第四幕 浪士組から新選組へ
見事、入隊をすることができた雷丸。しかし、ある日、近藤局長に皆が呼び出された。果たして、皆が呼び出された理由とは?
浪士組に入った、九尾一族二十九代目、九尾雷丸。って、俺の事なんだけどな…狐が狼と同居だなんて、聞いて恐ろしいと思うだろう。でも、それはただの人間の思い込み。俺だったら、聞いて呆れる。ただ、俺はもう帰る家がないだけ。今日からここに住むことになる。そして、浪士組になったというわけだ。おっと、さて、本題に戻るとするか。
俺達は近藤さんに呼ばれて、『道場』に着いた。
「みんな来たようだな。歳もすまないな」
「謝らないでくれ近藤さん…」
土方さんはため息をついた。
「ほお、皆集まっているようだな」
遅れて、偉そうな人が入ってきた。
「何?あの偉そうな人」
隣にいる沖田に言った。
「芹沢鴨、浪士組の局長だよ。ま、僕は嫌いだけど」
沖田は口は笑っていたけど、目は笑ってはいなかった。それだけ、芹沢さんが嫌いなのだろう。俺もなんか、ああいう人は嫌いだ。人間の中で一番。
「芹沢殿。あなたにぜひ、会って欲しい人がいまして…」
「ほう。それは誰かな?」
芹沢さんは座布団の上に座りながら、近藤さんの方を向いて言った。
「雷丸。ちょっと…」
近藤さんは俺に手招きをし、それに誘われて、近藤さんのいるところに向かった。
「芹沢殿。新しく浪士組に入った、九尾雷丸君です」
「九尾一族二十九代目、九尾雷丸と申します。以後、お見知りごきを」
芹沢さんの前で俺は頭を下げた。
「九尾一族?伊賀の狐か。笑わせる」
芹沢さんはフッと笑い、鉄扇を俺に向け、殴ろうとした。殴るなら殴れ。親父に木刀で殴られるのが、日課のようなものだったからな。鉄扇なら、虫に刺されたようなものだ。芹沢さんが叩こうとしたその時、土方さんが鉄扇を持っている芹沢さんの腕を止めていた。
「芹沢さん。相手は子供だ。暴力は控えてくれ」
「ふん…土方。なぜ、そんなに怒っているのだ?」
芹沢さんが土方さんに訊ねた。
「芹沢さん。コイツはまだガキだ。だが、隊士が増えるのに叩くことはねぇだろ?」
「俺はなぜ怒っているのかを聞いている」
面倒くさくなってきた。もう、心の中では芹沢と呼ぼう。芹沢はもう一度土方さんに訊ねた。
「俺はあんたの態度に怒っているんだ!」
土方さんが怖い顔で言った。確かに、芹沢の態度は気に食わない。
「そう、怒るな。少し、からかっただけだ」
「九尾。場所に戻れ」
土方さんに言われるがまま、俺はさっきまで自分がいた場所に戻った。
「大丈夫?怪我してない?」
隣にいる沖田が言った。相変わらず心配性な奴だ。
「土方さんのおかげで、大丈夫だよ。平気」
笑って沖田に言った。
「よかった」
沖田はそう言いながら、俺の頭を撫でた。
「子供扱いするな!」
俺は沖田の手を払った。
「ごめん」
沖田は笑いながら言った。いつも、沖田に子供扱いされる。それだけ、俺が大切なんだろう。
「話をしてもいいかな?」
近藤さんが俺達を見ながら言った。
「すみません、近藤さん」
沖田が謝った。
「では、集まらせた理由は二つある。一つは、新しく入隊した、雷丸君の紹介だ。雷丸君、自己紹介を」
近藤さんが言った後、俺はみんなの方に体を向けた。
「九尾雷丸です。よろしくお願いします」
「よろしくね、雷丸」
また、沖田が俺の頭を撫でる。
「だから、子供扱いするな!」
俺がそういうと、部屋中が笑いに包まれた。
「雷丸は見た目が子供だからな」
原田がそういうと、また、部屋中が笑いに包まれた。人間たちは俺を完全に子供扱いしている。腹が立つ。俺より、剣術は弱いくせに…
「まあ、そういうことだ。みんな、仲良くしてやってくれ」
近藤さんが鶴の一声のように言った。そしたら、笑いが一瞬にして消えた。やっぱり、近藤さんはすごい。
「もう一つは会津藩の松平容保殿から、この前の戦で好評を受けた。その礼として、新しい名をもらった」
近藤さんが持っていた半紙を開いた。そこには『新選組』と書かれていた。
「この名は会津藩にあった優秀な組の名だそうだ。これより、浪士組は新選組となる!」
重大なことだった。『壬生狼』と呼ばれていた沖田達。『呪いの狐』と呼ばれていた俺。会津藩が変えてくれた。『新選組』、かっこいい名だな。これからこの名を背に、俺たちは京の町と幕府を守る。だけど、俺はこの時、まだ知らなかった。あの三人がとんでもないことを考えていることを…