一章4話 マテリア
―ダン―
勢い良くソルダの部屋のドアを開ける、あ、ノック忘れた。
まぁいい、約束の時間に遅れそうで焦っていたんだ、だからその辺は許してくれ。
ソルダ グラージュ、勝負の後エルリオールの基本的な文字を教わる約束を取り付けるときに聞いた、この部屋の主の名だ。
で、そのソルダは突然入ってきた俺に驚いている、いや、時間だし来るって分かってただろ?
「さぁ!文字を教えろ!」
「開口一番に言う言葉がそれか!?妙に偉そうだな!それとノックぐらいしろよ!」
「ならやっぱり裸踊り・・・」
「あぁぁ!もう!オレが悪かった!文字を教えればいいんだな!とりあえず書庫の方へ行こうぜ!」
おお、焦る焦る、先に部屋を出たソルダを追って行き離宮の書庫までやって来た、やっぱりちゃんと書庫有るんだな、規模は小さいと思うけど。
「で?どこから教えればいいんだ?」
「どこって、最初からに決まってるだろ、はっはっは」
異世界人なめるなよ、基本すら知らねぇっての。
しばらくソルダに文字を教わるけど俺勉強苦手だった(学校での成績は普通だと思ってる)。
「えっと、・・・角?・・・が大きい?・・・魚?」
「いや、それはそう読んじゃ意味が変わってくるだろ」
これは今日だけじゃちゃんと覚えられないな・・・
「あ~悪い、オレそろそろ訓練に戻らないと」
しばらくするとソルダが訓練に行くと言うので文字の勉強は終わりになった。
今の状況、なんとか簡単な文字が読めるくらい(思い出しながらなので時間が掛かる)、書くのはほぼ無理、自分の名前だけは書けるようにした。まぁこんなもんか・・・
後日また教わる約束を取り付け、暇なので訓練に付き合ってやることにした。
「うわ、くそ!何だよその速さ!」
「これでもかなり力を抑えてるんだけどな(強化使ってないし)」
ソルダは両手に剣を俺は一応手甲を借りている。
しばらくソルダに合わせて撃ち合っているんだけど、こいつ段々動きが良くなって来てるな。ちょい(テンポを)上げてみるか。
しばらく経つとまた動きが良くなって来た・・・もう少し上げる・・・
また動きが良くなって来た・・・また少し上げる・・・
動きが良くなって来た・・・また少し上げる・・・
動きが良くなって来た・・・上げる・・・
何回繰り返しただろうか?
訓練の前と後で見違えるように動きが良くなった。
「だ~くそ!全然刃がたたねぇ!」
だがソルダは気付いていないようだ、黙っとこう・・・
「リョウ、今の・・・」
ソルダと別れ食堂に向かおうとしたら後から声をかけられた。
「リアか、お前も居たんだな」
「ええ、それより今の訓練、私にもしてくれない?」
「ん?俺らはただ手合わせしてただけだぞ」
「彼には気付かれないように動きを段々早くして行ったんでしょう?訓練の前と後では彼の動き全然違うわよ、リョウが彼にの少し上ぐらいの力で相手を続けたからでしょ?実力の少し上の相手との試合はいい訓練になるんだと思うわ」
「良く見てるな・・・まぁ、別にちょっと手合わせするのはいいんだけど、また今度で良いだろ?長時間動いてたから腹減っちまってな」
「分かった、でも約束よ」
「あぁ、でも姫さんが強くなる必要あるのか?」
「え?ちょっと、何で私のそれ知ってるの?!」
あ、しまった。思ったことそのまま言ってた。マナに秘密にしとくよう言われてたんだけど・・・まぁ本人相手だしいいか。
「あ~、気にすんな、まぁ別に噂にして広める気も無いから安心しろ。
てか、リリカがお姉様とか言ってる時点で他の連中にもばれてないか?」
「それは無いわ、あの子気に入った年上の人は大抵お兄さんかお姉様だもの、リリカが私をお姉様って呼んでてもほんとの姉妹と思われることは無いわ」
あぁ、俺のこともリョウお兄さんって呼んでるな、てことは俺気に入られたのか?まぁどっちでもいいけど・・・
「で、話を戻す、リアが強くなる必要が有るのか?」
「・・・有るわよ、隠されてるって言っても私も一応ここの第二王女だから、私のことを知ってる一部の人間の中には私が邪魔だって奴もいるのよ。ここは魔法の盛んな魔法王国だけど、私は魔法が使えないから他の方法で身を守らなきゃいけないのよ」
・・・・・・・・・まぁ、面倒くさい事情が有るんだろうぐらいに思っとくか。
「いくら武を鍛えても魔法に勝てると思えないんだけどなぁ・・・俺なんて今魔法使いと殺し合うのはスゲー嫌だからな・・・まぁ魔法を使われる前に潰す気ではいるけど・・・」
「魔法は大丈夫、私が王女で有ることを認められていない理由が有るから・・・」
「魔法王国の王女なのに魔法が使えないからか?」
今の話から予測するとそんなトコだろう?
「魔法が使えないだけだったら良かったんだけどね、私は生まれつき周囲の魔力を無差別に消す体質なの、だからこの離宮内では魔法が使えない、当然魔法で私を攻撃しようとしても魔力が消されてるから魔法自体が使えない、私を殺そうと思うなら魔法以外の方法じゃないと駄目なの」
魔法王国、そこの王女なのに自分たちの天敵、それで居ない事にされてんのか・・・
なぜか腹が立った、リアを王女と認めない奴も、リアを邪魔だとか言って狙う奴も、集めてぶっ飛ばしたくなって来た。
「まずはリアを鍛えるか・・・ふっふっふっ」
その内、城に乗り込んでやろう、バカ共の慌てる様が目に浮かぶぜ、はっはっはっは!
その後の俺・・・
朝適当な時間に目覚める、飯(朝はウリンが作っている訳ではないらしい)、書庫へGO(ソルダの都合がよければ文字を教わる)色々調べてこの世界のことを知る。
昼、飯(基本ウリン作、やっぱり切るだけの物が多い、今度指摘してやろう)、訓練(ソルダかリアに付き合う)もしくはリリカの遊び相手を務める。
夜、何故か夜のほうが調子が良い(血か?)、けどやることも無い上に離宮は魔法の明かりが使えない為火による明かりしかない、現代人にはあれな環境だ、さっさと寝る。
こんな感じだ。
文字の習得もそこそこ終わり、この辺の事も色々調べた。
せっかく異世界に来たんだしそろそろ魔物とかと戦ってみたいな・・・
どれくらい俺の力が通用するか試しておかないと後で困るもんな・・・
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シルバーリーフ城の一室、暗い室内で人目を避けるように、フードを目深に被ったローブ姿の男と私は話し合って居た。
「確認した、本当にメガロスアルクがやられた様だな」
「くそ!あの女はどこまで厄介なんだ!」
何なんだ!あの女は!まさかあの女がメガロスアルクを倒したと言うのか!馬鹿な!あの女がそれ程の力を持っているはずが無い!いったいどうなってる!
「落ち着け・・・次の魔物を用意した」
立てた計画が失敗に終わり興奮する私をフードの男が冷静に宥める。この協力者の男は次の魔物を用意したと言うが・・・
「く!だがどうやってあの女にぶつける?あれ以来、警戒してか夜の森には出かけていないようだぞ」
「ふ、次の魔物に城壁など関係ない、数も用意した。
仕掛けるなら何時でも出来る、時期は貴方に任せよう」
「ふむ、わかった」
フードの男は話は終わったと部屋の隅に移動し影に紛れる様に姿を消した。
「こうやって態々支援してるんだ、次は成功させてくれよ」
フードの男は最後に一言だけ残していった。
「ふん、分かってる!」
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リョウが来た日森の中であった魔物はこの辺りに生息しない凶暴な魔物、私の夜の散歩を知って誰かが放ったのかもしれないと考えた、だから最近の私は夜の散歩を自重している。
離宮で半監禁状態の私にとって夜の散歩はいい息抜きになっていたんだけど・・・
仕方ないので今私は離宮の屋根に上った。
数日前、離宮の屋根に上ったあの時はリョウに抱えられて一飛びで上ったけど、私にそんな身体能力は無いた為梯子を使う。
「あれ?」
屋根の上には先客が居た、まぁ梯子も無しに屋根の上に上れる人物は私は1人しか知らない。
「ん?リアか?どうした?お前も暇潰しか?」
私が王女だと知っても変わらない態度、私に事情が有ると分かっても大して気にして無い変な人、でもその身体能力は常人を逸している。
「まぁ、そんなところよ」
最近は訓練に付き合ってもらっているけど、自分が強くなっているのかよく分からない。いくらやってもリョウは私に合わせて来る、回りは動きが良くなって来てると言ってくれるけどやはり実感が無い。
「なぁリア、お前今のままでも良いと思ってるか?」
「え?」
なにが・・・
「このままここに閉じ込められたままで良いのか?って意味だ」
それはお父さ・・・このゴルド王国の王が決めたこと、私にはどうすることも出来な・・・
「いや、何もかも無視してここを勝手に出て行くことも出来るだろ?」
「みんな無視すればね、でも私の体質話したでしょ?私は周りの魔力を消すの、私の行く所行く所魔法が使えなくなるんだよ、皆に迷惑かけるくらいならここで大人しくしている方が良いかな・・・」
「ふ~ん」
ふ~んって、聞いてきたのにあんまり興味なさそうね。
「リョウはいつまでここに居るの?」
「ん?そろそろ出て行ったほうが良いか?文字もだいたい覚えたし調べたいことも適当に調べたからいつ旅に出てもいいんだけど・・・」
「あ!違うよ!出て行けとか言ってる訳じゃないの!ただいつまでここに居てくれるのかなって・・・」
リリカも懐いてるみたいだし私とも気兼ねなく接してくれる、できればずっとここに居てほしいくらいなんだけど・・・
「まぁ、まだどこに行くか決めてないしな・・・毎日楽しめればどこに居てもいいんだけど、ちょっと魔物とは戦ってみたいな、俺の力がどこまで通じるか試しておきたいんだよなぁ」
試しておきたいって?魔物と戦ったことが無いの?じゃぁどうやってシルバーリーフまで来たのかしら?
まぁ、リョウはまだしばらくはここに居てくれるみたいだし良いか・・・