三章4話 対話、第二試合
俺の試合は第二試合4回戦、まだ時間があるので闘技場内をうろついて暇潰しをしていたんだが、これはどういうことだ?
周りに人が居ない?さっきまでは観客や大会の役員が居たよな・・・
「君が深紅の魔王かな?」
俺が戸惑っていると後ろから突然声をかけられた。
「別に自分で名乗ってるわけじゃないんだけどな・・・」
腰に2本の刀を差した黒髪の男、刀か・・・こっちでは使ってる奴あまり見かけないよな、まぁ、どうでもいいけど・・・この状況、こいつがやったのか?
「何だお前?この状況、お前がやったのか?」
「まぁ、そうだよ、これからする話をあまり他の人に聞かれたくないからね、ちょっとこの空間を斬り取らせてもらったよ、大丈夫、試合の時間までには解放するから安心して」
「はぁ、めんどくせぇ・・・で?何を話すんだ?」
「まずは確認、君は異世界からこの世界に来たんだよね?」
俺はエルリオールに来てから一度も誰かに異世界(地球)から来たって話しはしてない筈だぞ。
「お前、何を知ってやがる」
少々警戒を強め、いつでも殴り倒せるように身構える。
「そんなに警戒しないで、君が異世界から来たって言うのは僕の予想だよ、でも、今の反応を見る限り間違ってなさそうだね」
ちっ、失敗したな・・・まぁ、仕方ない。
「君はこの世界の夢見の民って一族は知っている?」
「いや、聞いた事無いな」
「夢見の民って言うのは未来を予知する力を持った一族のことを言うんだ、僕の仲間の夢見で最近の出来事・・・ルージュとゴルドの戦争なんてのも有ったけど、その中に君が出て来ないんだ。
君と言う予知に登場しない人物に因って未来は予知とは違う物に変わった。
僕の知る限り、夢見の予知に登場しない上に未来を大きく変えることが出来る人物は異世界、元々地球に居た住人しか居ないんだよ」
そう言えば、自称神も俺の存在が良くも悪くも未来に影響を与える的な事を言っていたな・・・それを分かっているこいつは、俺以外の異世界人を知っている、もしくはこいつ自身が俺と同じか・・・
「僕は、君がこの世界で何を成そうとしているのかを知りたい、返答次第で僕は君の敵になる・・・」
「はぁ、めんどくせぇ・・・まぁ、そうだ、俺はこの世界に元々居る人間じゃない、お前の言う通り地球から来た、それに・・・」
男の質問に答えるため俺は多少強化をかけて床を踏み砕いた。
「地球人だが、純粋な人間って訳でも無い・・・こんな力を持つ俺だ、地球での暮らしは退屈すぎるんだよ、そんな中この世界に来る事になった、この世界なら俺の力も存分に奮えるだろ?
安心しろ、この世界に俺を呼んだ奴との約束も有る、無闇に誰かを傷つけたりしねぇよ」
自称神との約束、未来を良い方向に向かうように気にかける。
それに、守りたい奴もいる。
「うん、安心したよ。
君が本当に魔王じゃなくて良かった」
「ふ、口で上手いこと言ってるだけかも知れねぇぞ」
「なんとなく、君も僕と同じなんじゃないかって思うんだ、この世界で守りたい者が出来た。その人が悲しむようなこと絶対にしないよ」
「・・・・・・」
「あ、そろそろ限界かな?僕は少し先の未来の為にあまり干渉できないからね、ここでの物語りは君に任せるよ。どうか悲劇を断ち斬り、幸せな未来を紡いでくれ」
「あんた、何者だ?」
俺を試したかと思えば未来がどうとか・・・言ってることはよく分からない。
「僕も君と一緒だよ、異世界からエルリオールに来て、守りたい人の為に戦っている」
「俺は好き勝手やってるだけだ」
「はは、それでも良いよ、君が目指す未来ならそう悪い物にはならないだろうしね」
そう言って男は背を向け歩き出し、少し歩いたあとふと足を止め振り返った。
「そうだ、これも夢見の予知なんだけど、ルージュの王子が大会に参加している筈なんだ、彼のこと気にかけておいてくれないかな?放っておくと多分死ぬからね、今回僕はあまり干渉できないから・・・頼んだよ」
「は?ライネスが?」
聞き返そうとしたが回りに人が現れた、元に戻ったのか?・・・俺の声は男に届いていない、男はそれ以上何も言わず立ち去ってしまった。
『第二試合4回戦を始めます!選手の方・・・』
丁度、俺の試合が始まる時間が来てしまった。仕方ないリングに向かうか・・・
「リョウ、やっと来ましたね」
「あ、リョウイチさん急いだ方が良いよ」
途中、ライネスとミーナに出会った。
・・・放って置くとライネスが死ぬと言うさっき男から聞いた言葉が頭を過ぎる。
前の戦争でライネスの兄二人が死んでるからな、その上ライネスまで居なくなったらルージュの状況は悪くなるだろうな、面倒だがちょっと気にかけておくか。
「ライネス、大会中ちょっと身の回りに気をつけろ、なんかよくない予感がする」
正直にお前は死ぬとか言っても駄目だろうな、まぁ、少しぼかして注意しておこう。
「ミーナ、この前貰った魔剣、魔短剣か?使わせてもらうな」
「はい、頑張ってくださいね、それと、リョウイチさんの次の対戦相手ですけど、試合後少し話がしたいので引き止めてもらえませんか?」
「?まぁ、いいけど・・・」
「相手の名前、気になるんですよね、ソードなんて家名そう無いですから・・・」
ソード?そう言えばこの前会ったジンもソードだったな、ジン ソード、確か魔剣鍛冶師グラフト ソードの孫って言ってなかったか?
そうか、ミーナも魔剣鍛冶師だから同じ家名の相手が気になるのか、まぁ、その辺は試合後だな。
「お願いしますね」
『え~、それでは第二試合4回戦を始めます!両選手、準備はいいですね?』
第二試合4回戦
深紅の魔王 大戦槍の少女戦士
リョウイチ アカヤ 対 シルク ソード
「また女か・・・やりにくいな・・・」
「これでもちゃんとした冒険者ですから、あまり嘗めないで下さい」
確かに対峙する少女は、その細腕で振り回せるとは思えない大剣のような刃を持つ大きな槍を普通に肩に担いで来た、見た目以上の怪力なのだろう。
「それは悪かった、じゃあ、始めようか」
「ええ、いきますよ」
『第二試合4回戦開始!!』
開始と同時にミーナに貰った魔剣を魔装する。
「魔剣武装!!」
シルクは大槍を軽々と振り回し攻撃を仕掛けてくる、今回は手甲をはめてるけどこんなもの受けたら只じゃ済まなくないか?注意が必要だ。
槍の横っ面に衝撃波を叩き込み軌道を逸らして攻撃を避ける。
「前の試合で使っていた能力ですね、魔剣を取り込み身体を強化するってところですか」
「取り込んだ魔剣の力も使えるけどな!」
距離を置いてシルクに衝撃波を放つ。
大槍を盾にして衝撃波を防ぎやがった、大人の男ぐらいなら軽く吹き飛ばせる筈なんだけどな、それだけあの槍が重いって事か?
「魔剣を待ってるようには見えませんでしたけど・・・」
「短剣だからな、見つけられなかっただけだろ?隠してる訳でもないしな」
言いつつ距離を詰め拳を叩き込む、これも槍を盾にして防がれるけど・・・拳を防がれた後、下から持ち上げるように槍に衝撃波を叩き込む。狙うのは槍、衝撃波に続き左右の拳を下から叩き込む。シルクは槍を強く握り俺の攻撃に耐えている、俺の下からの攻撃を耐えるために下に力を込めているだろうから、いきなり槍に上から蹴りを落とす。
「あっ!」
狙い通り、槍を地に叩きつけることが出来たので槍をそのまま踏みつけ、空いた身体に拳を叩き込む。
「っ!疾風!!」
俺の拳は空を切った、見るとだいぶ前の方にシルクが非難している、今動きが急に早くなったな、こいつも強化を使うのか?
でも槍を手放さなきゃいけなかった様で槍だけ俺の足元に有る、咄嗟に武器を手放すなんて潔いな。
とりあえず槍を拾い上げ振り回してみる・・・うん、無理だな、扱い方なんざ全くわかんねぇ、強化してれば振り回す事に問題は無いんだが・・・慣れない物を使うべきじゃないな。
槍を力一杯リングに突き刺す、まぁ、シルクの怪力なら簡単に抜けるだろうけどどうでもいい。
使えないようにしたいならリングの外に投げ捨ててやればいいんだし・・・さすがにそこまではやらないけどな・・・
「力には自信があるんですけど、アタシの大戦槍を軽々振り回すなんて・・・貴方も力は有るようですね、でも速さはどうですかね?疾風!」
ちっ、また加速した。俺も身体強化して迎撃するか・・・
「旋風!」
ん?こいつのやってるの強化じゃないのか?シルクの蹴りと共に風が巻き起こる、衝撃波をぶつけて相殺したけど・・・なんだ?こいつの力?ソルダの使う付加魔法のようにも見えるけど詠唱している気配が全く無い、さっぱりわからねぇな、まぁいい、注意しつつ適当にやろう。
と、考えてるうちに・・・大戦槍って言ってたか、槍を取り戻された。
結構深く埋めたのに軽く引き抜く辺りやっぱりこいつはバカ力だな、スピードも有るしやり難いなぁ・・・
「旋風槍!!」
うお!さっきの風より威力が高い、衝撃波1発じゃ無理だな、ミーナに貰った魔剣は連続して衝撃波を放つ事は出来ないし、ここは逃げるか・・・
足の強化を強くし駆け出す。
「む!速い!でも負けませんよ、疾風!」
追いついて来るか、もうちょい強化した方が良さそうだな・・・
横薙ぎに振るわれる大戦槍をしゃがんでかわす、そこに回し蹴りと風による追撃が来る。
「ちっ!」
シルクの蹴りに合わせる様に俺も回し蹴りを放ち衝撃波で追撃する、これで相殺。
「むっ、なんだか手加減されているような気がします」
「試合なんだし加減するのは当たり前だろうが、全力でやったらどっちかが死ぬぞ・・・」
俺の全力だとシルクを挽肉に変える位楽に出来るだろうな、実際、前にリアを襲った暗殺者を潰したしな。
第一試合開始前から悪目立ちしてるのにこれ以上目立ちすぎるのもあれだ、やり過ぎない位で丁度いい。
「まぁいいです、負けた後での言い訳は聞きませんから」
「はっ、負けねぇよ!」
後手に回ってると攻撃を相殺したくなるのでこっちから仕掛けてみる。
鉄血で硬化した拳で正面から打つと、拳を回避する為後退しながら風を放ってくる、衝撃波を飛ばし無理矢理風を掃い追いかけ追撃する、拳の連打を叩き込むも、槍に防がれる。
「うぅ・・・どう考えても拳と槍のぶつかってる音じゃないですよね?!一体どんな身体してるんですか?!」
「こういう身体だ!余計な事ばっか気にしてると一気に終わらせるぞ!」
リングの一部を踏み砕き石片を舞い上がらせる、それをシルク目掛けて拳で撃ち出した。
「おわ!」
案の定、槍を盾にされるけどそれでいい、しばらくそこに留まってくれれば・・・
「あが!?」
シルクの脳天に石片が直撃した。
俺が真っ直ぐに撃ち出す、横からの攻撃は槍を盾に防いでいたけど、同時に上に撃ち上げていたいくつかの石片の1つが上手いことシルクの頭に当ったんだ。
打ち所が悪かったのか?今の一撃でシルクは気絶、試合は俺の勝利で終わった。