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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編小説『良心増幅装置』

作者: 泡井アリオ

※この作品は完全なフィクションです。

実在の宗教、人物、団体、事件などには一切関係ありません。

狭い部屋の中に、

5人を殺した凶悪な殺人犯がいた。



殺人犯は、

椅子に手足を厳重に縛られ、

拘束されていた。

男は悔しそうに呟く。


「クソが……。

まさかこんなガキどもに捕まるとは……」



取り囲むのは3人の若い男女。

最初に鑑という、男子高生が喋った。


「いやー、まさかマジで

殺人犯を捕まえられるとはな!

信じられねえわー」



次に桐恵という名前の、小柄で眼鏡をかけた女子高生が喋った。


「うまくいって、よかったね。

引き渡せば、表彰状ぐらいは貰えるよ」



3人目は塔子と言い、怪しい宗教をやってる長い黒髪をした女子高生。

塔子は寂しげな表情で、二人の会話を黙って聞いていた。


「……」




「よし!じゃあ、

さっさと警察に引き渡そうぜ!」



暗く狭い部屋の中、

殺人犯は蒸し暑さで大量の汗が流れていた。

「おう。さっさと警察を呼べ!

こんなクソ暑くて暗い部屋で縛られてるより、

留置場に放りこまれた方がずっとマシだ!」



「……。

待ってください。

このまま警察に引き渡すのは、

とてもかわいそうです……」


「か、かわいそう?」


「かわいそうです!

生まれた時は皆かわいい赤ちゃんです。

人が人を殺すのは、

主に環境のせいなのですよ。

親の愛情と成功に満ちた環境で、

数多くの『幸福』を積み上げてきた

人生を送っていれば……。

きっと、

わざわざ殺人など犯さなかったでしょう」


「それはそうかもしれないけどさ……」


「ほとんどの場合、短絡的な殺人は

不幸な人生から生まれます。

きっと、殺人犯さんの本当の心は、

『殺人なんてしたくなかったよ苦しいよ』

と、

悲鳴をあげているのはずなのです!

そうに違いないのです!!」


「おお、優しいねえお嬢ちゃん!

同情するなら是非逃がしてくれや!

ついでに、逃走資金もいくらか頼むよ~」



「でもさ、

5人も罪なき人が殺されてるんだぞ。

同情の余地なしだろ!

仮に、いい環境に生まれれば、

『殺人を犯すことのない人生』を

過ごせた可能性があったとしてもさ。

この『現実の人生』では

確かに殺人犯なんだからな」



「それも、おっしゃるとおりです。

殺人は許せません。

この殺人犯さんは、何の罪もなければ、

何も関係ない人達を無差別に殺害しました。

これは非常に罪深い事です。

決して許される事ではありません。

しかし、感情は単一なものではないのです。


殺人を許せない。

犯人はかわいそう。


こういった感情は同時に存在してもいいのですよ」


「へっ!なんだよなんだよ。

結局俺を逃がしちゃくれねえのかよ!

気まぐれなクソガキどもめ!」


「ふふ。

なら、塔子はどうするつもりなんだい?

要求どおり、彼を逃がしてあげるの?」


「いえ、それはしてはいけません。

私も、最終的には

殺人犯さんを警察に引き渡し、

国家の法により裁かれるべきだと思います。

ですが、その前に

『治療』をしてあげたいと思います」


「……治療?」


「『心の治療』です。良心を取り戻し、

心から反省させましょう。

自分の犯した罪の重さに気づかせ、

そして『償い』をさせるのです。

それが罪を犯した人間がすべきことなのです。


……。

これは別に私だけの意見という訳では

ないと思います。

裁判官や刑務所の人たちも、

犯罪者の反省を望んでいますよね。

そのために色んなことをしていますが、

残念ながらあまり効果はありません。

出所すれば再犯する人もいますし、

死刑執行のその時まで悪態をつく人もいます。

なので、私達が今、ここで。

殺人犯さんの心を更生させるのです!」


「へっ!くだらねえ!

殺したいから殺した。それまで。

幸せそうに歩いてる奴らを

ぶっ殺すのはとても気持ちよかった。

心の底から胸がスーッとしたよ。


あいつらあんなに楽しそうにしててよぉ。

騒いではしゃいで、調子に乗ってたのに……。

殺されたら、もう何もできない。

へへへへへ!ざまあねえな!

間抜けで弱い弱い

あいつらができることと言ったら、

もう、焼かれて灰になってゴミになるだけだぜ?


まさに負け犬だよ、負け犬。

生物として俺に負けたんだ!

俺相手に5人もぶっ殺されてやんの!

だせえったらありゃしねえな!


逃げ惑うあいつらの情けない姿は、

今、思い出しても笑えるぜ。

悲鳴。命乞い。刺された時のリアクション。

どれをとっても傑作だったなぁーーーー!

人殺すのって最高に気分がいいわ!

はははははははははははは!またやりてー!!

反省?更生?

そんなもん、誰がするんだ!?あ?」



「うるせえ!ふざけた事言うなよおっさん!

塔子ちゃん!

……こいつが良心を取り戻すとか、

ありえると思うか?

さっさと警察に引き渡して、

終わりにするしかねーよ」


「うう~~~ん……。

確かに、難しいかもしれません。

時間がかかるかもしれません。

でも、私はやってみるべきだと思います。

全力を尽くして、

殺人犯さんの良心を取り戻しましょう!」


「笑わせるな!

ガキの遊びに俺をつき合わすなよ!!

隙があったら、お前らも殺してやるぜ!」

殺人犯は地面に唾を吐いた。


「あうぅ……」


「あ、そうだ。

こんな状況にぴったりの、便利な機械装置があるよ」


「……え?何それ……」


「どういったモノでしょうか?」


「その名も、『良心増幅装置』。

人間の良心を増幅させ、

どんな悪人でも強制的に善人になるという、

とっても素晴らしい機械なんだ。


どうだね?これを使用してみては……」


「いつ開発したんだそんなの!?」


「素晴らしいです!さすが頭のいい桐恵さん!

なんでも作れてしまうのですね!!」


「では、用意してくるよ。

ちょっとまっててね」




桐恵がガラガラと台車を押し、

『良心増幅装置』を持って来た。


『良心増幅装置』は、禍々しい姿をしおり、

まるで拷問器具のようだった。

四肢を固定する部分は、なぜか返しのついた

針状のものが無数についており、

これをそれぞれの部位に刺す事で固定する。


首には棘つきのベルトを巻いて、

電流を流す仕組みになっている。


頭の部分が特に奇怪でかつ残酷だった。

脳にまで到達するような長い針がついており、

装着する際、ハンドルを手で回すことにより、

万力の様に締め付けて針を脳の奥まで通す。


桐恵の説明によると……。

脳内部に深々と突き刺さった針に、

特殊な電流を発生させ、

それにより人間の良心を増幅させるらしい。


鑑はこの残酷な『良心増幅装置』を見て、

生物として純粋な恐怖を感じた。



「なんだこれ!?すごく痛そう。

なんかの拷問装置にしか見えないんだが?」


「良薬口に苦しと言うだろ?

こういう恐ろしげな機械が、

実は良心を発生させる素敵な機械。


……みたいな」


「みたいな!?

そこを誤魔化すなよ!」


「早速取り付けてみようよ。

私としても、これを試すのは初めてでね。

成功するかどうか楽しみなんだ」


「私も楽しみです!

こんな素敵な機械を開発してたなんて、

実に素晴らしいですね~。

桐恵さんえらいです!」


「……ま、とりあえず、手伝うよ」


『良心増幅装置』を見て、

恐怖するのは鑑だけではなかった。


「お、おいやめろ!」


殺人犯は、

今までふてぶてしい表情をしていた。


しかし……。

まるで、この世界の悪意を詰め込んだような構造の

『良心増幅装置』を目にすると、

殺人犯の顔は恐怖ですっかり青ざめてしまった。


鑑は一瞬、殺人犯を不憫に思ったが、

「これが殺人への罰だとしたら

軽いものだろうな……」

と思い、殺人犯を『良心増幅装置』に座らせた。


「何しやがる!

こ、こんな禍々しい拷問器具で、

良心なんざ芽生える訳ねえだろ!

今すぐ俺をこの部屋から出せ!!」


金属がきしみ、鈍い音が鳴る。

『良心増幅装置』の、うめき声のような音。

鑑と桐恵は二人でハンドルを回し、

右腕を『良心増幅装置』で固定した。

ガチャリ。




「ぎゃああああああああああああああああ」

殺人犯は痛みで絶叫し、

腕からは血がぽたぽた流れていた。


「は、外してくれ!!頼む!

お、俺が悪かった!

警察に自首させてくれよ!お願いだ!!」


「殺人犯さん、苦しいですが、

ここは我慢の時です!

全てが終わったら

素晴らしい自分に出会えるはずですよ!」


「そ、そんなもんいらねえよ!

はやく外してくれーーー!!頼む!!

痛くてたまんねえよぉ!!!」


「ああ、殺人犯さんかわいそう~。


鑑君。桐恵さん。

このままでは殺人犯さんがつらいだけです。


はやく全部装着して、

『良心増幅装置』を起動してください!

それが殺人犯さんが持つ良心の、

本当の願いなのですから!!」



ガチャリ。ガチャリ。


良心増幅装置を左腕、両足と装着するたび、

殺人犯の悲痛な叫びが狭い部屋に響き渡った。

首、頭の部分の装着が完了した時、

殺人犯は精神を激しく消耗し、気絶していた。



「さて、起動するよ。

何が起こるかどうか楽しみだね」


「えっ!?

良心が増幅していい人になるんだろ!?」


「仕様上はね……」


「!?」



桐恵がスイッチをONにし、

『良心増幅装置』が起動した。

絶叫。

殺人犯の、命を削るような叫びが響き渡る。

針から電流が流れ続け、

ぷすぷすと人間の焦げるにおいがした。


……。

2時間後。

全てが終わり、

『良心増幅装置』の動きが止まった。



その瞬間、殺人犯は目を大きく開き、

静かに宣言した。


「『私は完全に良心に目覚めました。

私は今まで非常に悪い人間でした。

私が今望む事は1つです。


殺人の罪を償うため、

私の臓器を貧しく病める人々へ無償で提供してください。

私はそれだけを望みます』」




その発言を聞いて、塔子は感動の涙を流した。



「おお……なんという素晴らしい提案でしょう!


5人の殺人を犯したという大罪の償いとして、

6人を助けるため自らの身を捧げるとは!


殺人犯さんの中で出来る限りの

反省の弁と受け取りました。

安心してください。

その切なる想い、私が必ず叶えましょう。


しかし残念ながら、

私達も殺人の罪を犯すわけにはいきません。

だから……。


『ギリギリ生きれる程度の内臓』は残します。


桐恵さん。

『良心増幅装置』。実に素晴らしいものですね。

殺人犯さんの中に本来あった良心を取り戻してくれたのですから。

殺人犯さん。安心してください。

誰より偉大な『名の無い神様』は、

きっとあなたの尊い発言に喜びを感じる事でしょう」




殺人犯は解体され、

その新鮮な臓器は有効に活用された。


しかし塔子の指示通り、

『ギリギリ生きれる程度の内臓』が

残されていたため、

その後10時間ほどは、

のた打ち回りながらも一応は生きていた。


やがて、殺人犯が死ぬと、

残りの内臓を全て抜き取られ、

使えない部分は山に捨てられた。


山に転がる、

血液を全部抜かれた、両目と内臓のない死体。


警察はその変死体を発見し、

『犯人は罪の意識にかられて自殺した』と公表した。

警察は、この変死体を

『自分で自分の臓器を取り出す』という、

”非常にテクニカルな自殺”と判断したようだ。



ふしぎ。




その後。


「ところで、桐恵さん。

あの装置は本当に

『良心を増幅させる装置』だったの?」


「何が言いたいのかな?」


「もしかしたら

『特定の発言』をさせるだけの装置だったんじゃないかと思ってな。

おっさんが自己犠牲的な発言した所で、

本当にどう思ってるかまではわからんし。

第一、良心なんていう曖昧なものを増幅させるより、

発言を操作する機械の方が技術的にきっと楽だし、

先に作れるだろ?」


「あはははははは!実に面白い発想だね」


「本当のところ、どうなの?」


「知らない方がいいよ。真実なんてさ。

君は、今、使ってる様々な電子機器の原理とか知らないでしょ?

原理を知ってても、実際の構造を知らないでしょ?

解体して中身を見た事はある?」


「いや、ないけど……」


「そうだろう。

多くの人は複雑な機械装置の中身なんて知ろうとしない。

ボタンを押した結果、どうなるかだけわかればいいと。

そういうことだよ。


機械だけじゃない。システムだってそうさ。

犯罪者には懲役や死刑があるけど、

その実際の運営を目の当たりにしたことはある?」


「犯罪者が捕まって死刑になってる

ニュースでも見れば満足なんでしょ?」


「まあ、そうだけど……。

しょうがないでしょそれは」


「いや、別に私はそれが悪いとは言っていないよ。

むしろそれは正しい態度だよ。

私が言いたいのは、

それならこの『良心増幅装置』にも、満足しなよってこと」


「でもなぁ……。

なんか納得できないというか……」


「それに、もし真相を知ったら……。

私だけでなく、

君まで罪を背負ってしまうじゃあないか……」


「なんで『私一人犠牲になっていいことした!』

みたいな雰囲気出してんの!?

人が死んでるんだよ!?」


「ま、実際のところは君の推理通り。

これは良心を増幅させる装置ではなく、

対象を気絶させ、合成音声で設定された台詞を垂れ流すだけ。

そんな、単純な機械装置なんだよ♪」


「結局ネタバレしちゃったよ!

想像以上にえらい安っぽい装置だなこれ!!」



『良心増幅装置』 おわり

この作品はニコニコ動画に動画としてあがっています。

キャラクターのデザインや表情、『良心増幅装置』のデザインを絵におこしてますので、

是非ごらんください!

http://www.nicovideo.jp/watch/sm19829842

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