プロポーズする日
一面に濃く群れ咲くお花畑。
幼いころに、同年代の少女に彼は花冠を送った。
少女は笑った。屈託のない笑みで。睡蓮の花のように綺麗な花弁を持つように。
彼はそれが誇らしかった。胸を埋めるのは、寝覚めのいい朝の幸福感が押し寄せるようなものだった。
小学生のころ初めてバレンタインデーで貰った手作りチョコレートも幼馴染からだった。それが六年間続いたのは忘れない。そして、中学生にあがって市販品に格下げになったのも忘れない。思春期の悪戯は二人を遠ざけた。もう戻れないのかもしれない。少年にはそれが徐々に溶けていくキャンドルのように感じられた。あれだけ二人は大丈夫だと思っていたものがドロドロに溶けていく。形をなくしてどこかへいっていた。
高校に入って二人はまた舞台を同じにする。
でも、お互いの笑顔はにかんだままだ。幼馴染はテニス部として活躍して、次第に男子生徒の注目を浴びていた。実際に風の噂で何人かの男子生徒が玉砕したという話は聞いたことがある。
彼はうだつが上がらないまま時を過ごしていた。だが、幼馴染が偏差値の高い大学を志望していることを知ってからは、勉強に勤しんだ。完全に邪念だったが、それでもすがりつかいたかった。まだ彼氏がいないなら俺にもチャンスはあるはずだ。彼はそう思っていた。
大学に合格発表時、胸は張り裂けそうだった。自分の発表番号と、喜び声をあげる彼女の姿を見て、俺にも受験時の興奮は最高潮に立ち上がった。
そして、大学では彼女の所属している文学サークルに入った。高校に入ったころのわだかまりはもうほとんど残っていなかった。精神年齢が大きくなったのだろうか、彼のことをみて遠ざける雰囲気はなくなった。いや、むしろ距離は近くなった。普通の話を、勇気を持って彼は話した。縮まる距離。いつしか彼と彼女は恋人関係になった。幸せの日々だった。
そして、四年の月日が流れて、彼は結婚式場にいた。
参列者として並ぶ君、花嫁はよく知っていた顔だった。彼女はブーケを投げてそのままハネムーンに向かった。彼は式場のトイレに駆け込んだ。そして涙を流した。まさか、こんな日がまさか来るなんて予想だにしなかった。
ふと男子トイレの便器の外からノックが鳴り響いた。
「なえ、なんでそんなに泣くかな」
女性の声だった。
「だって、お前が他の人と結婚するイメージしたら」
「私が結婚って、一卵双生児のそっくりな姉が結婚しただけじゃない」
「そういわれても、顔が似てるから」
「だからと言って泣くかな。私と姉の判別つくくせに」
「うるせえな。イメージしてしまっただけだよ」
呆れるようなため息を彼女はついた。ついていけないそんな感じだった。
いつかプロポーズする役目は俺でありたい、他人に盗られる前に。彼女と一緒に幸せを共にするために。




