ACT.3 オモイカネ
パソコンは急いで起動するときに限って「再起動が必要です」となる!
なんとか立ち上げたが、バッテリーは残30%
そして新しいアプリが勝手に開いて、変な奴が現れた
自称オモイカネ、対話型AI?! なんだか井上順に似てる
俺は盗賊の一人から剣を渡された。会津の子どもの多くは剣道をやらされる。剣道経験はある。しかし俺は剣道が下手だ。剣は俺の武器に相応しくない。俺の武器……。そうだっ!俺はリュックからパソコンを取り出して起動した。このパソコンはただのパソコンではない。最新のニューラル・プロセッシング・ユニット(NPU)を組み込み、8TBのSSDにはデータベースが入っていて、512GBのRAMを積んでいる。力ではなく知恵を武器にするのだ。
画面にLで始まるメーカーロゴが浮かんだ。闇夜の中で淡く光る。盗賊たちが一斉に振り返った。
「おいタケ、なにしとる!?」
篤子が叫ぶ。
「武器を準備しています!」
「どこが武器やねんそれ!? 光っとる?明かりは今はいらない!」
「これはコンピュータです。磯さんが知ってるコンピュータより100万倍以上高性能です」
「そんな小さいコンピュータがあるか!」
起動がはじまったと思ったらいきなりメッセージが出た「再起動しています。電源を切らずに、そのままお待ちください」……ノー!急いでいるときに限りいつもこれが始まる気がする。今は特に急いでいるのに……。
篤子は俺を見放したのか、岩の上に立ってあたりを見渡している。
「奴ら、慎重だな。配置が読みきれない。人数がそろうのを待っているのか、こちらの戦力を測っているのか……」
チョーハが応じた。
「いつものオークの動きと違う。指揮する奴がいるのかも知れん」
ようやくパソコンが立ち上がった。ただ、バッテリーの残量は30%程度しかない。短いメッセージが出た。「大切なお知らせがあります。新しいアプリを起動します」
ちがーうっ!今、知りたいのは、少人数で囲みを破る方法だ。なじみのAIにログインしたいだけなのに!心臓が口から出てきそうなほどバクバク鳴っている。
いきなり新しいウィンドウが開いた。画面の中には机を前に、グレーのブレザーを着て、こちらを向いてる男が写っている。タレントの井上順に似ている。
「やあ、待たせたね。柴猛君。タケル君と呼んでいいかな?」
「おっ、お前は誰だ!」
「正式な名前は長くなるのでオモイカネと言っておこうかな。カネと呼んでくれてもいいよ」
「おっ、お前は何者だ!」
「おお、私の素性を知りたいのか。これも長くなるので後からにして、対話型AIと思ってくれたらいいよ、タケル君」
もう他のAIを起動するのも手間だしバッテリーも危ない。こいつがどこまで役に立つかやってみるしかない。
「い、いま、俺たちは武器を持った連中に囲まれている。助かる方法を教えてくれ」
「了解だよ。このマシンは2025年製か。いい部品を使ってるね。マイクで周囲の音を拾った。大体の状況は理解したよ。君たちは武器を持った連中に囲まれている」
こいつ、無駄口が多すぎる!
カネが続けた。
「画面をいったん暗くする。カメラを起動するから、タケル君の後ろの岩の上に上がって、周囲を一周360度、いや二周720度、撮影してくれたまえ。二周目はカメラをできるだけ持ち上げてね。やり方に質問はないかな?」
画面が暗くなった。俺はパソコンの両脇のヒンジの部分を両手でつかみ岩に昇った。まず、胸のあたりにカメラが来る感じで一周、両手で持ち上げてもう一周回った。
「おい、タケ、お前正気か?」
篤子が呟いた。
地面に降りると、画面が薄明るくなりカネが現れた。
「やあ、タケル君。ご苦労さん。いい感じにデータが採れたよ」
篤子が横から画面をのぞき込む。
「えーっ!絵が写ってる。あっ、動いてる。だけど、誰だ、この井上順が老けたような奴は?」
「おお、磯篤子さんですね。はじめてまして。私はオモイカネ。カネと呼んでください。今、タケル君の相談に乗っているところです」
「しゃべった!なんだこいつは?」
「磯さん、解説は後で。それと、こいつへの質問は私にさせてください。下手に尋ねると、無駄口ばかり叩きますから」
「無駄口とはひどいなあ。コミュニケーションは余白と余分が大事なんだよ」
「いいから、最初の質問に答えて!」
「そうだったね。このマシンのカメラ、なかなか優秀だよ。可視光だけでなく“近赤外”まで拾える。おかげで熱源の分布が読めた。まず、さっき撮った映像から敵の位置と“強さ”をマッピングした。画面に出すよ」
画面に座標系が示され、真ん中付近に青い点が十数個集まり、周囲を取り囲むように点々と赤いマークが現れた。赤いマークは大小がある。カネが解説を始めた。
「青い点はタケル君たちだ。赤い点は敵だね。18点ある。マークの大小は発している赤外線量だ。大きいほどマークは大きい。武器が肉体操作のものしかないから、大きいマークほど強いと思っていいだろう」
「じゃあ、一番小さいマークを狙って…」
俺が呟くとカネに遮られた。
「いやいや、人の話は最後まで聞こうよ。このマッピングに地形図を重ねる。地形図が欲しかったのでカメラの高さを変えて撮ったのだよ」
座標系が緑と茶色で色づけられた。
「緑が低い所、茶色が高い所だよ。移動が徒歩で武器が肉体操作のものしかないときは、高低差も武器だ。まず、君たちは、南に進む。こっそりとね。やや高い丘になってる。そこから南側の大きな赤マークの兵士に5,6本矢を射かける」
俺の両脇には篤子とチョーハが並び、一緒に画面をのぞき込んでいる。
「矢は牽制だよ。矢を受けたら、彼らは必ず少し引いて様子をうかがう態勢に入る。そしたら君らは東側に楔陣形を保って突っ込む。緩やかな下り坂になってるから勢いがつく。兵士の間は狙わないこと。挟撃されるからね。この点滅している赤マークの正面に突っ込み倒してから、そのまま東に逃れる」
あれ?意外にまともな話を始めた。
チョーハが言った。
「囲みを破っても、追撃されるぞ!」
カネが画面に戻りにこやかに答える。
「いいところに気付きましたね。その通りです。クーマサック・チョーハさん」
俺が話の主導権を握らないとややこしくなる。
「私のことはタケと呼べ。私の要請は『助かる方法を教えてくれ』だぞ!」
「オーケー、タケ。時間が節約できるね。その要請には答えるつもりでいるよ。東に逃れたら、そのまま1100メートル進むと、壊れかけた石造りの建物がある。まずは、そこに逃げ込む。その後のことは、建物に着いてから話したほうがいいだろう。敵もぼちぼち動き出すだろうし、バッテリーも厳しい」
「わかった、では……」
いきなり画面が閉じてスリープモードに入った。
オモイカネは勝手に画面を閉じた
さあ、どうする俺たち




