一章10話 異端者
ルージュはゴルドに戦争を仕掛けた。
ルージュはまずは奇襲を仕掛けゴルドに攻め込む、しかし相手の援軍により戦場は膠着状態になった。
そこに兄がどこからか用意してきた古代遺物により戦場に封魔の陣を張る、陣を張り終えた後、到着した援軍と共に戦闘を開始した。
同時にゴルド側にも援軍が到着したが、封魔の陣によりゴルドの魔法部隊はまったく役に立たず、騎士の錬度の高いルージュの快勝が見えていたが・・・撤退を開始したゴルド軍の追撃に出た所で異変は起きた。
1人の男が追撃を阻む為に戦場に残った。誰もが予想しなかった、その男1人で追撃に出ていた部隊を圧倒して見せるなんて・・・
その戦場で指揮を取っていた兄はその男を脅威と見なしてそこで討つことを決める、元々ルージュの騎士達の中でも一位二位を争う強さを持った兄であったが、古代遺物同様、どこからか手に入れて来た魔槍によってルージュ内に兄に勝てる者は居なくなった。今回も兄が簡単に勝利する。そうルージュ軍の誰もが思っていた・・・
「兄さんが死んだって本当!?」
僕は報告を聞き、慌ててフレイムロウ城内で今戦線に立っているのとは別の部隊の準備をしている、もう一人の兄の下へと駆け込んでいった。
「あ?ライネスか・・・そうだ、まったくあの馬鹿は、せっかく強力な魔槍を手に入れてやったのにあっさり負けやがって・・・まぁそんな訳だから、これからの指揮は俺が取ることになった。こいつ等の力を振るってきてやるよ」
兄の死を馬鹿の一言で片付けられ僕は愕然とする、あぁ駄目だ、王である父が病に伏せた頃からだろうか?2人の兄が競って戦争を始めたのは・・・実質、ルージュ帝国の実権を握ってしまった兄達を止めることは僕1人にはできなかった。
でも何とかして戦争を止めないと・・・どうやったって戦争の皺寄せなんて国民が被ることになるんだ、何とかしないと・・・
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シルバーリーフ城の会議室で今、軍事会議を開いています。
先日のルージュとの戦いで魔法を封じられた事に対する対策が今回の議題の主なところです。
ですが、王の一言でもはや会議と呼べない物になりつつあります。
「特異部隊に任せればいいだろう」
会議中は大人しくしていることの多い(会議内容が分からない程の愚王)王が発した言葉・・・王に気に入られたい大臣達はその言葉に賛成の意を示し、各部隊の隊長陣は何か言いたそうにしていますが、王の言葉に強く出れないでいます。
特異部隊とは、簡単に言えばマテリアの居る離宮に所属する兵士達のことを指します。
普段から魔法無しで修練を続けている者達なので、魔法を封じられた状態ではこの城の兵たちの中でも一番上手く戦える者達でしょう、しかし性格に難の有る者や大きな欠点を持つ者、待つ能力が特殊過ぎる者、理由は様々ですが離宮に居る人達は一癖も二癖もあるのです。王や大臣達は彼らを捨て駒程度にしか見ていないので簡単に言ってくれますが、彼らと他の部隊の者が連携を取ることは極めて困難です。
半ば強引に会議が終了し、特異部隊が単身で戦線に立ち他の隊で後から援護という作戦とも言えない作戦が決定しました。私や隊長陣が反対意見を述べましたが王により黙殺されました。
「よろしかったのですか?」
フィリアが声をかけてきます。
私が特異部隊を単独で戦線に立たせるように仕向けたので、疑問に思い言っているんでしょうけど・・・
「いいのですよ」
下手な連携を取ることは返って危険です。おそらく、特異部隊と他の隊が連携を取るよりも特異部隊のみに戦線を任せる方がいい動きが期待できるでしょうけど・・・数が違いすぎます。連携しようがしまいが良い結果にはならない、特異部隊は全滅するでしょう。
けど、そうならない為に今離宮に向かっているのですよ・・・
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離宮の兵士に刀剣類マニアが居たので、この前戦場から持って帰って来た魔槍を見せてみる・・・この魔槍なぜかフィリアたちに回収されず俺が今も所持している・・・
「これって、最近ルージュの王子が手に入れたって言う吸血の魔槍じゃないか?離宮じゃ詳しい解析は出来ないけど多分間違いないよ、どうやって手に入れたんだ?」
妙な二つ名、深紅の魔王という名は俺の知らないところで広まってるみたいだけど、それが俺のことだというのは殆んどの奴が知らないでいるようだ、説明が面倒なので拾ったとだけ言っておくことにした。
吸血の魔槍か・・・俺は吸血鬼と人間のハーフだけど普通の食事で栄養摂取出切る、血でもいいんだけど、血を口にすると気分が昂るので吸血行為はまったくと言っていいほどした事が無い。
この武器を見ても自分に合うとは思えないんだよな・・・雰囲気が禍々しいし・・・持ってても仕方ないし売るか、魔槍だし良い金になるだろ。
街に行くか・・・まぁ、その前に飯食ってからだな。
食堂でウリンに昼飯を用意してもらう、ウリンも丁度昼を取る所だったらしく、一緒に食べることになった。今回の昼飯はウリンが作ったらしい、うん、前に食った賄いのように切るだけではない昼食は絶賛するほどではないが普通に美味かった。そのことを言うと・・・
「よかった、ボク切る以外の調理法が苦手であまり自信なかったんですよ」
「そうか?普通に出来てると思うが・・・」
先程のウリンが調理している姿を思い出す、包丁捌きが凄かったな、それに比べたら確かに焼くとか煮るとかはぎこちなかったけど・・・包丁捌きが凄すぎて他が苦手だと思い込んでるだけじゃないのか?現に出来上がった料理は普通に美味い。
「これなら自信持っていいぞ、まぁ、俺の好みの味付けだったってだけかもしれないけどな」
「こ、好みですか!」
何赤くなってるんだこいつ・・・俺にそっちの気は無いぞ。
色々不味そうなので飯食って直ぐに逃げるように城を出た、ちゃんと魔槍も持ってきているぞ。
「とりあえず武器が売ってるとこに行くか・・・」
しばらく街をさ迷って店先に剣と盾の看板がある店を見つけた。
中に入ると俺以外に男の客が1人と店員と思わしき女性が1人、あまり流行っていないのか?この店で大丈夫か?
てか、ここ何屋だ?いろんな武器に鎧や盾といった防具、傷薬と思われる物や爆弾らしき物はまぁいいとしよう、ファンタジーな店なら売ってても不思議じゃない、しかしそこに野菜や果物、本や子供の玩具など、いろんな物が置かれている。
「あれ?リョウイチじゃねぇか、どうした?」
店内を見回していると客の男が話しかけてきた、
「誰だ?馴れ馴れしい・・・」
「おい!そりゃねぇだろ!」
まぁ、冗談だが・・・男、ソルダはからかい甲斐があるなぁ。
「冗談だ、で?ソルダはここで何してるんだ?」
「あぁ、お前との訓練で使ってた武器がボロボロになったから、新しいのを買いに来たんだよ」
武器がボロボロになった?訓練用の剣は元から刃が潰してあるものだから関係無いんじゃないのか?こいつまさか訓練に・・・
「真剣使ってやがったな?」
「あ・・・いや、その・・・あはははは」
ソルダが急に冷や汗を流しだす。乾いた笑いを浮かべ取り繕おうとしているがムカつくだけだ。
「よし、次の訓練から手加減無しだな」
「すまん!オレが悪かったから勘弁してくれ!」
まぁ、訓練中に気付かない俺もどうかしてるが、訓練で心剣を使って使い物にならなくなったから新しいのを買いに来たって・・・要らん出費だろ?
「まぁな、ちゃんとしたのを打ってもらおうとすれば結構かかるからな、だからこの店で良いの無いか探してるんだよ」
あ、やっぱりこの店しょぼいんだ、ここで売るの止めようかな・・・
「いやいや、品揃えや質は良いんだよ!只関係無い物まで並んでるから見つけ難いってだけで」
「ふ~ん、なぁ、店員さん?これいくら位で買い取ってくれる?」
とりあえず聞くだけ聞いてみる、店員の女性は俺の出した魔槍を見て目を丸くして驚いている。
「あんた、これを売るのかい?こんな凄い品、滅多に手に入るもんじゃないよ」
「あぁ持ってても邪魔なんでな、いくらになる?」
正直持ち運ぶのも面倒だ、さっさと処分してしまうに限る。
「悪いがうちじゃ買い取れないよ、魔剣の類は取り扱ってないんだよ。どうしても売りたいってんなら中央広場の通りにある武器屋に行ってみな、そこなら魔剣の類も取り扱ってるから」
「そうか、まぁ、そっちに行ってみる、邪魔したな」
ここじゃ売れないって言うならいつまでもここに居ても仕方ない、言われた所に行くか・・・
「ねぇ!そこの槍持った銀髪の人!」
中央広場ってどっちだ?ここに来て日が浅いからしっかりと地理を把握してないんだよなぁ・・・
「ねぇ!ちょっと待ってって!」
中央広場に向かおうとしていた俺の肩を掴む奴がいた。腰に刀を二本差した黒髪の女。その隣に獣耳を生やした銀髪の男、こいつは剣二本。後に長い黒髪を後で一纏めにした剣士風の男、こいつ、なんか雰囲気が他の二人と違うような気がするな。
3人が俺のほうを見ていた。
「ん?なんか用?」
「「あぁ、お前の・・・・・・・・・」」
2人の男の声が重なった、同時に話し出してしまい同時に押し黙った。少し気まずい空気が流れるけどどうでも良いから、用が有るなら早く話してくれ。
「あたしが話すね」
「すまん任せる」
代表で女が話すみたいだ・・・
「こんにちは、あたしはカリン、貴方の名前聞いても良い?」
「涼一だ」
「リョウ・・・イチ?」
「あぁ・・・」
俺の名前を聞き少し女、カリンの動きが止まる。なんだ?何か問題あるか?
「あ、ごめんなさい。えっと、リョウイチさん、貴方の持ってる槍、私達に譲ってくれないかしら?」
「槍?これのこと?お前達が買い取ってくれるのか?」
俺の持ってる槍って、今から売りに行こうとしている魔槍しかない。
「売ろうとしてたのか!」
黒髪の男が驚いた声をあげる、信じられない物を見る目で見るのは止めてくれ。
「何か問題あるか?」
「いや、それを売られると俺が困るんだ、俺の名はジン、ジン ソードだ、その魔槍は俺の爺さん、グラフト ソードって魔剣鍛治師が造った物なんだが・・・」
「ふーん」
「お前、魔剣鍛冶師グラフト ソードのこと知らねぇのか?」
獣耳の男よ、俺がエルリオールの有名人なんて知るか!てかお前だけ名乗ってないな、どうでもいいけど・・・
「俺は爺さんの残した魔剣を回収、破壊している、無責任に乱造した魔剣達は扱い方によっては世界に不幸を撒き散らすからな」
まぁ、そうだな、この魔槍を使ってた奴もろくな奴じゃなかった、こいつ等の言ってることが本当なら渡してやってもいいな、本当ならな・・・
「お前らの言ってることが本当だと証明できるか?」
「出来ないな」
あっさりと否定するジン。
「なら渡さない、って言ったら?」
「力ずくで破壊する」
奪うではなく破壊と言った、ここで奪うと言われたら俺はこいつらを信用しなかっただろう。
「わかった、俺が持ってても邪魔なだけだ、持って行け」
持っていた魔槍を一番近くに居たカリンに渡す、これで俺の用事は無くなったな、城に帰るか・・・
「あ、ありがとう!何かお礼しなくちゃね」
「いや、ほんと邪魔だったから貰ってくれてよかった、礼なんて気にすんな」
まだ何か礼をと言う3人をなんとか説得し城に帰ることにする。儲けにはならなかったけどまぁいい。
城に帰ると離宮内が騒がしくなっていた。何か有ったのか?
「あ、さっきの魔槍の!」
「ん?」
お?魔槍の鑑定をしてもらった刀剣マニアの兵士じゃないか。
「さっきの魔槍、調べたらグラフト ソードの作品じゃないか!凄いぞ!」
「あれならもう無いぞ」
「は!?」
見事に固まったな、グラフト ソードってそんなに有名なのか?
「欲しがってる奴に譲った」
「なぁぁぁぁ!?」
「そんなことより何か有ったのか?妙に離宮内が騒がしいけど・・・」
「無い、譲った、無い、譲った、無い、譲った、無い、譲った、無い、譲った・・・」
こいつ駄目だな、他の奴に聞こう、適当な奴を捕まえて聞いたら、なんか離宮にマナが来ているらしい、そんな騒ぐようなことか?と思ってたら、第一王女が離宮に来るのは今回が初めてのことのようだ、そりゃ騒ぐよな。ちょっと見てくるか・・・
「なんだ?フィリアも一緒か?」
騒ぎの元を辿りマナの所にたどり着くと、マナだけでなくフィリアも一緒だった。
「リョウイチさん!やっと帰ってきましたね!どこ行ってたんですか!?」
フィリアが俺を見つけるなり怒鳴りつけてくる、どこで何しようが俺の勝手だろ?
「まぁまぁ、フィリア落ち着いて、今日はリョウイチさんにお願いが有って来たんですから」
「俺に?頼み?」
なんか面倒な予感がするな・・・