約束
私と彼が付き合い始め、あっという間に半年……なのに…。
「…あんた本当に付き合ってるわけ?」
「……ううう。」
私は友人に相談したらそんな事を言われ、机にうつ伏す。
「だって、先輩だって忙しいんだよ?」
「そりゃね、年上だしね。」
「だよね……。」
「それでも、約束の一つも取り付けられない訳?」
「だって……、先輩見てたら誘えないよ……。」
「は~、付き合いだしても、こんなんだとは予想もしていなかったわ。」
呆れたような友人の声に私は危うく涙をこぼしそうになる。
「知らないわよ!私だって出来たら……。」
「出来たら?」
「…………………くらいしたいわよ。」
「ふ~ん、キスくらいはしたいんだ。」
私が折角聞こえるか聞こえないかの音量で言った言葉も友人の大きな声で教室中に響き渡る。
幸いにも私たちしかいないので誰も聞いていなかったからよかったけど、誰かが聞いていたらどうするのよ…馬鹿~!!
「で?」
「で?って何よ?」
「奥手のあんたはどうしたいの?」
「…わかんない。」
「は~、ここまで来ると生きた化石ね。」
「えっ?」
友人は意味の分からない事を言って、席を立つ。
「じゃ。」
「へ?」
「またね。」
唐突に去ろうとする友人に私は硬直する。
普通もっとアドバイスとかくれるよね???
って、本当に言ってしまうの??
え、え、え……。
うわあああああぁぁぁぁぁぁん!薄情者~~~~~~~~~~~~っ!
私は再び机にうつ伏し、そして、初めて先輩にデートの申し込みをしようとした時の事を思い出す。
あの時は確か…そう、そう、観たい映画があって、それで、一緒に見に行きませんか?と訊いたんだっけ?
で、彼は……その日に用事が入っている。と素っ気ない返事……。
駄目だ…自信がなくなってきた…。
いや、そもそも、私たち本当にお付き合いしてたんだっけ?
現実逃避をし始める私の頭にポンと教科書が乗せられる。
「えっ?」
「どうした、ぼんやりして。」
「…………………………先輩ぃぃぃぃぃぃぃっ!」
あっ、危ない…危うく椅子から落ちかけた。
……でも、何で先輩がここに?
「……お前の友人から聞いた。」
「えっ?」
「悪かったな、誘ってくれたのに全部断って。」
「で、でも…先輩…忙しいし……。」
「言い訳にもならないだろう。」
「……ふえ…。」
「本当にお前って泣き虫だな。」
ポンポンと頭を手で優しく叩かれた。
「せん…ぱい……。」
「悪かった、不安にさせたな。」
「うええ……。」
私は涙を流した、これで何度彼に私の泣き顔を見られただろう、だけど、それでもよかった、彼の前でなら、私は泣く事ができるのだから。
「…なあ、お前は何がしたい?」
「私は……。」
いっぱい、いっぱいやりたい事があった。
だけど、その中で約束したいのは――。
「春は花見、夏は花火、秋は紅葉狩り、冬は雪を見たい。」
「そんな安上がりな事でいいのか?」
「うん、だって、四季を全部見るためには最低一年は一緒にいてくれることになるもの。」
「……。」
彼の瞳がほんの少し見開かれた。
ずっと一緒に居たい。
そばにいたい。
だけど、彼は忙しい、そして、私も忙しくなる。
だから、私は彼と約束を交わす。
「一緒に見ようね。」
「ああ。」
私は嬉しかった。だって、貴方とずっと一緒にいてもいいという許可を得たのだから。
自分でも単純だと思うけれど、彼を想うから私は彼の行動一つ一つに一喜一憂しちゃうから、だから、お願い、私を離さないで。
ずっと、ずっと側に居てね……。