一章9話 戦線に立つ深紅の魔王
「まさか、魔法を封じる術を用意しているとは・・・」
フィリアが隣で弓を構え悔しそうに戦場を見つめている。
敵側の増援と俺達が戦場に到着したのはほぼ同時、そのまま戦闘が開始された。
騎士たちが防衛線をはり、魔法隊が・・・よく分からないけど、全員で息を合わせ魔法の威力を増幅する方法で詠唱を開始する、詠唱が終わった所で騎士たちを下がらせでかい魔法を叩き込む筈だったのだけど、魔法はまったく発動しなかった。
「そう簡単に出来るような事ではないのですけどね、古代遺物でも掘り当てたのでしょうか?」
「どうやったかは気になるが、魔法がかき消されてる以上戦力はがた落ちだ、これからどうするか早く決めなきゃならねぇだろ?」
だいぶ後退した前線では魔法の援護無しで騎士たちが戦っているが、向うの騎士に押されているのは明らかだ、騎士国の騎士と魔法国の騎士の練度の差が出てるな・・・
「く、だいぶ攻め込まれるでしょうけど、仕方ありません、ここを放棄します。前線の騎士たちは敵を牽制しつつ後退!」
一旦引くか、まぁ体勢を立て直さなきゃ被害ばかりでかくなるもんな。
さて、俺の出番か?
「リョウイチさん?引きますよ!」
「あぁ、さっさと行け、前線の騎士たちも一緒にな・・・まぁ、役に立ってやるよ」
「ちょっと!リョウイチさん!?」
撤退を始める兵たちの流れに逆らって前線へ向かう、敵騎士の剣を捌き切れずにやられようとしている騎士が居たのでとりあえず助けておく。
剣を振り上げた敵騎士の鎧を強化した状態で蹴り飛ばす。上手い具合に他の敵を巻き込みながら吹っ飛んで行ってくれた。
俺は庇った騎士に逃げるように言い、敵軍と向き合った。
「さて、こっからは俺が相手だ、魔法を封じたことを後悔させてやる」
追撃を仕掛ける敵兵を手近な奴から殴り飛ばしていく。
「なんだ!あいつ!」
「いいから殺せ!たった一人で何が出来ブふ!」
俺が1人だからと油断しているのだろうが、それは命取りだ、近付いてきた奴をぶっ飛ばす。
「ヒッ・・・!」
追撃に来た部隊の半数近くを片付けた、敵兵を吹き飛ばすと小さく悲鳴が上がりだす。ようやく、自分たちが相手にしている奴が異常である事に気付く者がでてきたようだ。
「何なんだ!何なんだ!」
「いやだ!こんなはずじゃない!簡単な作戦だったはずだろ!」
「おい、一斉に仕掛けるぞ!」
「無理だ!あれは危険すぎる!」
兵士たちが混乱しだしたようだ。よし、できるだけ相手を怯えさせて撤退してもらおう、俺は自身の存在を誇示する様に前へ踏み出し声を張り上げる・・・
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敗色で染められていた戦場は一転した。
「マナ様から話は聞いていましたが、これほどとは・・・」
彼は今たった一人で敵兵を圧倒しています。
既に撤退の為の時間は充分に稼げている、それどころか彼がこのまま戦い続ければこの場は勝利できるのではないでしょうか?
「魔王と言われても信じてしまいそうですね・・・」
「あははははははは!どうした!こんなもんか!?
騎士国の騎士なんだろ?素手の相手にこの様じゃあ剣が泣くぜ!
まぁ、人間ごときが俺に敵うはず無いんだけどなぁ!はははははは」
笑いながら次々と敵兵を薙ぎ倒していきます。ホント規格外です・・・
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「くそ!撤退だ撤退!」
俺の暴れる戦場の何所かで声が上がる、その声を合図に敵兵が撤退を始めた。
当然見送るぞ、追撃なんてやってられるか。
残された俺の周囲には倒した敵兵がごろごろ転がっているが回収はされないようだ、加減はしてたからほとんどの奴は生きてるとは思うが、俺が暴れるよりも前に殺られた奴とかでこの辺はぐちゃぐちゃだ・・・こんなとこで1人立ってたら全部俺がやったみたいじゃないか(半分以上俺がやったんだけど)。
「やっぱ、魔法とか使われない限り余裕だな・・・」
撤退する兵たちの流れに逆らうようにして馬?に乗った男がこっちに来る
「ふん、随分舐められたものだな、クズ共を相手にしていい気になるなよ」
「なんだ?まだやるのか?」
なんだこいつ、転がってる兵共をゴミを見るような目で見てクズ呼ばわりか・・・こいつには遠慮は要らないな。
「当然だ、この先のことを考えると貴様を放っておくのは少々厄介だからな、ここで死ね」
男は手にした赤い槍を繰り出し・・・
「ガァ!・・・ぁぁ王子?な?・・・んで?」
「テメェ・・・」
男の味方であるはずの兵たちを、気絶して倒れている兵たちを赤い槍が貫いた。
「喰らえ・・・」
「あぁぁぁぁあぁぁぁあああぁああぁ!!」
男が何か言った途端、赤い槍で貫かれた兵がまるでミイラのように干からびていった。それと同時に男の持つ赤い槍が不気味な輝きを纏う、今のはあの槍のせいか?
「血に溺れろ・・・紅泉刃!」
男が俺に向かって槍を振るう、槍の射程から離れていて当たる訳無いんだけど、確実に何か有る!直感に従い大きく横に跳び避くと、思った通り俺の居た場所を赤黒い何かが通り過ぎて行った。
俺の周りで気絶していた兵たちが、それに巻き込まれ切り裂かれ悲鳴を上げる間も無く絶命していく・・・
「喰らえ・・・」
先程と同じ、男が何か呟くと絶命した兵たちから赤い液体が槍に流れ、干からびていく、血を吸ってるのか?
「いい度胸だ、(ハーフバンパイアである)俺に対してその武器は完全に喧嘩を売っている・・・覚悟しろよ・・・」
「ふん、覚悟するのは貴様だ!誰もこの魔槍からは逃れられないんだからな!」
男が槍を振るう度に赤黒い刃が俺を切り裂こうと迫ってくる、厄介な力だけど発射場所が分かっているのでよく見ていれば避けられる、ただ連続して放って来るので避けるので手一杯になる。更に厄介なことに、気絶して倒れていた兵たちは男の攻撃の余波を受けてみんな息絶えている、更に息絶えた兵たちも魔槍に喰われ男の力になっている・・・
「くそ、近づけない・・・」
「よく避けるな、だが・・・紅縛陣!」
男が動きを変えた!刃を放つのを止め槍を地に突き刺す。
?男の足元や俺の足元には、ぶちまけられた大量の血・・・てことは・・・
俺の足元の血が動き出し触手のように固形化して俺の手足を捕らえる。くそ、やられた。
「ははは、終わりだ!紅泉刃!」
「ちっあんまりやりたくねぇんだけど・・・仕方ない」
赤黒い刃が俺に迫る、俺は手を拘束する血に喰らい付き・・・
―ゴク、ゴクゴク―
「な!?」
飲んだ、俺を拘束する血を飲み込み手は自由になった。
のんびりしてる暇は無い、血を飲んだことで高ぶる気持ちを抑えながらある能力を発動させる。
「血を燃やせ」
身体強化の強化版と言えばいいかな?体内の血を燃やすことで普段の身体強化より高い効果を得る、これは俺が人と吸血鬼のハーフだから得た力、吸血鬼の特徴を持ちながら人の血が流れている俺だから使える力、血を燃やす、自身の血を消費しているので長くは持たないけどな。
力任せに拘束から抜け出す、赤黒い刃を手で打ち払いながら駆け出し、男との距離を詰める・・・
「く!大紅槍!」
男の槍が巨大化する、大人が束になっても振るえないであろう大きさに変化した槍を男は軽々振るう、おそらく巨大化した部分は槍の力で重さを感じないんだろう、まぁそんなことはどうでもいいけどな。
「うおおおおおおぉぉぉぉ!!」
槍が駆け寄る俺を迎撃しようと迫ってくるが・・・
「なに!?どこだ!」
今の俺について来れる奴はそう居ないはずだ。
現に今、迫る槍の上に飛び乗り跳躍しただけなのだが男は俺を見失っている。
「悪いが、今の俺は加減が出来ねぇ」
俺の声に男が上を向く、既に攻撃の範囲内に迫った俺に男はなす術が無い。
「あ、ああ・・・・・・・・・うわああぁぁぁぁぁ!!」
「じゃぁな」
一撃、男の胸元に拳を叩き込む、鎧を着込んでいるが関係無い、俺の拳は鎧を粉砕し男に突き刺さる、数十メートルをぶっ飛び男は動かなくなった。
戦場に魔槍が残っていた。放置するのは危険だと思い、魔槍を手に撤退したフィリアたちの所へ戻る、兵士たちも遠目に今の戦いを見ていたようで、呆然としている者が多い。
「な、役に立っただろ?」
「やり過ぎです!それよりまず身体を拭いて着替えてください!」
全身血塗れ、今の俺の格好は普通にヤバイだろうな、あんな相手と殺り合ったんだから仕方ないだろ?
とりあえず今回の戦いは終了、俺とフィリアは先に城に戻ることになった。
は~、疲れた・・・
この日、俺はゴルドとルージュの両国に存在を認識される、どちらの国でも単身で大隊を壊滅させる化物という認識になるようだが・・・どこの誰から広がったのか?妙な二つ名を付けられる、戦場に1人立つ血塗れの魔王・・・
深紅の魔王と・・・
痛過ぎる、勘弁してくれ・・・くそ、誰が言い出したか分かったらそいつ絞めてやる・・・
ブラッドドライブ、なんか良い言葉(漢字)無いかねぇ?
何か良いのあったら変更します。