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別れ

 私はその時、二階から外を眺めていた。ふと視線を門扉の方にやると、そこに彼がいた。


「嘘……。」


 私は近くにあったコートを引っつかみ、慌てて階段を下りる。


「どうして!」

「……。」


 彼は黙って私を見詰め、そして、静かな声でこう告げる。


「今日、ここを発つんだ。」

「――っ!」


 話は聞いていた、彼がここの地を去る事を、だけど、ついさっきまでの私には実感などなかった。


「……本当なんだね……。」

「……。」

「……。」


 沈黙が二人を包み込む、そして、その沈黙を破ったのは彼の方だった。


「じゃあな。」


 時間なのか彼はそんな言葉で済ませようとしたが、私はそんな事を許せるはずがなかった。


「待って。」


 私の声で彼の歩みが止まる。


「私見送っても良い?」

「……勝手にしろ。」


 冷たい言葉に、私の心は傷付くが、それでも、長い間一緒にいた私には彼の心が分かっていた。

 彼もまた私と同じで別れが辛いのだ、だから、自ら距離を取る言葉ばかりを選んでしまう、私はそれを知っていても、辛かった。


「……勝手にするわ。」


 彼はそのまま駅の方へと足を向けた。

 私は黙って彼の後を追った。


「……。」

「……。」


 無言のまま私たちは駅へと向かう。

 そんな中私は彼との思い出を思い返す。


(沢山…沢山色々な約束をしたわね……。)


 春は桜の花を見ようね。

 夏は花火を一緒にしようね。

 秋は紅葉狩りに行こうよ。

 冬は――。

 私はふと周りを見て、自然と微笑んだ。


「ねえ……。」


 彼は私を見ないが、彼の意識が確かに私の方を向いている気がした。


「いっぱい、約束したね。」

「……。」

「いっぱい約束した…だけど、どれも叶わなかったね。」


 そう約束をしたけど、互いに忙しく、どれも実行する事ができなかった。

 今までの私はそれが叶うと信じてきたが、もう駄目なんだ……。


「だけど……。」


 私の歩みが止まり、目の前がぼやけて見えた。


「一つだけ……。」


 笑え、笑え、と私は念じた。

 顔を上げ、私は泣き笑いを浮かべた。


「雪が見れたね。」


 昨夜積もった雪が所々に見えた、本来の約束は静かに降る雪を見たかったのだが、残念ながら現実は人に踏まれ灰色に変わった雪だった。


「………。」


 彼は無言で足を止めた、そして、私と目が合い、悲しげに頷いた。


「ありがとう。」


 私が礼を言うと彼は目を見張った。


「ありがとう、私を選んでくれて、そして、いってらっしゃい、私応援しているよ。」


 彼は何も言わず頷き、そして、私から離れていく。


「……。」


 私はもう彼と歩む事が出来なかった。

 視界は歪み、頬に熱い雫が滴る。


「ふ…え………。」


 本当は一緒にいたかった。


 同じ未来を歩みたかった。


 だけど、もう叶わない……。


 大好きだった貴方……。


 もう会えない貴方……。


 さよなら――。


 ごめんなさい――。


 ありがとう――。


 大好きだよ…愛しているよ……。


 だけど、もう私は貴方に言葉を言えない。


 遠く離れる貴方……私は貴方を待たせてくれはしないのね。


 あの春の日に出会い…そして、この冬に別れた。貴方は私の一番大切な人――。

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