三章6話 急転、第三試合
審判の合図と共に俺もエリスもお互いに向かって駆け出した。
刀と拳、リーチ的には俺の方が不利だ、まぁ、身体強化と鉄血でどうにかするけどな。
俺はまず刀を狙い拳を放つ、刀と拳じゃリーチで負けるけど刀を狙えばそれも関係無い。
前の試合から着けている手甲も、適当に買って来たにしては丈夫だ、刀ぐらいなら防げるだろう。
しばらく刀と拳がぶつかり合う音が会場に響く・・・やばいな、思った以上に早い、シルクの話だと更に早くなるんだよなぁ、いっぱいまで強化しないといけないかもしれないな。
「九薙の剣士か、確かに厄介だな・・・」
「あら?ばれてしまいましたか?」
「ん?何がだ?」
エリスが俺の呟きに反応し話しかけてくる、俺は拳と刀をぶつけ合いながらもそれに答える。
「アタシが使う剣術が九薙流剣術だと言うことをです」
「いや、ライネスが前の試合でお前が自分で言ってたのが聞こえたって言ってたぞ」
「え?・・・・・・・・・あれ?」
無意識か、こいつもある意味馬鹿だな。
「ま、まぁ言ってしまったものは仕方ありません。ここからは遠慮無くやらせてもらいます」
俺たちは一旦距離を置き対峙する、とりあえずめいいっぱい身体強化して拳に鉄血をかけておこう。
「雷光石火!」
つっ!!更に加速した。強化しておいたおかげで見失わずには済んだけど・・・!!
右側からの斬撃を右手の手甲で防ぐ、っち、さっきより斬撃が重くなってやがる!次は・・・背後に回ったか!?
「九薙流、双薙!!」
振り向いた所へ振るわれた斬撃を左の手甲で受けるが、予想していた衝撃と違った衝撃が手甲を打ち、俺の手を弾き飛ばす。
何だ今の?衝撃が二回来たぞ、俺の強化した目でも相手が刀を2度振るっている様には見えなかった。ってことは、通常の斬撃にもう一発プラスして斬撃が放たれる技って思っておけばいいだろう。魔法なんてもののある世界だ、常識外の技が有ってもおかしくないだろう。
って、体勢を崩しながらのん気に考えている場合じゃない!
「九薙流、風薙!」
俺の隙をついて放たれる技、風の刃が俺を吹き飛ばす。
やばい、このままじゃリングアウトする!?
「魔剣武装!っうらぁ!!」
とっさにミーナに貰った魔剣を魔装し上から自分に衝撃波を放つ。
俺はリングアウトする前にリングに叩き付けられる様に着地する、予め身体強化していたおかげでダメージは殆んど無いけど、こういうのはあまりやりたくないな・・・
「流石に、第三試合まで来ると簡単には勝たせてくれませんか・・・九薙の技を隠さず使って行ってるんですけどね、ま、前の試合も簡単では無かったですけど」
「はは、楽しませてくれる、そうでなきゃ出た意味も無いけどな!」
どうも俺は後手に回ると面倒な事になるようなので、こちらから仕掛ける、鉄血を脚にかけ、一気に距離を詰め脳天目掛け脚を振り下ろす。
正面から真っ直ぐ突っ込んだぐらいなら反応できるか・・・刀で受け流される。
蹴り上げて上段に後ろ回し蹴り、受け流されるけど、そのまま逆の脚で回し蹴りを放つ、これも受け流されるのは予想済み、素早くしゃがんで、相手の足を払うように蹴る。
エリスはとっさに跳んで避ける、空中だ・・・
「風薙!」
「はっ!」
無防備になる事が分かっているから空中で風の刃を放って牽制してくる、でも今の俺は魔装中、衝撃波を放ち相殺し、まだ空中に居るエリスにサマーソルトキックをお見舞する。
強化状態の俺の蹴りをまともに受けそのまま場外に・・・
「旋風!」
行かなかった、リングアウトする前に刀を振りぬき、自身の周りに風を巻き起こして吹き飛ばされるのを止めた。まぁ、そう簡単にはいかないか・・・
「今のは危なかったです」
「なんか余裕そうに見えんだけどな・・・」
「そうでもありませんよ、それにしても早いですね・・・師匠以外でアタシより速い人初めてです」
「そうか?ここじゃごろごろ居るだろ・・・」
シルクとか結構早い、俺以外にもエリスより速い奴は居るだろう・・・
「ま、いきますよ!風薙!雷光石火!」
エリスが風の刃を放つと同時に駆け出す。
俺は風の刃に衝撃波を放ちエリスとは逆に駆け出す。
風の刃を放たれれば迎撃の衝撃波を放ち、また、こちらからも衝撃波を放つ。
お互いが高速で動きながらの撃ち合い・・・って、当たる訳がねぇ・・・
さてどうするか・・・
俺たちは高速で動き続けているので、観客の中には俺たちが何やってるか見えていない者が多いだろう、それって試合としてどうなんだ?まぁ観客を楽しませる為にやってる訳じゃねぇからいいんだけど・・・
やっぱり接近戦だな、この俺が魔装した魔剣の衝撃波も相手を吹き飛ばすには申し分無いけど、エリスには当たらない。
俺は風の刃を掻い潜りながら少しずつエリスに近付いて行く・・・
「旋風!」
ちっ、あと少しといったところで、さっきエリスを吹き飛ばした時の技で周囲を風で薙ぎ払われる、喰らうと厄介なので距離を取りまたやり直しだ、戦闘が膠着している、面倒いな・・・
でもあの技、旋風か?周囲は薙ぎ払ってるけど上は空いてるよな、攻めて見るか。
「同じことばかり続けても勝てないだろう?そろそろ終わらせないか?」
「っ!でも、続けてるうちは負けません。(この間に何か手を考えないと・・・)」
「まぁ、仕掛けさせてもらう!!」
狙いを悟らせないように動き回り前後左右から衝撃波を撃っていく。さっきと同じように風の刃を掻い潜りながら少しずつエリスに近付いて行く・・・
狙いはエリスが旋風って技を使う瞬間。
「っつ!旋風!!」
来た、今回は距離を取る為の後退は無し、エリスが俺に背を向けているうちに跳ぶ・・・
「・・・あれ?」
よし、俺を見失った、後は・・・上からエリスの頭を押さえリングに這い蹲らせる・・・試合だしな、殺るならここで頭を吹っ飛ばすけど・・・
「これで、俺の勝ち・・・でいいよな?」
「はい、アタシの負け・・・ですね」
『試合終了ーーーー!!勝者!リョウイチ アカヤ選手!!』
審判が俺の勝利宣言をして試合終了、九薙の剣士エリスか・・・確かに少し手古摺ったけど、強敵って程でもなかったな、エリスの動きもどこか鈍かったし俺みたいな素手の奴相手にするのは慣れてないのかな?まぁ、勝ったんだしどうでもいいか。
次は・・・ライネスの試合か、昨日の男の言葉も気になるし一応見ておくか・・・
で?ライネスはどこだ?試合までまだ時間はあるけど、ライネスならもう来ててもおかしくないんだけどなぁ?
不意に来賓席のリアと目が合ったので聞いてみる事にする、ここからだいぶ距離があるけど強化して互いの声だけに集中すれば聞こえるだろう・・・
「あ、聞こえた・・・」
リアに向けて一人で喋っている俺の意図を理解して、それに即対応してくれる・・・やっぱ、リアとは相性がいいな、それはともかく、聞いてみるか・・・
「リア、ライネスの奴知らねぇか?」
「リョウの試合の前まではここで試合を見てたよ、リョウの試合に次が自分だからって舞台に向かった筈だけど・・・そっちでリョウの試合を見てたんじゃないの?」
「いやそれが見当たらないんだよなぁ・・・」
あ、俺がリアと話してるの、周りから見たら一人ではなしてるように見えるんだよな、周囲の視線が痛いなぁ、リアの方も似たような状況か?
まぁ、どうでもいい、それよりライネスだ、もう一度辺りを見回す、うん、居ない・・・
『そうだ、これも夢見の予知なんだけど、ルージュの王子が大会に参加している筈なんだ、彼のこと気にかけておいてくれないかな?放っておくと多分死ぬからね、今回僕はあまり干渉できないから・・・頼んだよ』
・・・昨日、男の言った言葉を思い出す。
「くそ!嫌な予感しかしない!リア、俺ちょっとライネス探してくる!!」
リアにいって俺は駆け出した。
来賓席から試合のリングまではだいぶ離れている、俺なら身体強化してショートカットできるけどライネスは普通の道を通っているだろう、来賓席からリングまでの道程をライネスを探しながら駆けて行く・・・
「!!」
立ち止まる、来賓席からリングまでの道程の中程・・・
物陰から僅かに見える液体に体が反応する・・・
それは、俺の心を掻き立てる、紅・・・
鼻につく紅の匂いは俺を更に掻き立てる・・・
物陰に横たわるのは、自らの紅に塗れ倒れ伏す・・・
「ライネス!!」
第三試合3回戦
法炎の聖騎士 四重の魔法使い
ライネス フレイムロウ 対 サダン クォーテット
ライネス フレイムロウ 不戦敗