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ACT.21 切り札

エルフ・オーク軍が襲来する

俺たちは慌てて逃げだすしかない

 アコが立ち上がった。

「すぐに革命軍の離脱作戦を始める。屋上に狼煙をあげろ」


 狼煙は、町を離れている斥候たちへの緊急連絡である。


「三、四人ずつに分かれて、目立たないように町を出ろ。すぐにだ。そして集合場所に向かえ」

 集合場所は、武器をデポした場所である。


 俺もすぐにリュックを背負い、パソコンを納めた。


「アコ、行こう!」


「先に行け、俺は最後だ。早くいけ!」


 俺は二人の男と町の北側の門から抜け出した。背後や周囲を気にしながら、ひたすら集合場所を目指す。一時間ほど進み、町の方を見ると、一筋の煙が風に流されながら立ち上っている。


 二時間半かかって集合場所にたどり着いた。


 七、八人がすでに到着して、武器を身につけ始めている。俺たちの後にも九人が到着した。あとはアコを含めて三人である。


 俺はパソコンを開けてカネを呼んだ。

「おい、カネ!奴らが町に迫ってるぞ。一日早いじゃないか!」


 今日のカネは、ベージュの作業服のままであるが、黒い縁の眼鏡をかけている。


「やあ、タケ。まだ無事のようだね。よかったね」

「ぜんぜんよくない。奴らが来るのが早すぎないか?」


「そうだね、予想より十八時間くらい早い。これは、かなり手強い相手かもしれないよ」

「どういう意味だ?」


「軍で即応できるということは、指揮官の意識が高く部下が掌握できている証拠だよ。つまり優秀な指揮官に優秀な部隊だ」

「どうしたらいい?まだアコたち三人が来ていない」


「そのまま、北西の橋に向かってすぐに逃げたほうがいい。アコたちのことは気にしている場合じゃないよ。アコなら何とかできると信じて、逃げるんだ」


 パソコンから顔を起こすと、革命軍の皆が、俺を見ている。その目は、俺に判断を促している。俺は指揮官の器、いや、キャラじゃない。もう、泣いて喚きたい。アコ、すまない……。


 俺は立ち上がって指示した。

「今すぐ、ここを発つ。北西の橋を目指す」

 皆、黙って頷いて、速足で北西に向かう。


 さらに一時間ほど進み橋が見えてきた。少なくとも道は間違えずに来た。もう少しと思ったとき、西側に動くものが見えた。


 ツィックマの町から持ってきた双眼鏡で覗くと、エルフがオークたちを従えてこちらに進んでいる。明らかに、橋を目指している。こちらに気がついたかどうかは分からないが、彼らが先に橋に着いたら、俺たちは行き場を失う。


 俺は叫んだ。

「急がないと!オークたちが西から来ている!」


 ただ、声には出したが、大して速度は上がらない。もう、四時間近く速足で歩いているので、体力が尽きつつある。


 俺はかろうじて橋にたどり着いたが、革命軍の隊列は伸びきっている。後方はまだ橋まで300メートルはある。左手からオーク軍が迫り、ついに俺たちの最後尾にいた二人が呑み込まれた。橋にたどり着いた者で、弓矢を持っている者が、オーク軍に射かけて何とか牽制を図るが、あまり効果がない。


 アコたちを待てないのは無念だが、もう、ここで切り札を使うしかない。俺はリュックから、瓶を取り出した。力いっぱい息を吸い込み、大声で叫ぶ。

「ブルーピルだぞぉーっ!!」


 瓶の封を叩き破って、瓶を頭上にかざして、オーク軍の方に走る。オークたちの動きが止まった。

 俺は大声でわめきながら、瓶の中身を、できるだけ広い範囲にぶちまけた。そのまま反転して橋へ駆け戻る。


 背後で異様な混乱がはじまったようだ。


 必死で橋まで駆け戻り振り返ると、オークたちが俺がブルーピルをぶちまけたあたりで地面にはいつくばっている。場所や拾ったピルの奪い合いも起きている。馬に乗ったエルフが、大声で何言っているようだが、オークたちはまるで聞く気がないようだ。


 俺は革命軍を急き立てて橋を渡りにかかった。

 

 渡りながら、橋のところどころに、第一陣が隠しておいた焚き付けに火をつける。


 オークたちの混乱は、まだ続いている。その背後から新たに馬に乗った者が駆けてきた。

 アコを含む三人の革命軍兵士が、先ほど、オーク軍に呑み込まれた二人を救い出して馬に乗せているようだ。


 アコたちは、オーク軍を迂回して、橋を渡り始めた。橋のあちこちから火の手が上がりはじめ、煙が立ち上る。


 対岸に渡り切った俺たちからは、煙でアコたちの姿が見えない。


 とほうもなく長い時間のようなあっという間のような時間の後、煙を突き破って、三頭の馬が、こちらに駆け込んできた。


 弓手たちが橋に向かい構える。橋が燃え上がり、桁が川面へ落ちていく。

 救い出した二人はかなり重症のようだ。手当を進めるたびに、うめき声や、叫び声が聞こえる。


 俺はパソコンを開いた。


「やあ、タケ。切り札をうまく切れたようだね。うん、グッド・ギャンブラー!」

「カネ、お前の、そのジョークのセンスはなんとかならないのか?」


「ジョークは人間同士の会話の中で、最もAIが分析と模倣が難しいんだよ。ハルの弟のマイクも、これで苦労していたそうなんだ」


 アコが俺の後ろにやってきた。見捨てたことを、責められるかもしれない……首をすくめた所に声がかかった。


「おいタケ!見直したぞ。見事な指揮ぶりじゃないか。やればできるんだな」

「もうやりたくないです」


「まあ、そういうな。経験が大事だ」

「アコは馬に乗れるんですねえ……」


「いや、ほとんど乗ったことはない」

「えー?」


「一緒にいた二人が先行して、俺が跨った馬がそれについて行っただけだ。ただ、バイクに乗ってた経験は役に立ったかな。ステップとニーグリップに体重をかけて、両手を離す感覚だな」


 俺には、馬も、バイクも、まったくわからない。


 アコがカネに言った。

「おいカネ。計算が狂ったな」


「狂ったとまで言われると心外ですねえ。99パーセンタイル値が出たというところです。戦術、戦闘行為に100パーセントの予想は理論的に不可能ですよ」


「まあ、たしかに今回の指揮官はやり手だったな」


「はい、そうですね。行動が迅速、町を本隊で包囲して殲滅戦に備える一方で、別動隊を自分で指揮して、逃走方向を塞ぎに来ましたからね」


 俺は町の様子が気になった。


「町を最後に離れるとき、どうだった?」

「見届けたわけじゃないが、オークたちが町になだれ込んできたな」


「町の人たちは……」

「黙って受け入れていた。一人を除いて」


「……一人を除いて?」

「例の、第一陣に入れろって騒いでいた男だ。あのバカは、両手に食い物をもって町の外に飛び出したんだ。『降参する。食い物を渡すっ!』って叫びながら」


「それで……」

「はっきりは見えなかったが、オークの側から飛んできた槍に貫かれたようだったな」


 結局、彼は一番うまく立ち回ろうとして、最悪の手に出てしまったようだ。


「ただ、あの男が騒ぎを起こしてくれたおかげで、俺たちは、脱出しやすくなった。行きがけの駄賃代わりに、奴らの輜重車に、火矢を射ち込んできてやったよ」


 カネが反応した。

「さすがアコ!転んでもただでは起きない」


 やはり、カネのジョークはダメだ。


橋を焼き落として俺たちは逃げ延びた

ただ、安心できる状況ではない

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