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狐と狼  作者: 黒崎 真琴
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第二幕 孤児になった夜

浪士組の沖田総司に会った主人公『九尾雷丸』。沖田と仲良くなり、京で初めて仲がいい友ができた。しかし、時が過ぎるのもあっという間、町は綺麗な夕日に埋め尽くされていた。

 これは、沖田と別れた後の悲劇の話…

 町の夜。俺は今、全力速力で走っている。なぜ、こんな状況なのか、事の起こりは数時間前の事だ。


 沖田と別れ、家に入ると両親がまた喧嘩していた。俺のことで揉めていた。九尾一族の血を受け継いでしまった俺をどうするか揉めていた。器の小さい奴らだ。おかげで、寝付けない状態だった。明日も、沖田と京の町を案内してもらうため、今夜は早く寝たかった。このままでは、近所迷惑になると思い、喧嘩を止めるために、襖を開けた。

「ちょっと、親父たち。いい加減に…」

開けた途端、真っ先に目に入ったのは、月明りで光る親父の刀の剣先だった。それは、母さんの頭上にあり、光が母さんを真っ二つに切り裂いた。大量に血が舞う中、俺は体が震えていた。親父がどんどん近づいてくることに気がついた。

「やめて…殺さないで…」

震えた声だ。自分の声なのに聞いて呆れる。だが、これが現実だった。その後、剣先は親父の腹にあたっていた。そのまま、親父は腹を刺し、前に倒れた。俺は体が震えたまま、家を出た。島原の方から歩いてくる浪士が見えていた。その浪士に今、追いかけられている状態だ。


そして、現地に至る。相手は筋金入りの殺し屋。捕まったら、ひとたまりもない。当り前であろう。だから俺は、全速力で走っているのだから。だが、俺にも体力の限界がある。もう走れないという、状態寸前だ。いや、もうなっているか…

「覚悟しな、小僧」

浪士たちは刀を抜いていた。俺も刀に触れた。

「おい、小僧。そんな手で刀を振るえるのか?」

「っ!」

俺は手が震えてることに気がついた。確かに、真剣を一度も使ったことがないため、怖がっているのだ。『刀を振るう』ということに。

「覚悟はできたか、小僧」

その言葉で俺は固まった。浪士の一人が刀を振るい上げていた。俺は死を覚悟した。しかし、俺を殺そうとした浪士が前かがみで倒れた。月明りで輝く、剣先が見えた。俺は視界が暗くなった。

 眩しい光が、俺を起こす。目を開け、入ってきたのは見知らぬ天井。頭が痛い。体が思うように動かない。

「目が覚めたようだな。大丈夫か?目立った外傷はなかったけど」

声のする方に頭を向けた。俺ぐらいの青年がいた。

「沖田…?」

「総司のこと知ってんのか?お前、ただものじゃなさそうだな」

俺は体動かそうとした。その時、どこかは知らなかったけど激痛が走った。

「痛っ!」

「あんまり動かさない方がいいぜ。打ち身が酷かったからよ」

「この包帯、あんたがやってくれたのか?すまない。えっと…」

「俺は藤堂平助。平助って呼んで」

「俺は九尾雷丸」

「九尾?九尾一族か?」

「知ってるのか?」

「うん。土方さんから何度か聞いたことがあって…あ、忘れてた。あんたが目を覚ましたら、連れて来いって言ってたな。行こうぜ。多分、みんな集まってるからよ。立てるか?」

「うん。その前に、着替えたい」

「分かった。部屋の外で待ってるからな」

「うん」

俺は着替えを早く済ませ、平助について行った。

「すまない、土方さん。遅くなってよ。さあ、入ってこいよ」

平助の声に誘われて、俺は部屋に入った。見てみれば、居合が強そうな人ばかりだ。

「で、そいつが襲われていたのか?」

「ああ。一君の話しじゃそうなんだろ?」

「すまないが、一つ聞きたいことがある」

俺に話しかけてきたのは、見たところ、左構えの人だ。

「何ですか?聞きたいことって」

「お前は何故、血まみれだったのだ?」

一番聞かれたくないことを聞いてきた。この人は…なんなんだ?

「答えたくなければ、答えなくていい」

「えっと…」

喋ろうとしていた時、後ろの障子が開いた。

「ちょっと、入口の前にいたら邪魔なんだけどって…雷丸?」

入ろうとしていた人は沖田だった。

「沖田!!」

沖田がこんなとこにいるなんて、思ってなかった。

「何だ、総司。知り合いか?」

「はい、土方さん。昨日の昼ごろに会ったんです」

沖田は少し笑っていた。

「さあ、早く座ろ」

「うん」

沖田と一緒に部屋の奥へ行き、彼の隣に座った。

「じゃ、あんたの名前を教えてもらおうか」

前にいる三人の中の一人が怖い口調で言った。

「歳、言い方が怖いぞ。で、君の名前を教えてくれないか?できれば、出身も」

真ん中に座っている人が言った。

「九尾一族二十九代目、九尾雷丸です。伊賀から来ました。出身も伊賀です」

俺がそう言うとざわめきが起こった。

「呪われた一族…ですか…」

俺から見て、左の眼鏡をかけた人が言った。

「俺は局長の近藤勇。こっちは、副長の歳…土方歳三。こっちは総長の山南敬助だ」

つまり、この三人が一番偉い人だということだろう。近藤さんが喋り終わった後、土方さんが喋り始めた。

「近藤さん。あんた、喋りすぎだぜ…」

呆れ顔で言った。笑いが起こり、再び、喋り始めた。

「で、あんたは不定浪士襲われそうになったところに斎藤が浪士たちを切り、気を失ってしまったからそのまま、ここに運ばれたって訳だ」

土方さんの説明が分かりやすく、すぐに納得した。

「ありがとうございます」

「お礼なら、斎藤に言え」

斎藤さんって誰だろ?

「一君はあの人だよ」

沖田の指差す方を見たら、左構えの人だった。

「あの、ありがとうございます」

「礼などいらない」

「で、斎藤の話によると、お前は血まみれだったそうだが、なぜなんだ?目立った外傷はないしな…」

言えない。言えるわけがない。あんなものを見てしまったから…言うのが怖い…

「雷丸。言っていいよ。ああ見えて、土方さん優しいから…ね?」

隣で沖田が励ましてくれた。

「父が母を殺し、父はそのまま、腹を切りました…」

空気が一転した中、山南さんが

「つまり…孤児というわけですか…」

悲しげで分かりきった声で言った。

「さっきの話、本当?…雷丸」

俺は涙をこらえながら、首を縦に振った。

「土方さん。僕にいい案があります。雷丸を浪士組に入れるというのはどうでしょう?」

え?

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