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『クリスマス』


「はっ!?」


白羽が唐突になにかに気がついた顔をする。


「どうした白羽っ!?」

「もうすぐクリスマスだよ怜斗君っ!」

「なぜ今それをっ!?」


怜斗がそう思うのも無理はない。

なぜなら、今ふたりは任務中であり、絶賛悪霊と戦闘中である。

悪霊の攻撃にさらされる中でそんなことに気がついた白羽は、任務そっちのけでクリスマスの妄想を始める。


「ああ…怜斗君との初めてのクリスマス…。楽しみだなあ…。」

「いいから…後で聞くから…白羽、早く支援を…。」


怜斗の死にそうなつぶやきではあるが、毎度のごとく白羽は妄想を始めると人の話を聞かない。

そんなお荷物(しらは)を抱えた中、怜斗は必死に戦うのであった。

だが、やり取りや距離感がリア充爆発しろって感じなので、必死の戦闘シーンは飛ばしてやろうと思う。

ざまあみろ。




―戦闘後―


「えへへー、怜斗君ったらっ!」

「はあっ…はあっ…。」


妄想に浸ってつやつやした顔の白羽に対し、死んだような顔の怜斗。


「なんだろう…。俺のこの死闘が一切伝わってない気がするんだが…。」


怜斗がキッと空の方を睨みながらそういう。

本当に爆発させなかっただけましだと思っていただきたい。奴らの生殺与奪の権利がどこにあるのか理解してもらう必要があるなっ!

と、悪寒がしたかの様に怜斗がぶるっと身ぶるいをする。


「なんだ…?これ以上突っ込んじゃいけない気がしてきた…。」


そういうと、怜斗は何かに気がついたようにポケットをまさぐる。


「ああっ!?戦闘後に食べようと思ってた黄泉饅頭がないっ!?」


黄泉饅頭とは、黄泉にある和菓子屋『黄泉屋』の銘菓であり、黄泉土産の定番であり、非常に美味である。

黄泉土産とはこれいかに。ってか黄泉黄泉うるさいなっ!

しかし、怜斗の黄泉饅頭はどこにいったのだろう、モグモグ。


「うへえ…。戦闘中に落としたのか…?ショックだ…。」


心底落ち込んだようすの怜斗に、白羽が無邪気に話しかける。


「そんなことより怜斗君!クリスマスだよクリスマス!!」

「ああ…そうだな…。」

「黄泉にもクリスマスってあるのかなあ…?私、楽しみ!!」

「ああ…そうだな…。」


怜斗は、黄泉饅頭ショックから抜け出せないようである。





そんなこんなで、迎えたクリスマス。

黄泉の街もイルミネーションに包まれ、きらびやかな印象になっている。


もちろん、黄泉の本部も飾り付けられてクリスマスパーティーの準備が整い、食堂に黄泉の運営にかかわる全員が集まっていた。


『みんなーっ!メリークリスマース!!黄泉本部の忘年会&クリスマスパーティー始めるよー!!』


食堂に設置された舞台の上で、アイが乾杯の音頭をとる。


『一年お疲れ様ーっ!かんぱーいっ!!』


『かんぱーい!』と食堂全体から声が上がり、カチンッという音が響きわたる。


「かんぱーいっ!!」

「かんぱいっと。」


怜斗と白羽も、コーラで乾杯する。

周りのテーブルには、チキンなどの料理が所狭しと並べられている。


「どれ食べようかなー…」


白羽が涎を垂らしそうになりながら料理を物色している。


「もう全部食べちゃおっ!!」


選ぶのをあきらめたのか、白羽は目についたものをかたっぱしから食べ始める。


「あんま食い散らかすなよ…?」


その食べっぷりに、怜斗はジト目でそう呟く。


「あら?怜斗さん、白羽さん。」


と、そこに現れたのは桃華だ。

今日はムードをぶち壊していない。


「ふぁ!ふぉふぉふぁふぁん!」


それに気がついた白羽が、物を食べているとき特有のハ行語で桃華に話しかける。


「白羽さん…。ものを口にいれたまま喋らないでくださいまし…?」

「ごっくん!桃華ちゃんもかんぱーいっ!」

「乾杯ですわ。」


カチンとグラスを鳴らした直後、白羽がふと疑問を口にする。


「そういえばスサノオさんは?」

「確かに、いないな。」


その疑問に、桃華が答える。


「ああ、クリスマスパーティーにスサノオ様は来ませんわよ?」

「どうして?」

「噂だと、毎年この時期は寝込んで、『他の神の誕生日なんて祝いやがってー!』ってうなされてるらしいですわ?」


桃華が、毎度のごとく妙にうまい声真似でそう言う。

すると、白羽は何かを思い出したかのように手を打った。


「あ、そっか。そういえばスサノオさんも神様だったね。」

「忘れてたのかっ!?」


白羽はどうやら自分の上司がどんな存在だったのかさえも忘れていたようである。


「アイちゃんは何か知らないのかなあ…?」


白羽がそう呟くと、机の影からヒョコッとアイが顔を出す。


「困ったらスサノオお兄ちゃんの部屋に行ってみない??アイもよくわかんないんだよねー。」



アイの言葉に同意し、怜斗、白羽、アイ、桃華の4人は本部の最上階のスサノオの部屋に向かった。


「スサノオさーん!いますかー!!」


白羽が扉をノックしながら叫ぶ。

すると、ドアの中から返事が来る。


「うっせー!お前らは勝手にパーティーでもしてろよっ!」


『なんか拗ねてる…。』


全員の意見が一致した。


「どうしたんですの?スサノオ様。パーティー楽しいですわよ?」

「そうだぞ!料理もうまいぞ!!」


と、その言葉が火に油を注いだように、スサノオがさらに叫ぶ。


「俺は梃子でもここから出ねえぞ!!ふーんだ!ほかの神の誕生日なんて大々的に祝いやがって!!」


その言葉を聞いて、4人は円を作ってこそこそと話す。


「どうしよう。なんか怒ってるぞ?」

「お腹すいてるのかな…。」

「いや、たぶん違うぞ白羽。」

「しかしまずいですわね…。これではまるで天の岩戸ですわ…。」

「それなら、楽しいことすれば出てくるんじゃないっ??」

「じゃあ怜斗君っ!」



アイのその言葉に、白羽がキラキラとした目を怜斗に向ける。



「な、なんだその目は…。」


嫌な予感をひしひしと感じつつ、怜斗はその案を聞く。



―数分後―


「わあっ!スサノオさんスサノオさん!すごいよ!怜斗君がハゲズラ髭メガネでアラエッサッサーって腹踊りをっ!」


白羽プロデュースによる怜斗の腹踊りである。

アイと桃華は隅の方で腹を抱えて笑っている。



「アラエッサッサ、アラエッサッサーッ!!」


怜斗は泣きそうである。



楽しげ(?)な雰囲気に、扉の向こうからは何か出てきたそうな空気が出てくるが、どうやら断腸の思いで耐えているようだ。


「で、出ないからな!ほかの神の誕生日なんて大々的に祝いやがって!俺の力が弱体化するじゃねえかっ!」


どうも、スサノオはそこを強調したいようである。

と、アイが何かを思いだしたような顔をする。


「あ、スサノオ様もクリスマスが誕生日だ…。」

『えっ!?』


その言葉に、3人は驚愕する。


「そ、そうなのアイちゃん!?」

「そういえばわたくし、スサノオ様の誕生日を知らなかったような…。」

「それでほかの神の…とか言ってたのか…。」


口々にそう呟くと、スサノオの部屋に向けて声を出す。


「き、今日がスサノオさんの誕生日っだって知ってますよ!」

「そ、そうだぞ!それも祝うにきまってるだろ!!」

「プ、プレゼントもありましてよ!!」


その言葉につられて、スサノオが部屋から顔を出す。

ちょっと涙目だ。


「ほんとに?」


拗ねて退行したようなその顔は威厳のある神のそれではなく、どこかかわいげがある。


『ほんとです!』


その言葉に安心したのか、スサノオは笑顔で出てくる。


「そ、そうだよな!自分の仕える神の誕生日を忘れるわけないよな!!」


安心したようなスサノオを連れて、怜斗、白羽、桃華の三人はエレベーターへ向かう。


そんな3人に、「プレゼント用意しておくねっ!」と念話を送り、アイは別行動をとる。


「やっぱあの顔のスサノオ様はかわいいなあ…。毎年記憶操作してみんなに誕生日を忘れさせてるかいがあるね!あまりにも可愛いからやめられないんだよねー。今年は怜斗お兄ちゃんの腹踊りもみれたしねー…。来年もやろっと!」


アイが唐突に独り言をする。って犯人お前かっ!!

霊能力の無駄遣いをする、Sっ気のあるアイちゃんであった。


そしてこの言葉から察するに、スサノオは毎年誕生日を忘れられている。


かわいそうだ…。






そんなこんなでパーティー終了後、白羽は部屋でまったりしていた。


「なんとかスサノオ様も喜んでくれたし…。いいパーティーになってよかったあ…。」


と、部屋のインターホンが鳴る。


「開いてるよー!」


そういうとドアが開き、入ってきたのはやはり怜斗であった。

怜斗は部屋に入るやいなや、サンタ服で腹踊りを始めた。

意味がわからない。


「ぷぷっ。怜斗君…なにその恰好…。」


白羽は笑いをこらえながらそう言う。


「い、いや…。これはだなあ…。」


怜斗が、真っ赤になりながらポケットをまさぐる。


そこから出てきたのは、ネックレス。

黄泉にある宝石店『黄泉屋』のネックレスである。良品がそろっており、カップルにとても人気の店である。

ってか黄泉屋どんだけあるんじゃい!


「め、メリークリスマス…。白羽。」


これでもかと真っ赤になりながらうつむき、ぶっきらぼうにそれを渡す。

意味不明な恰好は照れ隠しだったようだ。その照れ隠しの方が恥ずかしい気がするのはこれいかに。


それをみて、白羽はパっとうれしそうな顔になる。


「怜斗君!つけて!!」

「えっ!?」

「つーけーてー!」


自分の首を指差して笑顔でそういう。


白羽の様子に観念したのか、怜斗は白羽の後ろに回り込み、腕を白羽の首に回すようにしてネックレスをかけ、首の後ろでとめて着けた。

それが、白羽を抱きしめているかのようで、怜斗はかなりドキドキした。

初心うぶなのだ、彼は。


「で、できたぞ…。」


怜斗に背をむけたまま、つけられたネックレス手ですくってうっとりと見つめ、白羽は幸せそうにほほ笑む。


「ありがとっ!」


そして、クルッと怜斗の方を見て目をつむると、怜斗に軽くキスをした。


「な…ななな…。」


すると、ボンっといった表現が適格だろうか。怜斗は耳まで赤くなる。


「えへへ、しちゃった…。」


頬を赤らめてそう呟くが、放心してもはや何も聞こえていないような怜斗の様子を見て、満面の笑みで怜斗に飛びつき、抱きつく。


「怜斗君!大好き!!」



こうして、聖夜は更けてゆく。

重ね重ねであるが、末永く爆発しろである。





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