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キャラクターメイキングで異世界転生!  作者: 九重 遥
6章 何かを試され、獲得する何か
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聖霊様に会う

 魔法陣に飛ばされること三度。

 最初は通路、次は大広間、そして最後はとある部屋だった。

 いや、部屋というより執務室だろうか。

 20畳以上ありそうな広い空間、奥側には幅広いデスクが設けられて、その正面には向かい合わせのソファーが並んでいる。

 また壁際にはこれらを囲うように本棚がびっしりと隙間なく敷き詰められていた。

 屋外に面する一面はガラス張りとなっており、そこから見える青空は綺麗だった。


「え…………」


 ゴーレムとの戦場からいきなり、格調高い文官のような部屋に切り替わって気持ちがついていかない。それに地面はふかふかの絨毯で、地についた足の感触が気持ちを浮つかせる。

 武器を持っている俺達が酷く場違いに思えてしまう。


「ん………」


 その部屋の主だろうか、デスクの椅子、それも社長が座るような立派な椅子に座って本を読んでいる女性が俺達をチラリと見て、


「…………」


 すぐ興味を失ったのか本へと視線を戻した。

 ペラリとページをめくる音が部屋に響く。


「え…………?」


「ん…………?」


 思わず、リンと顔を見合わせる。

 あれは、聖霊様?

 わからない。

 無言のまま視線で情報交換をする。

 あの人に声をかけるのが躊躇われる。

 相手はきっと俺達より上位に属するもの、不評を買ったらまずいという判断もある。

 いや、それよりも……。


「聖霊様、アポロさんをお連れしました」


 案内人が見かねたのか、声をかける。

 その声に、女性は、


「……待ってくれ。ちょうどいい所なんだ」


 と本から視線を外さずに答えた。

 女性は聖霊様であっていたらしい。聖霊様と言っても人間の女性と変わらないのに少しの安堵と拍子抜けが。何か凄いオーラとか放っていると思った。精霊魔術を使うエルフ達が崇める存在なのだから。


「…………」


 待てと言われたら、待つしか無い。

 することもなしに本を読んでいる女性をじっと観察する。

 女性は肩まで届く黒髪を中央から左右に分けた髪型で、分けられた髪から覗く白い額が印象的だった。切れ長の瞳と利発的な赤縁の眼鏡が相まって知的な印象を醸し出していた。

 言うなれば、委員長属性。

 吊り上がった目は規律に厳しく、理性を重んじ秩序を順守する雰囲気を抱かせる。


「…………」


 ごくりとツバを飲み込む。

 見える印象に圧倒されたのか、話す前から緊張が高まる。

 ペラリとまたページがめくられる。

 直立不動の俺たちを気にすること無く、女性は本を読み続ける。本と言ったが、本は本でも百科事典の大きさだろうか、両手で抱えてあまりある大きさの本を女性は苦もなく腕に抱えながら読んでいる。

 ペラリ、ペラリとページをめくる音だけが部屋に響く。

 その間、ずっと俺たちは何もすることもなく立ち続けている。

 時間が経てば、最初の緊張感も薄れていき思考の海へ沈んでいく。

 開かれている本のページ数から察するに、女性の読んでいる本はまだ中盤。読み終えるまでどのくらい時間がかかるのか。いや、切りの良い所と言ったから全ては読まないのか。そして、なぜ、本を読んでいるのか。案内人の言葉と今の状況。

 と、とりとめもないことを考えていると服の袖を引かれる感触が。

 その方向に振り向くとリンが。


「ねぇ、あの上着……案内人と同じ」


 俺だけに聞こえるように小さく呟いた。

 彼女は、緑のセーターにその上から案内人と同じ白衣を着ていた。

 地球人には馴染みがある白衣だが、異世界では未知の衣装である白衣。レストランの再建、そこでのメイド服作成の経験からこの世界の衣装は頭に入っている。その中に白衣はなかった。

 だから、案内人と同じ見慣れぬ衣装。それと同じのを着ている。同じ装いを着ている二人。違和感を感じたのだろう。もう一歩踏み込めば、白衣に何かの意味を感じたのかもしれない。

 

「……………」


 白衣は主に作業着として利用されているが、その職業の制服としても使われている。白衣を着る職業は薬剤師、科学者、研究者といった理系分野や調理師といった料理系統だ。

 何故白衣がこれらに利用されているかと言えば、白衣には衛生、災害予防としての機能があるからだ。

 つまり、一色で統一された服は汚れがわかりやすく生地によっては薬品や火傷や火に耐えるよう綿で作られたものもあり丈夫なのだ。

 ただ、案内人と本を読んでいる彼女が白衣を着ている理由はよくわからない。

 ファッション感覚で着ていてもおかしくはない。

 それとも、美術教師が服を汚れるのを避けるために着脱しやすい白衣を着る感じか。

 

「…………か」


 呟きが漏れた。

 リンが何と視線を投げかけてくるが、何でもないと首を振る。

 リンは大して疑問に持たなかったのか、それとも、どうでもよかったのか、そのまま視線を聖霊様へと戻した。

 今度はアルと視線が合う。

 アルも俺と同じことを思ったのか、真面目な顔で俺を見返す。



 やはりそうなのか。

 案内人の服装も違和感を感じてはいた。だが、それは猿の仮面だからだと簡単に思考停止していた。試練と言われそのことで頭が一杯になっていた。

 考えてみればおかしいのだ。

 異世界、白衣、この組み合わせはありえない。発明というか流布していないはずだ。全世界の見て知ったわけではないので、断言するのには少し抵抗があるが、それでも思う。

 その思考に至った瞬間、バチンと大きな音が響いた。

 反射的に音がした方向へ目線を向ける。


「待たせたね」


 女性、いや聖霊様が本を閉じ立ち上がった。


「うん。私はこの地の管理を任されることになった……うん、そうだね。トスカリーとでも呼んでくれ」


 ニカッと親しみやすい笑顔で本を片手でトントンと自分の肩を叩きながら自己紹介をした。

 理知的で神経質な委員長をイメージしていただけに、柔和な態度と表情に驚く。


「立ちっぱなしにしてて悪かったね。読書は悪い癖だ。読んでいると本の世界に引き込まれて帰ってこれなくなるよ。一度戻ったらどうってことはないのにね」 


 その言葉と共に、持っていた本を無造作に床に放った。本棚に戻すのでもなく、机に置くでもなく床に放ったのだ。

 まるでここは自宅の自分の部屋で本棚に戻すのは面倒だからその辺に置いとくかぐらいの気軽さで、本を投げた。

 ふかふかの絨毯は重い百科事典のような本を受け止めたため、音は出なかった。だが、投げ捨てられた本は埃一つ許さない厳格な雰囲気を持つこの場所に異様な違和感を生じさせた。


「さて、立たせちゃままじゃ責任者として名折れだね。ソファーに座ってくれないか。そこで話をしよう」


 唖然としている俺達に気にせずトスカリー様は柔和な笑顔のまま、ソファーを勧める。

 俺たちが座ったのを確認すると、トスカリー様は満足そうに頷いて、ソファーの後ろ側に立っている案内人に視線を向け、


「それと案内ご苦労だったね。後は私がやるから帰っていいよ」


 チャオと冗談交じりに片手を振った。


「はい」


 案内人はトスカリー様の言葉に頷き、去っていった。

 パタンと部屋の扉が閉じた後、トスカリー様はデスクの椅子に座り、両肘を机に載せて手を組み、そこに自分の顔をくっつけた。

 トスカリー様の位置は斜め前方。ソファーに座りながら体を傾けて、トスカリー様と話すことになる。少し話し辛い。

 トスカリー様は親しみやすそうな柔和な笑顔のまま、面白そうに俺たちを見ていた。眼鏡の奥にある目が爛々と輝き、楽しみで仕方がないと言うかのように。


「さてと、何から話そうか」


 まずアルを次に俺、リン、ベクトラを順々に見て、最後にアルを見てにっこりとトスカリー様は笑う。


「ええと、トスカリー様が俺たちに用があるとか」

 

 その笑顔に少し圧倒されながらも、俺は口を開く。

 俺の言葉にトスカリー様はうんと頷き、


「だね。呼び出してすまなかったね。けど、私も仕事でね。やむなくだよ」


 トスカリー様は片手を崩し、ハハッと手を振る。

 その親しみやすい仕草に違和感を感じるのは俺だけだろうか。本を捨てたあの姿が頭から離れない。


「では、どういう理由で呼びだされたのでしょうか」


 緊張で体が硬くなっているのがわかる。

 膝の上に握りしめた手が汗ばむ。


「リン君の村の魔物の件だ」


「あれですか……」


 どうやって倒したのかイマイチ覚えてないが、俺が倒したらしい魔物。

 あれは桁外れな強さだった。

 相対すれば死の未来しか感じられなかった。

 世界にはあんな魔物がいるのだと驚いたが、後でリンやベクトラに聞くと災害級の魔物かもしれないと言っていた。通常の魔物ではありえない。突然変異とか天変地異的な存在なのだろう。


「うん。まぁ、私は前任者の後始末というか、助っ人要員というか貧乏くじを引かされただけだから、本当は責任なんてないんだけどね。

 その魔物のせいでリン君の村に要らぬ被害を与えるところだったんだ。まずは謝罪をね、しとこうかと。村長にも伝えたけど、解決したのは君達のお陰だからね」


 ごめん、ごめんと軽く頭を下げて俺やリン、ベクトラ、最後にアルに視線を移していく。


「いえ、それは解決したのでいいのですが……」


「まぁ、私がやったことではないから罪悪感とかないんだけどね。形式的だよ、形式的。君達も私の謝罪が必要ではないだろうしね。もっとビジネスライクな話をしようよ」


 あっけらかんと軽い調子でトスカリー様は言う。

 その顔に張り付いたような微笑に背筋に汗が伝う。

 笑ってはいる。

 親しみやすい。

 だが、所々に毒があると思ってしまうのは俺の気のせいか。

 トスカリー様は俺の心の機微がわかるのだろうか、俺と目が合うとニンマリと一段階、笑みを深めた。 


「ビ、ビジネスライクなってそれはご褒美的なものでしょうか?」


 それまで黙っていたアルがトスカリー様に質問する。アルは自分の体をぴったりとリンに寄せている。珍しいと思うが、口にはだせない。

 そして、アルの言葉にトスカリー様は眉を少し吊り上げ、


「ん。その理解で間違ってはないよ」


 満足そうに頷いた。


「いや、ね。私としてもこんな七面倒臭い方法は取りたくなかったんだよ」


 こんなというのは試練のことだろうか。

 疑問を挟めないまま、トスカリー様は表面上機嫌良さそうに語る。


「だけど、私達の上司がさ。口を酸っぱくして言うのだよ。

 『ただ漫然と富を受託するのが良いことなのか? 悲劇にあったという理由だけで、力を貰って良いのか? 与えるだけでは駄目なのさ。試練を突破してこその恩恵だ』ってね」


 トスカリー様は外国人がやるみたいに首をすくめ、お手上げと両手を掲げた。そして、口調はその上司という人物を真似してるのだろう。だが、口真似が似ていないのか、俺がその上司を知らないので笑うに笑えない。

 その温度差に気がついたのか、トスカリー様は一度咳をして空気を入れ替える。


「まぁ、けったいなことだと思うよ。別にあげちゃっていいじゃん。仮にも迷惑かけたんだからさ。でも、上司の意向に逆らえないのが部下なんだよね。嗚呼、可哀想な私と君達。形ばかりには従わないとねぇ」


 クツクツと喉をならしながら、トスカリー様は椅子に体重を預けた。社長が座るようなリラックスチェアにしか見えない豪華な椅子はギシッと音を立てながらもトスカリー様を受け止める。


「それが俺たちが試練を受けた理由ですか」


「うん。楽しんではいただけたかな?結構苦労したんだよ。クリアさせてあげたいけど、簡単な難易度では困るしってね。難易度調整ってこんな感じかと勉強になったよ。

 何分素人だからね、目論見通りいったわけじゃないが、十分と満足しておこう」


 大きく伸びをしながら、世の中妥協が肝心だとトスカリー様は小さく最後につけたした。

 最後の言葉は俺達に言ったのではないにしても、疑問が一つ解けた。

 この試練は変だった。

 やり直しがきくことだ。やり直しがあるなら、試練の意味はないと思っていた。

 だが、突破させる前提となると話は違う。上司の意向で低難易度には出来ないが、最終的にはここに来れるようにしたのだ。それが本当に優しさなのかはわからないが。

 


「じゃあ、早速だけど次の試練の話をしようか?」


「え?」


 戸惑いの声を上げた俺に、トスカリー様は後ろに預けた重心を前に倒し前のめりになる。

 オイオイと口に手を当てながらトスカリー様は言う。


「忘れてないかい。案内人の言葉を。彼女は言ったじゃないか『まずは私から二つ』って、私の試練は今から始まるんだよ」


 親しみの笑みだったはずが氷の微笑に感じる。

 笑っているはずなのに、蛇に睨まれた蛙のような威圧感を感じてしまう。


「嫌なら別にいいよ。褒美を渡すために試練をしてるようなものだからね。褒美が要らないって言うのなら、やらない選択肢もある。私の仕事も終わっているようなものだからね。君がここの部屋に来た時点でね。だから、ここで終わるなら余計な手間が増えずに万々歳かなっ!」


 からかうような仕草でトスカリー様は両手を上げる。


「あ、あの……」


「ん?」


 戸惑いがちに上げた声に、トスカリー様は応じた。


「褒美って何でしょうか」


 即物的かもしれない。

 だが、これを聞かなければならない気がした。


「んんっ! そういえば言ってなかったね。私的には何でも良いんだけどね。金でも装備やアイテムでも。

 他には……そうだね。スキル付与や拡張や病気や怪我などの難病治癒、行方不明者捜索なんてのもいいかもね」


「ッ!」


 最後の言葉に瞳孔が開く。

 聞き直すより早く、トスカリー様は言葉を付け足す。


「でも……」


 二音の言葉だった。

 意味ありげに呟かれた二音の言葉に、俺は止められる。

 餌を待てと言われた犬のようだろう。トスカリー様は俺の様子を楽しそうに見ながら、口を開いた。


「響君の困っていることを解決してあげようかなって思うんだ」


「っ!」


 心臓が音を立てた。

 血流が熱を持ったように流れ、鼓動が脈打つ。

 聞き逃せない言葉があった。繋がったのだ。


「響君は今の状況がにっちもさっちもいかないんじゃないかな。ダンピールを選んだはいいが、それがバレてしまった。今は棚上げされているけど、解決したわけではない!このままでは街で暮らせないかもしれない!ああ、何で俺はダンピールを選んでしまったのだろうってね!

 だが、安心して良いよ。君の選択は正解だった!

 君が人間だったら、普通の人間だったらあの魔物は倒せなかった!ダンピールの性能と自己治癒能力があったからこそ、生き残れた。君はここまでこれた!一歩間違えれば終わりだけど間違えずにこれた君の天運を素直に賞賛したい!」


 台詞の後半にいくに従って、声に勢いがつき、弾んでいく。

 それはまるで演劇の舞台の独白のように。

 だが、褒められても俺に喜びはなかった。


「トスカリー様、貴方は……」


 手が震え、胸が痛いほど音を立てきしむ。

 右手が知らず心臓を抑える。

 その俺の挙動を楽しむかのように、眼鏡のブリッジの部分を指で押しながらトスカリー様は俺を見て薄く笑う。


「うん、ご想像通り。私は君をここアルハザールに送った神様の仲間さ」


 散らばったピースが正しい形へ。

 トスカリー様は自分の所属を明かしたのだった。

 想像出来なかったとは言わない。地球には地球の神が居て、アルハザールにはアルハザールの神がいる。俺をここに転生させた神はどちらに属するかはわからない。ただ、俺たち転生者を見てはいるが接触はしないと思っていた。だから、ここに飛ばしただけで関係が終わると。

 だが、それでも相手は聖霊様。上位存在なのだから、あの神様との繋がりはあるだろうと思っていた。何かを知っているかもという淡い期待が。

 それが、ここまで直接的な存在が出張るとは思わなかった。




補足説明。

閑話で神様に会ってますが、その際の記憶は消されています。


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