一章6話 対冒険者達
「新たにこの辺りには生息しない魔物が発見されました。しかしどの文献にも載っていない魔物魔物のようで正体は不明、対峙した冒険者の話によると大人ぐらいの大きさの、岩で出来た人型の魔物だったと言うことです」
以前報告にあったメガロスアルクに加え大型の鳥の魔物、更に正体不明の岩の魔物、いったい何が起こっているのでしょう?
「それで、その魔物はどうなりました?」
「冒険者達が討伐を試みようとしたのですが、途中で邪魔が入り獲り逃がしたということです」
「邪魔?」
「はい、銀髪の男がやって来て魔物を逃がしてしまったようです。しかもその男、素手で冒険者6人を圧倒して見せたそうです」
銀髪の男・・・この辺りで銀髪と言えば私達シルバーリーフの血筋以外はあまり見かけないんですけど・・・最近マテリアの所へ来た彼が銀髪でしたね、素手で冒険者達を圧倒する実力といい、まさか邪魔に入った男とは彼のことなのでしょうか?魔物を庇い冒険者達に害を成す。預言書のこともありますし、彼には注意が必要ですね・・・
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「くそ!コイツ速いぞ!補助魔法を!」
「はい!
神秘の力よここに在れ
汝の流れを加速する・・・『クイックバースト』
魔法を使われたか、発動前に防ぐ気だったが、強化した俺でも一対多数じゃ手が回らないな・・・
まぁ、本気でやって無いってのも有るけど・・・
冒険者の1人の動きが速くなった、そいつの相手をしている間に他の奴も魔法の補助を得て動きが速くなる、面倒だな。
大剣を手に攻撃してくる男1人、その左右に剣を持った男1人ずつ、大剣の奴の後ろに槍を持った女1人、更に後ろで魔法を使おうとしている男と女が1人ずつ・・・魔法使いか、こいつらから潰さないとな。
振り下ろされた大剣をギリギリのとこまで待ってから避け、地面に叩き付けられた剣を足場に男を飛び越える、その際横っ面に蹴りを入れ脳を揺さぶっておく、これでしばらく動けないだろう・・・魔法使いじゃないけど、まず1人。
両脇の、剣の2人が慌てて追いかけてくるけどそっちは無視する。槍の女が駆ける俺に槍を突き出す、動きは速いが見切れないほどじゃないので軽く回避する、連続してつきを放ってくるがそれら全て回避する。
「くっ!」
急に突きではなく槍を横薙ぎに払ってくる、まぁ、見えてるから問題ない、槍を掴み女ごと背後の男2人に向け放り出す、女を受け止め2人の動きが止まっている間に詠唱を続ける魔法使い2人との距離を詰める。
魔法のことなんてさっぱりだが、なんとなく強化魔法を使っていた女を置いておいて、もう一人の男を先に狙う。
「『フレイムあ』ぼふァ!!」
危なかったか?何か火が出かかってたな、魔法の完成するギリギリのとこで男の腹に拳を叩き込み気絶させることに成功した。これで2人目。
「・・・ 『スピードルーズ』!」
ん!なんだ?身体が思うように動かない?動きを遅くする魔法か?
「はぁ!」
槍の女と剣の2人が追いついてきた、同時に振るわれた剣を強化した両腕でそれぞれ受ける。人と剣がぶつかった時にはありえない金属音が響き男たちは手を止める。
「ち、なんだこいつ!」
やっぱり魔法は厄介だな、まさか動きを遅くされると思わなかった最初に鉄血で強化しておいて良かったな。
手の止まっている男たちを無視して女魔法使いに詰め寄リ一撃で気絶させる。これで3人目、そして魔法使い排除完了。
お、魔法使いを気絶させたからか魔法の効果が切れたな、普通に動けるようになった。
「さて、これ以上やられると(気絶した奴を)運ぶのが大変になるんじゃないか?逃げるなら追わないぞ」
しばらく悩んだみたいだけど残った3人は気絶した奴等を1人ずつ背負い引き返していった。
「ふう、黒ゴーレムちゃんと逃げられたかな?」
あ、しまった・・・ここがどこか分かんねぇや、まぁいいか、適当に行こう。
「クロ~~!!」
「ゴ~~!」
なんだ?この状況は?
さっき見かけたガキと黒ゴーレムが、感動の再会って感じで手を取り合いはしゃいでいる光景に出くわした。
何やってんだあいつら、2人とも嬉しそうにしてるから別にいいけど・・・
「ゴ!!」
「うわぁ!な、なに!?」
突然、黒ゴーレムがガキに覆いかぶさるように飛びかかった。
直後、黒ゴーレムの身体に黒い影が飛び掛り牙をむいた。
硬い岩の身体の為、黒ゴーレムに傷は無かったがガキに当たってたらやばかったんじゃないか?
「グルルゥ・・・」
額に角が生えた犬だ、さっき倒した奴は青い毛並みだったが今回のは黒い(黒に近い色ほど凶暴らしい)、こいつ確か仲間を呼ぶんだよな・・・
―ガサガサ―
近くの茂みが揺れる、強い殺気にその場を飛び退くと俺の立っていた場所に青と赤の犬(額に角が有る)が飛び掛っていた。
ちっ、もう仲間を呼んだ後か・・・
どうやら取り囲まれているらしい、ガキを守りながらの対処に黒ゴーレムが苦戦している、ガキたちの方へはいけそうなので合流しよう。
手当たり次第に魔物をぶっ飛ばしながらガキ達の所へたどり着く。
「ゴ!」
「よう、苦戦してるみたいじゃねぇか、まぁ、共闘と行こうや」
「ゴ~!」
俺は黒ゴーレムの背中を護るように立つ・・・
「あ!さっきのおっさん!」
「はっはっは、ガキ!次ぎおっさんって言ったら潰すぞ」
ガキのお頭に手を置きかる~く力を込める、おっさんって呼ぶのは辞めてほしい、さすがにそんな歳では無い。
「いだだだだだぁ!ごめんなさい!兄ちゃん!」
分かればいい、さて、ふざけてる場合じゃないな、魔物がかなり増えたようだ。
リーダーと思われる黒い奴が1体、あ、黒い奴もう1匹居た。
残りは青と赤が10体ずつ位か・・・
「ゴー!!」
黒ゴーレムは攻撃が大振りだ、攻撃力は高いみたいだが、すばしっこい動きの犬の魔物にはなかなか当たらない、まぁ当たった奴は一撃でぶっ飛ばされてるんだけどな・・・
防御も硬い、魔物の牙や爪をものともしないのでガキは黒ゴーレムに任せて俺は遊撃で魔物の数を減らすことにしよう。
数分後、魔物を殲滅して俺たちはやっと一息ついた。
「ありがとうクロ。兄ちゃんも、強え~んだな!」
今回助けてやった為かガキが妙に馴れ馴れしい、まぁ、どうでもいいが・・・
「ゴッ」
「あぁ、無事でよかった」
「それにしても、黒のホーンドックなんて珍しいな~、兄ちゃん一匹貰っていい?」
倒した魔物の中の黒い毛並みの奴を見たガキが訊ねてくる、そんなもん貰ってどうするんだ?
「兄ちゃんどこの貴族だよ、ホーンドックの肉は食えるんだぞ、しかも毛並みが黒に近くなる方が旨いんだ、まぁその分凶暴になって捕まえにくいんだけどな~」
「そうなのか?なら俺も一匹は貰って帰ろうかな、いい土産になるだろ」
この後、ガキに冒険者達が黒ゴーレムを狙ってるから逃がさないといけないってことを話すと、ガキはそのことを知っていたらしい、話を聞くとどうやら怪我をした子供というのがこのガキのことらしい。
子供ってのは何とでも仲良くなるよな、仲良くなった黒ゴーレム(ガキがクロと名づけたらしい、黒いからクロ安直だな・・・)とガキが森の近くで遊んでいて偶々事故でガキが怪我したらしい。
母親が冒険者に依頼をしている所を見て、クロを逃がす為に森に入って来たそうだ。
クロを森の中でも城に近い場所に避難させる、城の近くはあまり人が近付かないらしい。
クロに別れを告げガキを街まで送り(道案内させたとも言う)、土産を担いで城に戻ることにした。
「あ、リョウ、お帰り」
「リョウさん?何処かへ出かけてたんですか?」
城、離宮に戻るとリアとウリンに出会った、丁度良い。
「おうただいま、ちょっと暇潰しにな、これ土産だ」
背中に担いでいたホーンドック(黒)をウリンに渡す。
「黒のホーンドックじゃないですか!?これどうしたんですか!?」
「普通に狩って来たんだが?旨いんだろこれ、調理方法は任せるから」
「はい!晩御飯で出しますね、楽しみにしていてください!」
ホーンドック(黒)を受け取ったウリンは厨房へホーンドック(黒)を運んでいった。
「ホーンドックの肉か、私は食べたことないんだけど、冒険者達や旅人は手軽に調達出来る食料としてよく食べるらしいわね、黒のホーンドックは珍味(魔物だから)として変わり者の貴族なんかがたまに食べることが有るって聞いたこともあるけど・・・」
「普通に旨いらしいぞ、晩飯の時にリアも食ってみろよ」
「うん、そうさせてもらうわ」
その晩、俺達はホーンドックの肉に舌鼓を打つ、あぁ、言うだけあってほんとに旨かった。
食後、俺は気分転換にまた離宮の屋根に上る、するとそこには先客が居た。
「リア、来てたのか」
「うん、なんとなく気晴らしに、前にリョウに連れて来てもらってからたまに来てるの」
「まぁ、ここの空気は悪くないからな」
「前は夜の森の散歩なんかで気分転換してたんだけど、最近は物騒でそうもいかなくなってね、ここを見つけれたのには感謝だよ」
森の散歩って・・・
結構魔物の居るあの森だよな、まぁ、そのおかげで俺がリアに拾われることになったんだけどな・・・
それにしても、自衛の為の剣の訓練や魔物の居る森への散歩など、コイツ結構アクティブだなぁ。
「今日は魔物退治に行ってたんだよね?どうだった?」
「ん、余裕、今日会った魔物ならまったく脅威じゃないな、ただ、クロとは試合ってないからどうなるか分かんねぇけど・・・」
「クロ?」
今日の出来事をリアに語って聞かせてやった。
「魔物だけならともかく、冒険者ともやり合ってたの!?仕方ないかもしれないけど仕事の邪魔してるし、下手すると犯罪者扱いされるわよ」
そうか?1人相手に6人で敵わなかったとか、恥ずかしくて言えないだろ?しかも俺素手だったし・・・
「はぁ、ま、いいか」
そうそう、気にしない気にしない。
この世界に来てしばらく経った、まぁ、だいぶ馴染んで来たんじゃないだろうか?
さて、明日はどうするかな・・・