第六幕 池田屋事件
~前回のあらすじ~
新選組一番組副組長となった雷丸。しかし、土方達は局長である芹沢鴨を暗殺する計画を考えていた。人を殺すのを怖がっていた雷丸。しかし、土方の説得によって、参戦することに決めた。そして、『手偏の新撰組』を作った。
☆九尾雷丸目線
俺達は今から歴史を動かすことになる。長州と薩摩の奴らが京の町に火を放つという恐ろしい計画を考えていた。もし、計画が実行されたら、京の町は火の海となり、どれだけの死者が出るか分かったものじゃない。俺達新選組は計画を阻止するため、計画を立てていた。
「池田屋か、四国屋か…」
「ここが問題だな」
浪士の奴らはどちらかの宿に泊まっているらしい。でも、どっちなのかは分からない。近藤さんと土方さんはそのことで頭を抱えている。
「歳、お前は二十四人連れて、四国屋に向かってくれ」
「近藤さんはたったの十人か!?無茶だぜ…」
「ええ。それに、浪士達は池田屋をひんぱんに通っているそうですので、少し危険なのでは?」
「確かにな。だから、総司、雷丸、永倉、平助を連れて行く。いいな?」
「それならいいぜ」
「山南君、留守を頼む」
「すみません。できれば、私も参加したかったんですが…腕がこんな状態なため…」
自分の腕を見ながら、申し訳なさそうな声で山南さんは言った。
「いいんだ。それに、手安になった屯所を襲撃するかもしれん。しっかり、守ってくれ」
「分かりました」
「よし、行くぞ!!」
「「「はい!」」」
俺は近藤さんに付いて行き、池田屋に行くことになった。近藤さんか土方さん、どっちが当たりを引いたかな?
池田屋の近くには来たが、中の様子が分からない。
「くそ、どうする?近藤さん」
永倉は落ち着かないらしい。我慢ができない奴だ。
「山崎君もいないし、どうします?」
沖田も、悩んでいる。だったら…
「だったら、俺にまかせて!」
俺が自信満々に言うと、みんなが俺の方を向いた。
「雷丸君、何かいい案があるのか?」
「俺が客のふりをして、中を見てくるから」
「でも、ばれたらどうするの?」
心配する目で沖田は俺を見ている。
「大丈夫だよ!俺はただじゃ死なないし、それに、人間を化かすのが妖の特技なんだよ」
「だが…」
近藤さんも沖田と同じ目で俺を見る。
「おいおい、俺を誰だと思ってんの?妖の一種、九尾一族二十九代目、九尾雷丸様だぜ!」
また、俺が自信満々に言うと、二人の俺を見る目が変わった。
「確かにね、信じてるよ」
「気をつけてな」
「はい!」
普段着に着替え、俺は店の中に入っていった。
「失礼する。主人はいいるか?」
「はーい」
奥から主人らしき人が来た。
(ん?ここで鉄の匂いがするなんて…玉鋼も匂う。確定だな)
「お客様、どういった用件で?」
「旅の者なんだが、もう暗いため、この宿に泊めてほしいのだが…」
「申し訳ございません。あいにく、今夜は貸し切りでして、部屋は一つも空いていないんです」
「そうか…貸切なら仕方がない、他をあたるとしよう。邪魔をした」
「えろうすんません」
(こっちが当たりだな…手柄は貰ったよ、土方さん)
そう思いながら、俺はみんながいるところに戻った。
「雷丸、どうだった?」
「結構な数の浪士が止まっている。入ってすぐに、鉄と玉鋼の匂いがした」
「こっちが当たりですね」
「よし、行くぞ!」
近藤さんが入った後、俺達も池田屋に突っ込んだ。
「会津中条おあづかりの隊、新選組。御用改めである!」
近藤さんが大声で言うと、二階から浪士たちが下りてきた。
「わざわざ討ち入りを大声で知らせちゃうとか、近藤さんらしいよね」
「いいんじゃねぇの、それが常識ってもんだ」
「わざわざ自分を不利な状況に落とすのが、新八っつあんの言う常識?」
「人間共め、血祭りにしてくれる!」
向かい合っている浪士が一歩引いた。
(それでも武士か…こいつら)
「行くぞ!」
近藤さんの一言で抜刀戦が始まった。
元治元年(1864年)6月5日、亥の刻(午後10時)、『池田屋事件』が起きる。
☆土方歳三目線
俺達は四国屋付近にいるんだが、会津藩が遅すぎる。
「副長、何か飛んできます」
斎藤が指差す方を見ると、黒い鷹がこっちに向かって飛んでくる。闇影だ。俺は闇影の持っている紙を取った。紙にはこう書いてあった。
『本命は池田屋』
この一言だけだった。
「本命は池田屋だ!行くぞ!」
俺達は急いで池田屋に向かった。
☆九尾雷丸目線
俺と沖田は二階、永倉と近藤さんは一階、平助は外で抜刀していた。
「土方さんたち来る前に俺達で片付きそう」
自信満々に平助が言った。
「雷丸。僕の背中、君に預けるよ」
「俺も、沖田に預ける」
沖田と俺は背中をつけて、刀を前に出し、俺は面をつけた。
「新選組一番組副組長、九尾一族二十九代目、九尾雷丸!」
「同じく、新選組一番組組長、沖田総司!」
「人間共め、死にたい奴からかかってこいや!」
大声で言った後、浪士どもが一気に襲ってくる。
(全員死にてぇんだな。望み通り死なせてやるよ!)
「どわああぁぁ!!」
「平助!」
下で平助と永倉の声が聞こえた。
「ゲホッ!…ゴホッ…」
近くで咳き込む音がした。今二階にいるのは、俺と沖田だけ。
(まさか…!)
後ろ振り向くと、沖田が口を抑えてうずくまっている。
「沖田!」
俺はすぐに沖田の隣に行った。
「沖田、大丈夫?」
「僕は…大丈夫…だから…」
声でも苦しんでいる。
「雷丸!後ろ!」
沖田の声で後ろを振り返ると、窓の近くに誰かが立っていた。
(あの姿…どこかで…)
「隙ありすぎだよ、兄貴」
聞き覚えのある声だった。月明りで光る刃先。大鎌だ。それは、俺のつけていた仮面を俺の左目ごと斬った。
カッカラン!
真っ二つになった面が落ちる音が部屋中に鳴り響く。俺は左目を抑えながら、顔を上げた。
☆近藤勇目線
俺と永倉君は一階にいるが、平助は怪我で離脱。総司と雷丸君は二階に行ったきり帰ってこない。もし、二人が怪我をしているならば、新選組は圧倒的に不利だ。歳には、連絡はいっているのだろうか。
「土方さんはまだか!?近藤さん、どうすんだ!?」
(歳、早く来てくれ)
「待たせたな、近藤さん」
「歳!」
四国屋に行っていた歳たちが来てくれた。これで、我らが有利になったぞ。
「原田は裏、源さんは一階、俺と斎藤は二階だ!」
「「「はい!」」」
「行くぞ!」
☆九尾雷丸目線
体力の限界が近づき、沖田は立てないぐらい体力がなかった。しかも、俺の目には思わない人物が映っていた。
「体力の限界が近づいているようだね、兄貴」
その声に聞き覚えがあった。
「風…丸…」
「ご名答~♪で、俺の心配より、自分の精神の心配したら?」
(こいつは何を言っているんだ?)
俺は自分が流血恐怖症だということに気がついた。辺り一面、血の色で染まっていた。俺は面をしていない。
「うわああぁぁ!!」
「あーあ、だから言ったのに」
目には何も映らず、真っ黒に染まった。耳には音も金属音も入ってこなかった。
☆土方歳三目線
俺と斎藤が二階に向かう途中、叫び声が聞こえた。
「なんだ!?」
「副長、急ぎましょう」
俺の予想では、声の主は九尾だ。俺達は部屋へと急いだ。
部屋に着き、俺達が目にしたのはうずくまる九尾と総司の姿だった。
「斎藤、お前は総司を頼む」
「はい」
総司の対応は斎藤任せ、俺は九尾のそばに向かった。
「九尾、しっかりしろ!」
俺は九尾を抱き上げた。
「土…方…さん…」
九尾は弱った声で、俺を呼んだ。
「弱々しい声だねぇ~それが、一番隊副組長なの?笑える」
声のした方を向くと、大鎌を持った奴がこっちを向いていた。しかも、大鎌には血がついていた。
「てめぇは誰だ?」
俺は刀を抜き、こっちを向く奴に剣先を向けた。
「僕は九尾一族三十代目、九尾風丸。よろしくね、『鬼副長』の土方歳三さん」
(こいつ、俺をなめてやがる)
「あの、確認のため聞くけど、兄貴って、流血恐怖症なの?」
「それがどうした?」
俺がそう言うと、奴は笑い始めた。
「武士なのに、血が苦手って、笑うしかないだけど。どういう風の吹き回し?」
奴は九尾ことをバカにしてきた。
「てめぇ、九尾の過去を知らないであれこれ言いやがって。九尾はな、『ある理由』で血が怖くなっちまったんだ。そんな九尾の事を知らないで、好き勝手言うんじゃなねぇ!!」
俺は奴に怒鳴った。だが、奴は鼻で笑った。
「何本気で怒ってんの?僕と兄貴は妖怪なんだよ。人間のあんたが、兄貴のためになんでむきになるの?バカみたい」
奴の言葉で俺の何かが切れた。
「妖怪だこうや言う前に、九尾は俺たちの仲間だ。新選組一番組副組長、九尾雷丸。俺たちの仲間!仲間を侮辱するんじゃねぇ!!」
俺がまた奴に怒鳴ると、奴の表情が変わった。
「うざい。仲間ごっこや人間ごっこはもう、ごめんなんだよ!人間のくせして、戯言を言うな!!」
奴が大鎌を振り上げ、俺の方に襲ってくる。
「副長!」
だが、奴の大鎌は寸前で止まった。
(殺さないのか?)
俺はそう思った。だが、よく見てみると大鎌を受け止めていたのは、血を見て弱っている九尾の姿があった。
「九尾!?」
「兄貴!?なぜだ?話すので勢いっぱいだったくせに…」
「俺の悪口は言ってもいい。だが、仲間の悪口だけは言うんじゃねぇ!!」
それは、九尾のふり絞った声だった。俺は必死に涙をこらえた。すると、奴は再び、大鎌を振り上げ、今度は九尾を的にした。もう九尾には、受け止める力はない。斎藤はそれを悟り、代わりに受け止めた。
「今日はこの辺で勘弁しといてあげる。次はこうはいかないからね、兄貴も、土方も、新選組を潰してやる。覚えとけ!」
奴は斎藤から離れ、窓から立ち去った。
「九尾!大丈夫か?」
九尾は大声を上げてから、立ち上がっていない。もう、体力が残っていないのであろう。俺は九尾の刀を鞘に納めて、九尾の体を持ち上げた。その時、俺の手に『赤い何か』が付いた。それは、九尾の顔を触った手だった。
「九尾。ちょっと顔を見せろ」
顔を見た瞬間、俺は拒絶した。九尾の左目がざっくりと斬られていた。多分、奴のせいであろう。
「九尾。ちょっとおとなしくしててくれるか?」
俺がそう言うと九尾は首を縦に振った。もう、話せる体力のない。
(こんなんになるまで、ずっと戦っていたのか…すまない、九尾)
俺は布を取り出し、九尾の左目に当てた。
「痛っ!」
「少し、我慢してくれ」
目に当てたまま、後ろで結んだ。言わば、包帯代わりだ。その後、九尾は気を失った。乱戦も収まっていた。