遠乗り レナード視点。
今日は、いよいよビアンカと遠乗りに行く日だ。
昨日ビアンカを遠乗りに誘った時は、断られてしまうんじゃないかと緊張した。
「デューク、遠乗りだがやっぱり二人で同じ馬の方がいいだろうか」
基本、遠乗りに行く時は一緒の馬に乗って行くイメージがある。
「どっちでもいいんじゃないか……。ビアンカは馬に乗るのが好きだし、そこはビアンカの気持ちに合わせるのがいいと思うぞ」
確かにデュークの言う通りだ。ビアンカが選んだ方に合わせよう。
あとはおすすめの場所だ。
口から出まかせでおすすめの場所とか言ってしまったけど、実際は知らなかったりする。
これについては、デュークに聞くよりも……アレクやアランに聞いた方がいい気がするな。アナに聞いたらビアンカに話が行ってしまいそうだし……
俺は二人を探して話を聞くことにした。
少し屋敷の中を歩いていると、前方からちょうどアランが歩いてきた。
「アラン、ちょうどよかった。聞きたいことがあるんだが……」
「レナード殿下。聞きたいことって何ですか? 僕が答えられることなら答えますけど……」
俺はアランに、この辺に遠乗りでおすすめの場所はないか聞いてみる。
「遠乗りですか。だったら景色がいい場所がいいですよね……。ここから少し南の方へ行くと小高い山があるんですけど、そこの山からこの領地が一望できるんですよ」
一望できる場所なら他にもあるらしいのだが、そこだと海も見えるそうだ。そして海に沈んでいく夕陽がとても綺麗らしい。
帰りが少し遅くなってしまう可能性があるが、この時期ならそこまですぐに暗くならないと思うとのことだった。確かに気温上昇期は、この国でも一番陽が長くなる。
「あと、その手前に湖があるので、涼んだりすることもできますよ。この辺だとおすすめの場所ですね」
アランに聞いて正解だった。
「助かったよ。ありがとう。明日行ってみる」
「とんでもないです。ビアンカと行くんですよね? 応援しています。今日のうちに料理人に昼食のことを言っておいてくだされば用意してくれると思うので、行ってみてください。それじゃっ!」
片手で手を振りながら去っていくアランに、俺も手を振り返す。
とりあえず料理人のところへ行って昼食の準備をお願いした。
そして、あっという間に今日を迎えた。
夜は正直緊張してあまり眠れなかったが……できれば今日、ビアンカには俺の想いを伝えたいと思っている。
母上、父上にも好いている人がいることについては話したし、「お前が好きならいいよ」と言ってもらった。
それにビアンカはルクレール公爵家の娘で、身分的にも問題はないと思っている。
まずは恋人になることからだ。
かしこまり過ぎない、少しラフな服装にして部屋を出た。
俺が部屋を出ると、ちょうどデュークも部屋を出てくる。
「お、レナード、おはよう! 今日は天気が良くてよかったな。頑張れよ」
肩をぽんと叩かれて、ウインクしてくるデューク。
「デュ、デュ、デューク。おはよう。今日は本当にいい天気だな。緊張しすぎて吐きそうだけど、楽しんでくるよ。デュークは今日何するんだ?」
「俺はアレクとアランに剣の稽古をつけてもらう約束しているよ。途中から元辺境伯も来てくれるみたいだ。運動祭でアナの強さを知ってしまったからね。俺も負けないように頑張ってくる」
確かにあれだけの強さだ。男子たちにも難なく勝っていたし、アナの隣に立つ以上、ある程度の強さがないとダメだろう。
あとは純粋に、あの一家が認めてくれない気もする……
俺もデュークの肩を叩いて、
「頑張れよ」
と伝えて別れた。
ビアンカの部屋の前まで行き、ノックをする。
「はい」
と声が聞こえたので、
「ビアンカ、おはよう。レナードだ」
と声をかけると、ガチャリと扉が開いた。
ビアンカももう準備が終わっていたようで、今日は少し動きやすい服装を意識していたようだった。
「遠乗りは、お互いの馬で行くかい?」
「今回は、その……恥ずかしいので、お互いの馬でもいいでしょうか?」
少し赤くなって話すビアンカがとても可愛い。
確かに初めから二人で乗って遠乗りは難易度が高いかもしれない。俺の心臓が持たない可能性もあるし……
「構わないよ。とりあえず行き先だけど、こちらに任せてもらってもいいかい?」
「もちろんです! とても楽しみにしていたので、よろしくお願いいたします」
こうして二人で馬に乗って湖へ向かった。
湖までは少し距離があったものの、そこまで遠くはなく、お昼頃には着いたのでゆっくりとご飯を食べた。
手紙で話せていなかったことや最近の話をする。
話題がたくさんあるわけではなかったけど、無言の時間も苦にならないくらい自然体でいられたのが、とても嬉しかった。
そして二時間くらいゆっくりした後、また馬に乗ってアランに教えてもらったおすすめの場所へ向かった。
着いた頃にはちょうど陽が落ち始める時間で、二人で景色を眺めた。
陽が海の中へ沈んでいくのを見ると、とても神秘的な気分になった。
そして、この神秘的な場所でビアンカに気持ちを伝えたいと思った。
「ビアンカ。今日は俺のお願いに付き合ってくれてありがとう。とても楽しかったよ」
「こちらこそありがとうございました。とても楽しい一日でした」
緊張して次の言葉がなかなか出てこない……
少し無言の時間の後、
「「あ、あの……」」
二人の声が重なった。
「すみません。タイミングが被ってしまいました。レナード様からどうぞ……」
「こちらこそすまない。そしたらお言葉に甘えて……」
俺は軽く咳払いをした後、想いを伝えた。
「初めてビアンカを見かけた時から、ビアンカのことが好きだったんだ。ルネという男が出てきた時は、本当に心臓が止まるかと思ったよ。でも、そのくらい大好きなんだ。
そ、それで……恋人からでいい。婚約を前提に、その……俺と付き合っていただけないだろうか……」
おそらく今の俺は顔が真っ赤だろう。
夕陽のおかげで気づかれなくてよかったと思いながらビアンカの方を見ると、ビアンカの目からはらはらと涙が流れた。
「ビアンカ!? 何か嫌なことを言っただろうか。それだったらすまない。どうか泣き止んでくれないか?」
ハンカチを目に当てる。
「す、すみません。すごく嬉しかったので……。もし今日、レナード様からお話がなければ、レナード様のことは諦めようと思っていたんです。だから、とても嬉しいです。そ、その至らないところがたくさんあると思いますが、よろしくお願いいたします」
「本当にいいのか?」
「はい!」
「本当に?」
「勿論です」
まさかこんなにうまくいくと思っていなかった。
俺が恐る恐るビアンカを抱きしめると、ビアンカは軽く体重を預けてくれたので、本当なんだと信じることができた。
「ビアンカ、これから大切にするよ」
「はい。よろしくお願いします」
そう笑ったビアンカの笑顔は、とても綺麗で、一生忘れることはないだろう。




