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転生した時に……

 『魔法・超能力科、クリムネア・スターライトを確認』

 

 校門に入ったところで、奈緒は昨日と同じように頭の中で声が響くのを感じた。きれいに響く鈴の音のようで、彼女にとっては心地が良かった。


 「おはよ、クリア」

 「……おはよう、真登香。私はクリアじゃないよ。奈緒だよ」


 校門を入ったすぐのところで待ち構えていた真登香に、奈緒は鬱々と挨拶をした。


 「あ、そうだったね」

 「……授業は? いかないの?」

 

 奈緒は昨日の話題を出される前に、教室に行こうと、真登香の横を通り抜けようとした。

 

 「今日学校休みだよ」


 だが、それは真登香に止められる。


 「え?」 

 「あんな事件あった昨日今日で学校あるわけないじゃん。たぶん一週間は学校ないよ」

 「……そんな」


 奈緒はがっくりと肩を落とした。今、奈緒がこの世界のことを知るには学校に通うことが必要不可欠なのだ。ニュースで得られる情報は少ないし、何よりさびしい。しかし――。

 奈緒は周りを見回す。青い服を着た見慣れない大人たちが学園の中をうろつき、ところどころには黄色の、魔法でできた線が中空に浮かんでいた。彼らは警察のようなものなのだろうか、と奈緒はあたりをつける。そうか、こんな状態で授業なんてできるわけないか。奈緒はあっさりと納得した。


 「奈緒がそんなに学校好きだとは知らなかったけど、まあ、あれよ。考えてきてくれた?」

 「……うん」


 一日経って頭も冷えたのか、奈緒に詰め寄るようなことはせず、やさしい口調で真登香は話を切り出した。

 

 「答えは?」

 「……ごめん。私、やっぱり誰にも酷いことしたくない」

 「あいつらが先にやったんだよ。もしかしたら、奈緒だって死んでたかもしれないんだよ?」

 「……でも」


 奈緒は少しだけ想像した。もし、自分がここで言葉を翻し、彼らを拷問するといえばどうなるのだろうか。どこかに連れて行かれて、縛られた彼らと、おぞましい道具が転がった場所で、延々と他者に苦痛を与えることになるのだろうか。自分がされたことを、他人にもするのだろうか。そんなくらい想像を。


 「私は、生きてるよ」

 「先生は死んだでしょ?」


 それを言われて、奈緒には理論的な拒否の理由がなくなってしまった。感情的に、頭に思いついた言葉をそのまま言っていく。

 

 「……私は、嫌だよ。そもそもなんで、真登香は私をそんなことに誘うの?」

 「奈緒、恨みは晴らさなきゃ気が済まないって言ってたじゃん。奈緒の分はちゃんと残してるから」

 「私はそんなの嫌なの! 私は『クリア』じゃないの! 『奈緒』! 『神崎 奈緒』なの! 一緒にしないで!」

 

 カッとなって叫んだ奈緒の目には、涙がたまっていた。


 「う」


 言い過ぎたか、と真登香は後悔するが、奈緒は止まらない。一度切れた堰は、なかなかもとには戻らない。

 

 「私、嫌って言ったよね! 痛いことするのはいやだって言ったじゃない! なんで誘うの? なんで強制しようとするの!? 私、あの人たちがどうなろうと別に何も思わない! 真登香、あなたがあの人たちをぐちゃぐちゃにしたとしても、私は別に怒らないし悲しまない! でも、私を巻き込まないで!」

 

 最後の言葉に、真登香は反応した。


 「巻き込まないで? 巻き込まないでって何? なんでそんなこと言われなきゃいけないの!? あなた、ずっと前にこういうの得意だって言ってたじゃない! それなのになんで私が悪いみたいに言うの!?」

 「そもそもなんで拷問なんてしなきゃいけないの!?」

 「話聞かなきゃいけないからに決まってるじゃない! ただ殺すだけじゃだめなの!」

『奈緒、よく考えて。真登香がこういった意味を』


 クリアに言われて、奈緒は少しだけ疑問に思った。それがきっかけで、ふと冷静になる。


 「ちょ、ちょっと待って」

 「はあ!? 何よ!」


 いったん落ち着こうと、二、三度深く深呼吸をする。それが終わるころには、奈緒の頭はすっかり冷えていた。思い切って、聞いてみる。


 「言い過ぎた。ごめんね。それで、聞くけど……そういうわけにもいかない? なんで?」 

 「……だって、ここらじゃ全く出回ってない道具使ってたんだよ? 絶対バックにだれかいるって」

 

 それは、ある意味美しい光景だった。ケンカしていた二人が、一言謝ればもう普段通りの会話をしている。本当のきずながあるかのように見える。これが本来のクリアと真登香なら、そう考えても全く問題はない。

 しかしその実、二人はそんなもので喧嘩を切りやめたのではない。互いに生き残るために、協力するしかないと、ここで喧嘩別れをするわけにはいかないと、彼女たち自身も気づかないほど深いレベルで感じ取ったのだ。それは、この事態が二人の意識の許容容量をはるかに超えた事態だということを如実に表していた。


 「……暴力団とか、じゃないかな」

 「何それ?」

 「知らないの?」


 言ってから、奈緒は思いついた。もしかしたらこの世界にはないのかもしれない。もしくは、名前が違うのかもしれない。そう思った彼女は、思いついたまま、口を開いていく。


 「拳銃持ってて、乱暴で、あくどいことしてお金稼いでる人たちのこと」

 「あ、クリーカーのこと?」

 「く、くりーかー?」

 「拳銃ってのは知らないけど、魔法使って犯罪犯してる連中は、そう呼ぶのよ。奈緒は知らなかった?」

 「え、あ、うん」


 奈緒は素直にうなずく。


 「意外と常識抜けてるんだね、奈緒って。てっきりなんでも知ってるかと思ってた」

 「わ、私そんな、なんでもなんて知らないよ」

 

 手を振りながら否定すると、奈緒はもう一度切り出した。

 

 「ねえ、真登香。拷問せずに話を聞けるかもしれないよ」

 「どういうこと?」

 『聞かせてほしい。どういうこと?』

 

 二人に催促されたが、奈緒はまずクリアに答えた。


 ほら、魔法。話を聞き出す魔法とか、あるでしょ?

 『……あなたの因果で聞けるかどうかはわからない。でも、やってみる価値はある』


 クリアの言葉を聞いて、奈緒はうなずいた。


 「真登香、魔法を使えば、できるかもしれないよ?」

 「……そっか。そうだね。ついてきて。こっち」

 

 真登香は申し訳なさそうに奈緒の手をつかむと、走り出した。速度を奈緒に合わせてくれているため、奈緒はよろめいたりつまずきそうになったりせずにその場所へたどり着くことができた。

 真登香が奈緒を連れてきたのは、校舎の裏にある倉庫のような施設だった。奈緒の世界にもあったような、プレハブの倉庫。そこには木でできた表札があって、そこには『第二戦闘課倉庫』と書かれていた。


 「ここ。ここにあいつらと、道具があるから」

 「どっ……」


 奈緒の記憶が一瞬煌めいて、彼女はふらつく。どんな道具かを具体的に想像してしまった自分を恨めしく思いながら、真登香に微笑む。


 「大丈夫だよ、真登香。さ、いこ?」

 「……本当に大丈夫?」


 真登香はそう言って倉庫に入っていった。

 なけなしの勇気を振り絞って、奈緒はそこに入っていった。

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