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出会い

 薄紅色の花が咲き誇る季節、私は新鮮な気持ちで大学に入学した。

 真新しいスーツを着込んだ私はどこかスーツに着られているような気がしながらも、それでも、これから始まる大学生活に胸を躍らせていた。


「…って、ここどこだろう。」


 ポツリと建物と建物の間の道で私は悲しい事に迷子になっていた。


「ど、どうしよう……。」


 始めてみる建物に私は戸惑いを隠せなかった。


「………。」


 私は何とかして講堂に行く道を探そうとするが、何処にも人はいないし、看板もなかった。


「……うっ……。」


 迷子になった心細さからか私の目から涙が零れ落ちた。

 誰もいない。

 誰も私の事なんか探さない。

 恐い。


「そこに誰かいるのか?」


 声が聞こえた。

 低く男性の声だった。

 私は顔を上げた。そして、私の視界に一人の私服姿の青年がいた。


「……。」

「……。」


 私と彼は見つめあった。それは長い間のような、一瞬のようなそんな時間だった。


「……はぁ。」


 唐突に彼は溜息を吐いた。私は怖くなってビクリと肩を震わせた。


「お前、新入生だろ?」


 私は声が出せそうにもなかったのでしっかりと頷いた。


「そっちに講堂はないぞ、反対側だ。」

「――っ!」


 私は思わず目を見張っていると彼は呆れたような溜息を一つ吐いた。


「このままじゃ、完全に遅刻だな。」


 彼は顔を上げ、上にあった時計を見て肩を竦めた。


「う、嘘……。」


 私も慌てて顔を上げると、確かに始まる時間の五分前だった。


「ど、どうしよう……。」


 オロオロとしている私に彼は溜息を一つ吐いた。


「仕方ないな……。」

「えっ?」

「こっちが、近道だ。」


 彼は行き成り私の手首を掴むと一気に建物の中に入っていき、突き進む。


「えっ…えっ……。」

「黙ってろ。」


 彼はたったそれだけ言うと、速度を速めた。


「――っ!」


 あまりの速さとなれないパンプスの所為で私は躓きそうになりながらも、何とか彼に追いつく事が出来た。

 そして、いつの間にか私は講堂の前にいた。


「あ、ありがとうございます!」

「ん。」


 私は頭を下げると、彼は軽く手を振り、さっさと私の前からいなくなろうとした。


「あ、あの!」


 私はこのまま彼がいなくなってしまうのが嫌だと思った。だから、ありったけの勇気で彼を呼び止めた。


「何だ?」

「ま、また会えますか?」

「……ボランティアサークル。」

「え?」

「そのサークルに入れば会える。」


 私はその言葉に喜びを感じた。


「はい!絶対入ります!」


 彼は苦笑を漏らしながら、私の目の前からいなくなった。

 だけど、先程の寂しさなどなく、また会ってもらえるという喜びが私の中の大半を占めた。

 その時は気付かなかったが、私は彼に恋していた。

 あの時は気付かなかったが、それも、確かにこの時恋という芽が芽吹いたのだ。そして、その芽ははっきりと育っていった。

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