなかった。だが、一番重傷なのが、九尾だ。左目に刀傷、精神的のも障害がある。今、山崎が診てくれているんだが、大丈夫なのか心配だ。

「土方さん。雷丸が心配なら、見に行けばいいじゃないですか」

相変わらず勘が鋭い奴だ。

(だが、山崎が戻ってくるまでは待機だ)

すると、山崎が入ってきた。

「どうだ?山崎」

「目以外はどこも外傷はありませんが、やはり、精神に問題があります」

「重症だな。で、九尾は?」

「薬で眠っています。先に、傷を癒した方がよいので」

さすがは山崎、怪我を負ったやつのことをよく知っている。

「九尾はしばらく、刀は使えないだろうな」

手が震えたまま、刀は使えない。

(しばらく、九尾を任務や巡察に出さない方がいいな)

その時、思いもよらない人物が入ってきた。

「あのさぁ、土方さん。僕を重症人扱いしないでくれる」

九尾だった。あいつは普通に部屋に入ってきて、総司の隣に座った。

「体の方は大丈夫なの?」

総司は九尾に聞いた。

「外見は問題ないけど、精神的には重症かな?しばらく、刀は使えそうにないよ」

九尾は自分で自覚しているようだ。

「そうか…」

「じゃあ、僕は先生の所に行ってくるよ。目の事診てもらいたからね」

そう言って、九尾は部屋を出た。


☆九尾雷丸目線


 僕は先生に診てもらうため、町へと向かった。

「やっぱり、失明してるよね」

独り言を言いながら、道中を歩いていると、不定浪士達が一人の女性を囲んでいた。

「うちは正直に申しただけどす!」

「この野郎…調子に乗りやがって!」

浪士達は刀を抜いた。僕は彼らにゆっくり近づいた。

「一人の女性を相手に、大勢で囲むなんて。君達、それでも武士なの?」

「誰だ?てめぇは」

「武士の情け知らないんだねぇ。武士は弱い人のために戦うから強いんだよ。君達の強さは何のためにあるの?」

「貴様、名を名乗れ!」

(こいつら、口のきき方が悪いな)

浪士達は僕を囲んだ。

「呪われた一族を知ってる?」

「知ってるなら、どうした」

「僕は九尾一族二十九代目、九尾雷丸だ!頭の中にばっちり入れときな浪士共」

すると、彼らは刀を鞘に納めて、尻尾巻いて逃げて行った。

(情けねぇ姿だね。見て呆れる)

「大丈夫?お嬢さん」

「はい、おおきに。雷丸はんはお強いんどすな」

「ありがとう。もう、一人で出歩いちゃだめだよ」

「はい、ほな」

彼女は僕に別れを言い、僕は先生の元へ向かった。


 着いたら、ガラガラだったため、すぐに診てもらえた。包帯代わりの布を取り、先生に見せた。

「これはひどいなぁ……」

先生は僕の左目をじっと見つめたまま、黙り込んだ。

「雷丸君、君の目は失明している。残念だが……」

僕の勘は当たった。

(やっぱりか……)

「そうですか」

「おや、驚かないのかい?」

「予感はしていたので」

「そうなんだね。包帯をあげるから、無くなったらまた来てね。お大事に」

僕は先生に頭を下げて、屯所へと戻った。


 屯所に着いたのち、土方さんに目の事を教えた。もちろん、幹部の皆にも。

「やっぱりな」

「で、雷丸。体の方は大丈夫?」

沖田は僕の精神の方を心配している。

(それはこっちのセリフだよ)

僕はそう思った。

「とりあえず、お前は巡察と診察以外は外に出るな。これは、副長命令だ」

土方さんは冷たい目で言った。

(その言葉は反則だよ……)

副長命令は絶対だ。僕は黙って従うしかない。

「じゃあ、僕はもう部屋に戻るね」

僕はそう言って、部屋を出た。


☆沖田総司目線


 この頃最近、三条大橋で『ある事件』が起こっている。そのことで、僕たち幹部が集まって話しをしているんだけど……

(土方さんの話が長いから、眠くなってきた……)

「土方さん。僕、眠いんですけど」

「話を逸らすな、総司」

土方さんは怖い顔で僕を睨んだ。

「冗談ですよ。そんな怖い顔しないでください」

「総司、冗談に聞こえる冗談を言え」

一君が冷静で冷たい声で言った。

(なんか、ちょっと痛いな……)

「だから、本当に冗談って言ってるでしょ…ゲホッ…ゴホッ…」

僕が突然咳き込むと、土方さんが今度は声を変えて

「お前は、早く風邪を治せ」

「ただの風邪気味ですよ」

でも、僕は風邪じゃない。松本先生の話によれば

『君の病気は労咳(今の肺結核)だ』

と言われた。その時は、僕と雷丸しかいなかったから、土方さんや他の隊士は知らない。

(でも、一君と土方さんは勘が鋭いからバレるのも、時間の問題かな……)


「で、土方さん。三条大橋で起こっている『ある事件』って何ですか?」

「『辻斬り』だ。だが、それが不思議でな。犯人は質問をしてくるって話だ」

(質問?普通に斬ればいい話だよね)

「副長。どのように質問をするんですか?」

「よくわかんねぇんだが、一つだけ情報がある」

「それは、一体なんですか?」

(どんな情報だろ?)

「犯人は『妖』だという噂がある」

妖…?まさかね。雷丸は今、夜の出入りは禁止だし。

「妖?では、これは事故だと断定すれば……」

一君も雷丸じゃないって思っている。でも、土方さんが

「それが、断定できねぇんだよ」

断定ができないってどういうことだろ。

「何故、断定ができないのですか?」

「実はな、右に手に三本の刀、左手に黒い刀身を持つ刀を持っているそうだ。だから、事故だと断定ができねぇ」

まさかの事態が起こった。右手に三本の刀と言えば、あの子しかいない。

「副長…まさかだとは思いますが……」

「できれば、俺も信じたいんだが、これだけ情報があればな……」

雷丸だ。でも、あの子は夜は出歩けないはず……

「なんのさわぎ?」

その時、思いもよらない人が部屋に入ってきた。

「九尾。お前、夜はどこにも出かけてねぇよな?」

土方さんの直球過ぎる質問だ。でも、雷丸は顔色一つも変えずに

「昨日は山崎に包帯を巻いてもらって、そのまま、寝ました。なんだったら、山崎に聞いてみてください。あいつ、僕が寝付くまで一緒にいてくれたので、保証人ですよ」

雷丸は何も知らなさそうだ。

「実はな、三条大橋で辻斬りがあってなお前は何か知らねぇか?」

「闇影がそんなこと言ってたな。僕は何も知りませんよ。土方さんの方は?」

「いくつかあるんだが、右手に三本の刀と黒い刀身の刀……」

土方さんが入手した情報を言うと、雷丸の表情が変わった。

「土方さん。それ、騙されてるよ」

(『鬼の副長』が騙されるなんて、なんか笑える)


 その夜、僕と一君は三条大橋に向かっていた。

「総司、体の方は大丈夫なのか?」

「ただの風邪気味だから、大丈夫だよ。土方さんも一君も心配性だな」

僕は笑って誤魔化した。

「気をつけろよ、今夜の相手は一筋縄ではいかないからな」

「みたいだね」

土方さんを騙した人って誰だろ。


 三条大橋に着くと、布で身を隠した人が立っていた。

「今宵の相手は、一筋縄ではいかないようだな」

「君が辻斬りの犯人?」

「いかにも。我が名は『妖怪 笛吹き狐』。一つ訊ねる、貴様らは長州か、薩摩か、土佐か、あるいは不定浪士か?」

「僕たちはどれにも当てはまってないよ」

「何?」

布越しで少しわからないけど、明らかにこっちを睨んでる。

「僕達は新選組。そして、僕は新選組一番組組長、沖田総司」

「俺は三番組組長、斎藤一」

僕たちが自己紹介をすると、奴は鼻で笑った。

「幕府の犬が何の用だ?この俺を退治しに来たのか?」

「じゃなくて斬りに来たんだよ。九尾風丸」

「バレちゃ仕方ねぇな。さすがは沖田総司、兄貴の相棒の力はだてじゃねぇな」

奴は布を取り、僕たちの前に姿を表した。情報とは逆で、左手に三本の刀と大鎌だ。

「雷丸の言う通りだね。土方さんを騙したんだね」

「貴様らの中で、一番鈍いのはあの鬼の副長だけだからな」

それは同意できる。

「どう?僕に斬られたい?それとも、一君に斬られたい?」

僕は話を本題に戻した。

「人間に斬られては一族の名が汚れる。今は退こう。また会おう、猛者の剣と無敵の剣よ」

折角自己紹介をしたのに、奴は僕達を名前で呼ばなかった。

「帰ろっか、一君」

「ああ」

僕達は真っ直ぐ、屯所に帰った。


 屯所に着くと、雷丸が出迎えてくれた。

「おかえり、沖田」

奴と雷丸は体型や顔立ちは似ているけど、性格は違う。

「ただいま、雷丸」

僕は雷丸の相棒は、すぐに雷丸だって見分けられる。だから、僕は雷丸を見捨てない。唯一の相棒だから。

第六幕の誤字を教えてくれたユーザーさんありがとうございます。

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