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ACT.2 脱獄

脱獄は成功した


盗賊チョーハに従って夜の草原を逃げていく

仲間と合流して、もう安心とおもったその時、

俺たちは囲まれていた……泳がされていたんだ

 ふと気づくと、小学校の低学年くらいの子どもが、真っ黒なローブを着て立っていた。手には鍵束を持っている。チョーハが子どもに尋ねた。

「ゲーンタ、オークどもは?」

「皆、眠りこけてるよ。昨晩、飲み水の桶に放り込んだ眠り薬が効いてる」


 篤子がチョーハに詰め寄った。

「おい、チョーハ。子どもに脱獄の手伝いをさせてるのか?」

「そうとも。子どもは身が軽い、小さくて隠れやすい、警戒されにくい。侵入者としては最適だ」

「子どもには危険すぎるだろうが!」

「わしが死ねば、すぐにこの子も死ぬことになる。危険でもやらないよりましだろう?」


 ゲーンタは何度か試してチョーハの檻の鍵を開けた。

「で、どうするだ、お前らは?」

 俺はすぐに返事をした。殺される以外の選択肢は逃げるしかない。

「お願いします。連れていってください」


 篤子は一瞬躊躇して言った。

「俺も一緒に行く。この、ふざけた世界をぶっ壊してやる」


 ゲーンタはチョーハの次は篤子の檻を開けた。

「ありがとう、ゲーンタ」

 篤子はかがんでゲーンタに微笑みかけた。あれっ?篤子、けっこう可愛くないか……。

 ゲーンタは、最後に俺の檻に来たが、なかなか鍵が合わない。俺だけ残されたらどうしようと思うと冷や汗が出てきた。鍵束の最後の鍵でようやく開いた。


 檻から出て、カンテラを持って独房を連ねた場所から出ると、ゲーンタが一角を指さした。片側に棚があり、俺たちの靴や上着が放り込んである。少なくともこれで裸足で逃げることは免れそうだ。

 俺は自分のリュックを見つけた。恐る恐る持ち上げると、いつもの手ごたえがあった。俺の大事なノートパソコンはこの中にある。


 チョーハは革製の上着を羽織り、くるぶしの上までのブーツを履いて、剣らしきものを腰に差した。篤子はセーターの上にGジャンを着て、黒いニット帽をかぶった。足元はコンバースである。俺は大学のロゴの入ったヘルメットをかぶり、作業用ジャンパーを着て作業用の安全靴を履いた。


 篤子は部屋の片隅に立てかけてあった全長2メートルほどの槍をいつのまにか手にしている。


 チョーハがカンテラを掲げ、ゲーンタ、俺、篤子の順に並んで、建物からの脱出が始まった。篤子は後方を警戒して、半ば後じさりしているが、チョーハは迷うことなくどんどん進んでいく。


 眠り薬がよほど効いているのか、とうとう俺たちは外が見えるところまで邪魔されずにたどり着いた。空には半月がかかっている。チョーハはカンテラを足元に置いて明かりを消した。少し様子をうかがって、建物の裏手に回った。今度はゲーンタが先頭になり篤子、俺、チョーハという並びで進む。雑然と古材や石材が積まれた一角にたどり着くとゲーンタが雑草の茂みの奥に進んだ。なんと、建物を囲む高い塀の下をくぐるトンネルがある。


 トンネルに入ると真っ暗である。両脇は狭く、天井も低い。頭を下げて、手探りで進む。チョーハがゲーンタに声をかけた。

「ゲーンタ、今回も上手くやってくれたなあ」

 今回も?俺はチョーハに尋ねた。

「今回って、何度目の脱獄なんでしょうか?」

「三回目だな。やり口は違うがな。まあ、オークは力は強いが、頭は弱い」

 完全にオークを舐めきっているようだ。俺はちょっと嫌な予感がしてきた。

 俺たちはトンネルを抜けた。俺は出口で待ち伏せされているのではと恐れていたが、それはなかった。


 俺たちは月明かりの下、肩ほどの高さに茂った草むらをゲーンタを先頭に進んだ。

「おい、チョーハ、この後はどういう予定だ?」

 篤子が尋ねた。

「仲間と合流する。そして、俺たちの拠点に戻る。戻ったら旨いものを食わせてやる」


 小一時間ほど進んだところで、チョーハの指示で立ち止まった。ゲーンタが首から下げた笛を加えて、頬を膨らませて吹いた。ただ、俺たちには音は聞こえなかった。

「ゲーンタは、なんで音がしない笛を吹いているんだ?」

 篤子が俺に尋ねた。

「はい、あれはたぶん高音域で鳴る笛でしょう。犬とか子どもとかには聞こえますが、大人には聞こえません。秘密通信用と思います」

「へえー、いいもの持ってるじゃん」

 ゲーンタ何度か笛を鳴らしては耳を澄ましさらに鳴らした。それからうなずいて進みだした。盗賊団の慎重さに、俺はちょっと安心した。


 さらに10分程度進むと、三人が草むらの中でしゃがんで待っていた。俺たちが合流すると、また別の方向に進みだした。進むに従いバラバラと人が集まり、盗賊団は十五人程度になった。全員がそろったところで、皆がチョーハの前に居並んだ。

「皆、ごくろうであった」

 チョーハが親分らしく挨拶をした。

 

 俺と篤子は少し離れて様子を見ていた。ややあって、篤子が近くの石の上に立って、あたりを見渡し始めた。そして、声をあげた。

「チョーハ!やられたよ。俺たちは泳がされたんだ。もう、囲まれている!」


 「親分」という声が手下たちから次々に上がった。指示を出してくれと言いたいのだろう。他方、チョーハ親分は口を一文字に結び、目は何もない30度上方を睨んでいる。いわゆるてんぱっている状態であろう。

 篤子がチョーハの横に立った。


「おい、お前ら、持ってる武器を全部見せろ!」

「おお、そうだ武器を見せろ!」

 チョーハが復唱した。

「弓が三張、槍が七筋、剣がチョーハの分を併せて十振りか!」

 篤子が素早く数え、指示を出した。


「いいか、囲みをじわじわ絞られたら我々は殲滅される。囲みを絞られる前に、一点突破で脱出するぞ。槍持ち、そのでかいやつを頂点にして楔形に並べ。弓、槍の間から敵を射るぞ。近づくまで射るなよ。剣の三人は、脇と後方を守る。隊形を組め!」

「そうだ、隊形を組め!」

 またチョーハが復唱した。

 篤子が怒鳴った。

「おい、タケ。お前も剣を持て!後方の守に加われ」


この囲みを破って逃げなくては!

でも、俺は剣道は下手だ 剣は俺の武器じゃない

そうだ! 俺には、この「武器」がある

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