ACT.5 開かない扉
俺たちはようやく石造りの建物の入り口を見つけた
中に入っていくと閉じられた分厚い鉄扉が待っていた。
おい、カネ! これじゃあ袋のネズミじゃないか!
30メートルほど先の石の上に、ゲーンタが立っていた。俺はよろめきながらそちらに向かった。
よく見ると、そのあたりに転がっている大きな石は天然のままの石ではないようだ。ゲーンタが石から飛び降りて、大きな石が集まっているあたりにもぐりこんでいく。
「何か入口があるよ」
石の下の土をかきとると穴が見えてきた。奥に通じているようである。男たちの一人が、小さな松明を取り出し火をつけた。ロープといい松明といい、さすがに盗賊集団、いろいろ道具を取り揃えている。
入口から幅が1メートル程度高さは二メートル程度のトンネルが地下へと延びていた。足元は傾斜のきつい階段になっている。五十メートル程度進んだあたりで、八畳程度の小さなホールになっていた。松明の明かりに扉が浮かんだ。両開きの頑丈な鉄製の扉のようである。押しても引いてもびくともしない。
皆、黙り込んでしまった。たしかに窮地からは脱出できた。とりあえず身を隠せる拠点にはたどり着いた。しかし、オークどもが入口を見つけると、我々は袋のネズミだ。それだけではない。入ってきた通路を塞がれると、出て行くこともできず、ここが我々の集団墓地になってしまう。
俺はカネが「その後のことは、建物に着いてから話したほうがいいだろう」と言っていたことを思い出した。背中のリュックからパソコンを取り出し起動させる。先ほどのバトルで壊れていないかと心配していたが、スムーズに立ち上がった。
カネがにこやかに画面に現れた。前に見た画面と何か違う……カネの背後に観葉植物が置かれ、カネのスーツが明るい色に変わっている。
「やあ、タケ、無事に着いたようだね。おっ、マイクで拾えた呼吸音からすると、なんと全員無事にたどり着いてる!驚きだね、5%くらいの確率だったのに」
「おまえ、どういう計算をしてたんだ?!」
「最もあり得るケースが、半分捕まるか死んで六人が軽傷、三人無傷でたどり着くケースだと計算していたよ。全滅する恐れも10%くらいだったし」
「そんな、危ない作戦だったのか?」
「ほかの作戦だったら、全滅の恐れが70%以上だったよ。最善の手を打って、最善の結果が得られたんだ。ついてるね」
「『その後のことは、建物に着いてから話したほうがいいだろう』と行ってたよな。話そうじゃないか。今、私たちは鉄の扉の前だ。もはや袋のネズミじゃないか」
「そうだね。そこにずっといたらそうなるよね。扉を開けて中に入ったらどうかな?」
「それができないから困ってるんだ。知ってるなら、早く開け方を教えろ」
「そうだったんだ。早く言ってくれないと。かなりバッテリーを無駄にしたじゃないか」
「だから、早く!」
「扉に向かって右側、部屋の隅の方に行ってみたまえ。壁に石がはめ込まれているだろ」
松明で照らすとたしかにそれらしくなっている。
「その石を外すんだ。中に輪のようなものが出てくるから」
石を外すと輪が出てきた。輪は壁の中の杭につながっている。
「輪を掴んで杭を引き抜くんだ。それが扉を固定しているから」
でかい槍持ちが輪を掴み、壁に足裏を押し当てて全身の力で引いた。金属と石がこすれる嫌な音がして杭が抜けた。
「このパソコンに残るログからすると、タケはさんざんゲームでやったんだろう?こういうシチュエーションは。何も言わなくてもできると思ってたんだけどねえ」
カネは画面の中で楽しそうにしている。
チョーハとその仲間が、扉をこじ開けようと取っ手掴み引張はじめたがやはりびくともしない。
「おい、カネ、あかないぞ!」
「タケ、上級ゲーマーらしくないなあ。セカンドトラップだよ。そいつは押し引きして開けるんじゃない。引き戸だよ。見かけに引っかかっちゃたね」
だんだんカネと話すのが嫌になってきた。
チョーハとその仲間が、扉の取っ手掴み右側に引き出した。癇に障る嫌な音を立てて扉が少しづつ開きだした。
ゲーンタが叫んだ。
「階段の方から声が聞こえる!」
篤子が槍を取って、階段の方に戻ろうとした。
カネが画面の中から篤子に呼びかけた。
「磯篤子さん。階段の最下段の天井にアーチ状の石組があるのが分かりますか?」
「あるけど、それがどうしたっ?!」
「ど真ん中の一番高いところにあるのが要石、キーストーンです」
「だから、どうした!」
「扉が開いて、皆がくぐたら、キーストーンを槍で突き落として、すぐ扉に飛び込めますか?」
「キーストーン突き落としたら、どうなるんだ!」
「3.4秒後に天井が崩れます」
「いい提案じゃないか!これからはアコと呼んでいいぞ」
ゴリゴリ音を立てて扉が開いていく。二十センチくらい開いたところでゲーンタが通り抜けた。続いて二人が扉の向こうへ行った。向こう側に移った連中も扉を開けようとしているらしく「ウォーッ」という声が聞こえてくる。
四十センチくらい開いたところで俺もパソコンを抱いて通り抜けた。他の連中も次々に通り抜けて、あとは槍持ちとチョーハと篤子になった。
槍持ちが上半身を突っ込んだところでトラブルが起きた。腰が引っ掛かった。こちら側から両手をもって引っ張るが抜けない。階段の方から、はっきり声が聞こえ、足音がしてきた。
チョーハが槍持ちを踏みつけて、こちらに来た。
篤子の声がした。
「崩すぞ!」
ガンガンと突く音が聞こえ、石が落ちる音が聞こえた。篤子も槍持ちを踏みつけて、こちらに来た。オークたちの声が間近になった。
チョーハも加わり、槍持ちを全員で引っ張る。
「だいたいお前は太りすぎなんだ!」
チョーハが怒鳴っている。
ガラガラと大きな音がし始めた。オークの叫び声が聞こえる。
ダメかっと思った瞬間に、槍持ちを引きずり込むことに成功した。
「お前は太りすぎなんだ……」
チョーハが呟いた。
扉の内側に入った
とりあえず、追っ手からは逃れたが、どこまでも続く真っ暗なトンネル……




