第五幕 芹沢鴨暗殺計画
~前回のあらすじ~
浪士組から新選組と名が変わった組織。そして、主人公の雷丸は人間の恐ろしさをまた知った。しかし、彼はもう一つ知った。人間にも、上下関係があることを。だが、土方たちがとんでもない計画を考えてることは知らなかった。
土方さんに急に呼び出された俺たち。一体、何の用で呼び出したのだろうか…
「悪いな急に呼び出しちまって」
土方さんが申し訳なさそうに言った。
「いいですよ、別に。これといった大きい行事もありませんでしたし」
山南さんが励ました。
「それで、土方さん。僕たちを呼び出した理由ってなんですか?」
沖田が土方さんを訊ねた。そういえば、今ここにいるのって、俺と、近藤さん、土方さん、山南さん、沖田に斎藤、源さん、平助に原田。…あれ?一人いない…
「土方さん。あの、永倉は呼ばなくていいんですか?」
「いいんだよ…あいつは…」
土方さん…なんか…冷たいなぁ…
「俺たちは今から、重大な任務をする。芹沢を暗殺する」
「暗…殺…」
俺は土方さんの言葉から出てきた、たった四文字の言葉に体が震えていた。息が苦しい。
「雷丸…大丈夫?」
俺の背中に沖田の手が当たる。
「う…うん」
そう言いながら、体は震えたままだった。
「九尾には厳しいと思うが、これは新選組の未来のためだ。我慢してくれ」
「未来のために、人を殺すんですか…?」
「怖いか?」
俺は首を縦に振った。怖いに決まってる。人を殺すなんて、親父と一緒だ。
「だろうな。お前は血が怖くなってしまったからな」
「血が怖い…俺が…?」
刀も扱えず、血が怖くなってしまった俺。こんな状態で俺は武士になれるのか…
「まぁ、無理もありません。あんなことになってしまいましたからね」
山南さんは分かっているようだ。分からなくてもいいけど…
「だから、九尾。お前はこれをつけてやれ」
土方さんが俺に渡したのは…穴の開いてない狐の面?
「穴が開いてねぇから、血を見なくても済むだろ。それに、お前は伊賀の生まれだから、心眼が使えるだろう?」
この人も勘が鋭いようだ。
「妖図解録を見たんですよね?」
「ああ」
時々、土方さんに頼まれて、書物の整理したら、図解を見つけて、山南さんに渡したんだ。たぶん、土方さんも見たんだろうな。
「九尾の流血恐怖症はなんとかした。あとは、刀か…」
土方さんが頭をかかえた。
「地下にある刀でいいんじゃないんですか?」
山南さんの提案だった。地下にある刀?地下倉庫があるんだ。
「だが、あの刀は…」
地下に眠る刀…どんなんだろう…
「いいじゃないか、歳。この際、試してみたら」
「近藤さんがそう言うなら…」
「じゃあ、私が刀を持ってきますね」
「俺も行く」
山南さんが立ち上がった後、俺もつれて立ち上がった。
「九尾。お前が言っても意味がn…」
「いいじゃないですか、土方君」
「そうですよ。それに俺、外の風に当たりたいし」
「そうか」
「それでは、行きましょう」
「はい」
俺は山南さんと一緒に部屋を出た。俺は肩を撫でおろした。山南さんに感謝しなきゃな。
「すみません、山南さん」
「いいんですよ。あなたの顔を見てたら、心配で仕方がなく…それに、顔色が少しすぐれませんでしたから。大分、楽になりましたか?」
「ちょっとだけですけど…」
「図解録を見つけてくれてありがとうございます。これで、あなたの事について調べることができます」
「いえ、俺はたまたま、見つけただけですし…」
廊下で山南さんと喋りながら、地下倉庫の入り口まで行った。
「ここ、ですよね?」
「ええ」
「開けてもいいですか?」
「もちろん」
俺は倉庫の重たい扉を開けた。目に映ったのはだだっ広い居間のような感じだった。
「こちらです」
俺は山南さんの後ろについて行った。
着いた所は、三つの透明なガラスの中に刀が一本ずつ入っていた。俺は真ん中の刀に心を奪われた。刀身は黒く、光に反射して剣先がきらりと光った。
「きれいだな」
「その刀に触れてはいけません」
山南さんの背筋が凍る冷たい声が俺の体を止めた。
「それは『妖刀 村正』です。一度、触れたものを呪うといわれている刀です」
一度触れたものを呪う!?そんな力があるのか?この刀には…
「ですから、決して触れてはいけません。分かりましたね?」
「はい…」
でも、この刀には妖と同じ力があるなんて…思えない。
「あなたに試してほしいのは、両脇にあるものです」
「この二つですか?」
「はい。天下五剣の中で唯一の打刀、『火蓮』と、太刀の中で最も打刀の長さに近い『月風魔』。この二つを試してもらいます」
「試す?どういうことですか?」
ずっと気になっていた。授けるじゃなく、なぜ試すなのか。
「何人かの隊士が試したのですが、火蓮は鞘からさえ抜くことができず、月風魔は鞘からは抜くことはできますが、重すぎて振るうことができませんでした。沖田君や土方君、斎藤君や永倉君でさえも扱えませんでした。もちろん、局長もこの私でさえも」
「沖田や土方さん、近藤さんでさえも使うことができなかった刀なの!?俺に扱えるかな?」
俺は少し心配になってきた。土方さんや近藤さん、沖田でさえも使うことができなかった刀を俺が使いこなせるのか?正直、不安でいっぱいだ。
「大丈夫です。自信を持ってください。九尾君なら、きっと、使いこなせます。私はそう信じています」
山南さんの言葉が温かく感じた。俺は改めて、人間の優しさを知った。
「山南さん…ありがとうございます」
俺は山南さんの方を向いて笑った。
「さあ、土方君達のところに戻りましょう」
「はい」
俺達は倉庫を出て、土方さんたちがいる部屋に戻った。
「すみません。遅くなりました」
山南さんがが入り、俺も後から入った。
「おう。別にいいぜ」
「土方君、九尾君はきっと、この二つを使いこなせます」
「山南さんがそう言うなら、俺も信じるぜ」
土方さんは少し笑って言った。
「雷丸、頑張ってね」
沖田が俺の頭を撫でながら言った。「子供扱いするな!」と言いたいところだが、俺はそこまで短気じゃない。
「うん!」
「決行は今夜だいいな?」
「「「はい!」」」
今宵、この屯所で暗殺計画が決行された。
☆沖田総司目線
島原にあるどこかの酒屋。ここでみんなで飲んでる…って、みんなじゃないか。雷丸は酒が飲めないから、外で待機中だから。
「いや~いい飲みっぷりだぜ、芹沢さん」
「新八っつあん、飲みすぎだぜ」
平助だって結構飲んでるのにね。まあ、平助はただの時間稼ぎだし、いいか。
「では、俺は屯所に戻るとしよう」
芹沢さんが立ち上がる。
「じゃあ、俺達も帰るか」
土方さんが立ち上がると同時に、僕、山南さん、左之さん、源さんも立ち上がる。
「お前らも帰るのか?じゃあ、俺も」
新八さんが立ち上がろうとすると、一君が喋り始めた。
「いや、俺と新八、平助は待機だ」
「え?」
「副長からの命令だ」
うまく誤魔化せるといいね、一君。
外で待機をしていた雷丸の姿が見えた。
「行くぞ、九尾」
「はい」
雷丸は夜になると人が変わるようだ。もういつでも人を斬ってもいいって顔してる。ある意味、僕もだけど…
「雷丸、大丈夫?血が怖いんでしょ?」
でも、僕は雷丸が心配で仕方がない。
「見えなければ問題ないよ」
「でも、気をつけてよ」
「うん」
喋っているうちに、屯所の近くにいた。
「いいか、灯りが消えたら行くぞ」
「「はい」」
「雷丸、面つけな」
「うん」
雷丸は横につけていた狐の面を自分の顔の前に持ってきた。
灯りが消えた。いよいよだね。
「いくぞ」
僕達は配置に着いた。左之さんは入り口、源さんは部屋の前の庭の茂みの中、僕と雷丸、土方さん、山南さんは部屋の前、これで、芹沢を斬る。
そして、芹沢鴨、八木邸で死す。
僕達は新選組の中の組織、『手偏の新撰組』をつくった。