一章11話 対暗殺者
リョウが降ってきた日、月詠の森で交戦した大型の魔物、先日離宮の屋根の上で襲われた鳥の魔物、最近命の危機に会っていることが多いような気がする、元々私は存在自体を疎まれているから命を狙われることはときたま有った、でも魔物を使役してくる相手は居なかった。
先日、城内で焼死した男が居たが回りは殆んど騒ぎにならなかった、以前からの経験上、その男が私の命を狙ったのだろう、その後は魔物の襲撃も無く、わたしはすっかり油断してしまっていた。
それを避けられたのは偶然だった。
リョウとの訓練を終え訓練所から浴室に向かう途中だった、酷使した身体が悲鳴を上げ、足がふら付き数歩よろめいた時、私の頬の横を黒く染めた刃が通りすぎた。
瞬時に理解する、今私は命を狙われている。
腰の剣に手を掛け周囲を警戒する、気配を探ろうと意識を研ぎ澄ませた私の耳に背後から僅かな風切音が聞こえた、それを頼りに剣を振るう、夜の闇に溶け込みながら飛来した黒い刃を一閃の元に叩き落すことに成功する。
再度飛来する黒い刃を叩き落しながら相手の居場所を探る、しかし相手の気配はまったく感じられない、おそらく誰かに雇われた暗殺者だろう・・・
方向を変えながら黒い刃が飛来する、それを打ち落とし続けていられるのはリョウとの訓練が効いているみたいね・・・でも、いくら集中してもまったく相手の気配が感じられない、今まで相手にした暗殺者とは実力が違いすぎるのかな・・・まずいかも知れない・・・
「チッ・・・」
何度か刃を退け打ち落とした所で、不意に相手の気配が感じられるようになった。いや、相手が気配、殺気を隠すのを止めた。
正面から黒いフードを被った男が姿を見せる、手に握られているさっきから飛んで来ている黒い刃と、私に向けられた殺気でこの男が暗殺者であることが分かる。
「聞いていた話と違うな・・・飛刃だけで殺れないとわ思わなかった」
刃が尽きた為、直接私を狙うことにしたみたいだ。
「いいの?暗殺者が顔を見せて・・・」
「直ぐに死ぬ奴に見られても問題無い」
やっぱりそう来るか・・・
速い!消えたように見えるほどだけど、なんとか目で追えている、やっぱりリョウとの訓練のおかげね。
壁を背にしていたことも幸いした、左方から繰り出された男の刃を剣で受ける、直ぐに飛び退き反対の手で振るわれた刃を回避する。
相手が速すぎて防御で精一杯な状態、私じゃこの男に勝てそうに無い、幸いまだ訓練所からはそう離れていない、騒ぎを聞き付け誰かが来てくれるまで耐えるしかない・・・
しばらくは男の攻撃に耐えていたのだけど訓練で身体に疲労が溜まっていた為、私の行動は次第に鈍くなって・・・段々と攻撃が身体を掠めだす。
「く!」
眩暈!?しまった!刃に毒!?
視界がぼやけ身体がふらつく、手に力が入らず剣を取り落としてしまう。
敵の刃に毒が塗ってあったんだ、浅く斬られた傷口から微量の毒が体に入り込んでいたんだろう、相手は暗殺者、毒を使っていないと考える方がおかしいか・・・
立っているのがやっとの私の前で男が黒い刃を振り上げる、気合、根性、なんでもいい、とにかく体を動かすんだ!
「うあぁ!」
何とか体を動かす、私の首を狙った刃は見当違いの場所を斬り付けるが、傷はけっして浅くない、即死は免れたけどこのままだと出血で死ぬ・・・
「ようやくか、まぁ予想以上に手古摺らせてくれたがこれで終わりだ」
男が再度刃を振り上げる、どうやら、出血しするまでの時間は与えられないみたいだ・・・
「(嫌、死にたくない・・・)」
思えば私の世界は離宮と、こっそり出かける月詠の森だけだった。それは今も変わらないし、以前に大型の魔物に襲われてからは用心の為、森にも出かけることも無くなった。それでも最近リョウがやって来てからは色々と楽しかった。特に変わったことをしていた訳でもなかったし、リョウはリョウで気ままに過ごしていたけど、私はリョウと過ごす日々を楽しんでいた・・・・・・
「(まだ、死にたくない・・・)」
私の想いは聞き入れられることも無く男の刃は振るわれた。
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マナから離宮の兵士たちの出撃命令が出たことを聞かされた。色々思うところがあるようでその戦いに俺にも離宮の特異隊として参戦して欲しいそうだ、まぁ、数の少ない特異隊のみで戦場に出なければいけないと聞かされた(死んで来いって言われてるようなものだな)ので、また暴れてくるとしよう。
現在、俺と一緒に訓練中のソルダや、今ここで訓練をしている他の兵も当然戦場に出る、先に訓練を終えて今訓練所に居ないリアはここから出られないみたいなので参戦しないけど・・・
「(こいつらを死なせたくも無いしな・・・)」
いつの間にか俺は、ここの連中をアホな命令で死なせたくないと思うくらいには、気に入ってしまっていたようだ。
「ソルダ!ちょい待て!」
おかしい、この訓練所以外から刃のぶつかる音がする、聞き逃しそうなほどに微かにだが剣戟の音を俺の耳が聞き取っていた。
「どうした?」
「いや、ちょい気になることがあるだけだ、悪いけど訓練は中止な」
気になった俺はソルダとの訓練を中止して音のする方へ向かった。
場所はそれほど離れていない、訓練所を出て直ぐだった。
だが、目の前の光景に頭が白くなる、対峙するリアとフードの男、男の手には血に濡れた黒い刃、ふらつきながら何とか立っているリアはあきらかにやばい量の血を流していた。
男が刃を振り上げる・・・
「血を燃やせ」
無我夢中だった、男は刃を振り下ろす前に俺の拳で地に叩き付けられ・・・いや、地面に押しつぶされて血の花を咲かせた。
一瞬で挽肉にした男には目もくれずリアの元に駆け寄る。遠目にも分かった様に出血が酷い、早く止血しないとこのままじゃまずい、けど傷口は深くこんな傷の止血方法なんて知らない。とにかく傷口を服を切った布で押さえつけるぐらいか?!
「・・・・・・リョウ?」
「リア!しっかりしろ!今医者に・・・」
「もう無理・・・・・・私には・・・魔法が効かない・・・」
くそ!そうだったリアの体質じゃ元の世界では奇跡とも言える治癒魔法も効果が無い、この世界の医療がどの程度の物かはよく知らないけど、医師も基本的に魔法頼りなのは本で読んで知ってる、それじゃあリアは、助からない!?
「くそ!どうすればいいんだよ!とにかく運ぶからな!」
「・・・ごめん、もう・・・いいよ、今から・・・どこに行ったって血が流れすぎて・・・助からない」
そんなことは分かってる、でも何もしないわけにはいかない!止血できれば、後で血ぐらい用意してやるのに、ってこの世界に輸血の装置ってあるのか?
・・・・・・・・・輸血。
「リア質問だ、死にたくないよな?」
「・・・・・・・・・もう無理だよ」
思い出した、リアを救える方法、昔親父に聞いたことがある、俺は一生使わないと思ってたけど・・・
「無理とかそんなのは聞いてない、死にたくないか?そう聞いてるんだ」
「・・・・・・うん、死にたく・・・ない」
使うならリアに確認を取る必要がある、俺の意思だけで勝手にやる訳にはいかない・・・
「今からでも、助かる方法が有る、どうする?」
「・・・・・・・・・本当?私、助かるの?」
「あぁ、でも人を辞めることになるぞ・・・」
俺の血を・・・供血する・・・