一章7話 面倒だ、殴る!
今日も私は訓練の後、離宮の屋根の上でくつろいでいた。
「あれ?リョウ?いつの間に来たの?」
気付くと少し離れたところでリョウがじっと遠くを見ている、あっちは・・・城の方?何を見てるのかしら?考えてても分からないから聞いてみましょうか・・・
「どうかしたの?」
「いや、どっかから見られてる気がする・・・なんか闇討ちされそうな時の雰囲気に似てるけど、なんか違うかな?」
闇討ちされそうな時の雰囲気って、リョウは今までどんな生活を送って来たのだろう?
見られている感じ?私はまったく気付かなかったけど、言われて注意してみるとそんな気配がする。
「ちっ・・・感じ悪りぃな」
あ、気配が消えた、リョウが舌打ちしている、どうやらリョウにも気配が分からなくなったみたい。
まぁ、どうせ私のことを良く思ってない奴等の誰かでしょ。
「まぁいいか、俺は寝る」
そう言ってその場で横になった、私は慌ててスカートの端を押さえリョウから見えないようにしたけど・・・全然気にして無いわね、それはそれで複雑な気分になる。
「リョウ、寝るなら部屋に戻ったら?」
「面倒だ天気も良いし、ここでいい」
「もう、私は行くけど、程々にしておきなさいよ」
リョウを残して私は自室に戻る、離宮内は今日も平和。この平和が続けばいいんだけど・・・一癖二癖有る為ここに集められた離宮付きの人達は厄介払いとして、有事の際に捨て駒として扱われることが分かっている。その為離宮付きの兵士達は生き残る為に今日も訓練を続ける・・・この先何も起こらなければ、彼らの訓練も無駄になるのだけど、私は無駄になってほしいと思う。
まぁ、そんな願い叶う筈が無いんだけど・・・・・・
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「マナ様、只今戻りました」
いつもの様に書類を片付けていると、私の側近、フィリア フラウがやって来ました。彼女にはしばらく前に隣国ルージュの様子を探りに行ってもらっていたのですがどうやら帰って来たようですね。
「お帰りなさいフィリア、それで、何か分かった事は有りましたか?」
「はい、最近徴兵や傭兵の雇用が行われているようでした。やはりルージュは戦の準備をしているようです」
当たってほしくない予想通りの事態が進展しているようですね。やはり狙いはこの国でしょうか?
今はマルスの国境に増援を送っておきましょう・・・
「なんとか開戦を避けられないものでしょうか?」
「無理でしょうね、向うがやる気で有る限りこちらも相応の対応をしなければなりません・・・それに、ゴルドの王は向うが準備をしていると聞いただけで、こちらから仕掛けかねない様な人物ですから・・・」
そうですよね、ゴルドの王、私の父でも有るのですけど、王としては明らかに失格な人です。この国が保っているのは、フィリアをはじめとした優秀な者によるところが大きいのです。
「それでも、王に知らせない訳には行きませんよね・・・」
「大隊を動かすのなら避けては通れません」
「仕方ありませんね、行きますよフィリア、付いて来て下さい」
「はい」
気が重いですが仕方ありません、この国を護る、そのために最善を尽くさなくては・・・
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「ん?」
暖かい陽気に包まれまどろんでいる俺の上に影が落ちる、曇ってきたのかと思い目を開けると覗き込むようにして俺を見るリアが居た。
・・・この体勢はマズイ、とりあえず身体を起こそう。
うん、見ちゃいない、俺は何も見ちゃいない。
「まだ寝てたんだ?もう直ぐ日が暮れるよ」
そうだな、日がだいぶ傾いている、日が落ちる前に中に戻るか・・・ん?
起き上がったからリアの影から抜けていた俺に再び影が落ちる。見上げるとでっかい鳥が俺たちに襲いかかって来ていた・・・・・・
「っ!呆けてる場合じゃない!」
「魔物!リョウ気を付けて!」
リアが剣を抜き構えるけど、お前が気をつけろ!
屋根の上なんて足場が悪く逃げ場もない場所で戦おうとするな!
まぁ逃げられないから殺るしかないんだけど・・・今は俺がいる。
剣に当たらないようにリアを抱え飛び降りた。
(ん?視線?)
普通の人なら怪我処じゃないけど強化した俺なら問題無い、怪我も無く地に下り立つ、鳥の魔物が俺たちの居た場所を破壊するのが見える、結構攻撃力は有るみたいだな・・・まぁ当たらなければいいだけか。
リアを下ろして魔物の次の攻撃に備える、空を飛んでいるやつが相手だし無理に殴りに行かずカウンターを叩き込んでやろう。
「ギユヤァァァァ!!」
屋根の瓦礫を撒き散らしながら鳥の魔物が再び突っ込んでくる、ただ真っ直ぐ突っ込んでくるだけの攻撃、そんなものに当たってやるつもりは無い、リアも回避行動に出ているのを確認して俺は魔物の攻撃をギリギリで回避するように動き魔物の直ぐ側を交差するように移動する。
まぁここで一発ぶち込むわけだが・・・せっかくだから翼を片方ぶち抜くことにする、鉄血で硬化した拳が翼を片方使い物にならない位に傷付ける。
「ギユァァァァ!!」
地をのた打ち回る鳥の魔物、翼を捥がれてコイツ終わったんじゃね?
しばらく暴れた後鳥の魔物が立ち上がり俺たちを威嚇してくる、どうやら飛ぶのは諦めたようだ。
「なんだ!なにがあった!」
「おお!魔物だ!ぶっ殺そうぜ!」
「リョウ!お前何やってんだ!」
ぞろぞろと騒ぎを聞きつけた兵士なんかがやってくる・・・よし、面倒だし後は任せよう。
兵士たちに取り囲まれ、空を飛ぶ術も無くなった鳥の魔物はあっという間に退治された。
さて、それじゃ俺はこいつを何とかするか・・・
俺は城のある一点を睨みつけリアたちに気付かれないようにこの場を離れた。
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「くそ!くそ!くそ!なんなんだ!あの男は!」
忌々しい、森へ出かけなくなったあの女が最近よく屋根の上に居るというので、そこに魔物をけしかけたというのに!
逃げ場の無い屋根の上で襲わせれば確実に殺れると思っていたのに!なんなんだ!あの男は!人を抱えて屋根から飛び下り無傷だと!馬鹿な!有り得ない!
「な!」
あの男、今こっちを見た!え?え?・・・こっちに来る!
慌てて窓から離れ明かりを消し扉に鍵を掛ける、来るな来るな来るな・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
来ない?
「は、はは」
なんだ、こっちを見たように思えたのも気のせいか、そうだよな、魔物を操っていたなんてばれるわけ無いよな、誰も私が犯人だなんて分からないよな。
「ははは、ははははは」
「何か面白いことでも有ったのか?」
「は?なぁ!」
後からの声に振り返ると先程私が使っていた窓の枠に腰掛たあの男が居た。どうやって入った、扉には鍵が掛かって・・・窓!屋根から飛び下りて平気なのだ、逆も可能ということか!
「なぁ、何か面白いことでも有ったのか?」
驚く私に再度問いかける男、くそ、本当になんなんだこの男は!
「いや、なんでもないぞ」
私が魔物を操っていたなんてばれるわけ無い、誰も私が犯人だなんて分からない、そう思い白を切る。
「・・・なんでこっちを見てた?」
「なんのことだ?」
「ふむ・・・」
この男何か感づいているようだが私はあくまでも白を切る、ばれるわけ無いんだ・・・
「面倒だ」
「は?ぶふっ!」
顔面に走る激痛、噴出す血の暖かさを感じながら私の意識は闇に沈んでいった・・・
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「ちっ」
手に付いた血を拭い気絶した男を見下ろす。
俺たちが鳥の魔物と戦っている間ずっと感じていた視線を辿り明らかに怪しい男を見つけた。
問いただそうかと考えたが白を切ろうとしていると分かったので面倒になって沈めた。
さて、こいつどうしよう?ほっといてもどうにもならないよな・・・
マナに任せるか・・・証拠は拷問して吐かせりゃいいや。
『フレイムバーン』
「な!」
男を運ぼうと思った瞬間、男が炎に包まれ声を上げる間も無くで燃え尽きた。
「まったく、役に立たない男だ・・・」
部屋の隅にいつの間にかローブ姿の男が立っていた。
「今度はなんだ?」
「・・・・・・ふ、答える義理は無い」
「あ、待て!」
殺ることは終えたとローブの男は部屋の隅の闇に溶けるように姿を消した。
「ちっ、逃げられたか・・・」
んで?これどうしよう?
消し炭になった男のことをどうするかしばらく考えるが・・・
「マナに任せよう・・・」
丸投げすることにした。