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ACT.19 離脱作戦

ブルーピルは間に合わなかった

我々自身にも危機が迫っている

 俺は、とにかく眠かった。窓の外に置いたソーラーチャージャーとパソコンを繋いでから、俺は寝た。オーク兵が使っていた汚いベッドだったが、気にする余裕はなかった。


 起こされたのは夕方だった。

 パソコンを抱えて二階のいつもの部屋に行くと、アコとチョーハはすでに食事をはじめていた。パソコンを起動し、置いてあった俺の分の食事を取り始めた。

 カネが画面に現れた。ノーネクタイでワイシャツを着て、グレーのスーツを羽織っている。久々にまともな格好をしているようだ。腕組みをして、すこし首を傾けて、片側の口角だけをあげて言う。

「ブルーピルは間に合ったかな?」


 アコが食事を終わらせてカネに言った。

「遅すぎたようだ。オークの一人は、もう意識はない。あとの二人も、意識は朦朧としている。そのレベルも下がりつつある」

 カネは首の傾きを直して言った。

「奇跡は起きなかったんだね」

「奇跡は、そうそう起きるもんじゃない」


 俺は早く本題に戻りたかった。ブルーピル以前の会話を再開する。

「今後の行動の具体的計画を話しましょう。時間がないんです!」

 チョーハも前回と同じ反応だ。

「おお、そうだ。それが大事だ」

 アコも受け入れる。

「じゃあカネ、次の目的地だが……」


 カネが遮った。

「目的地より、逃げる準備が先です。特に、年より、女、子どもは、急かして準備を進めましょう。彼らを、先に町から出す必要があると思いますが、いかがですか?」


 チョーハが答えた。

「それは、わしがやろう」

 カネが言う。

「そうしてください。そうそう、食料は軍が蓄えていたものを持ち出してください。残しておくと、またオークの手に渡ります。そして、ストックしてあった食料は町の皆にばらまいちゃいましょう。オークがすぐに手にできないように。回収するとしても、思い切り手間取るようにします」


 アコがあきれたように言う。

「食い物を町の人に配るのはいいんだが、お前の目的は別のところにあるんだな」

「そうですよ、『なんでも武器にする』、毛沢東の教書にありませんでしたか?」

「ふん、知識量でお前とやり合う気にはなれん」


 チョーハは食事をそこそこに済ませ、バタバタと出て行った。


「じゃあ、逃亡作戦の概要を聞こうか?」

 アコがカネに尋ねる。

「まず、川を渡るコースを取ります」

「それで?」

「渡ったら、橋を壊します」

「それから?」

「山の中に逃げ込みます。軍が一斉に行動できないようなところを逃げます。背後の道を壊しながら」

「そうなるよな。持久戦論の遊撃戦か。ということは……」

「ええ、別動隊の活動が必要ですね。敵の補給を滞らせるために」

「その始まりが、町の食料の持ち出しとばらまきか」

「そういうことです」

 俺は話がうますぎると感じ始めていた。これまで、エルフ・オーク軍が、俺たちを、「逃げ回るばかりの意気地なし」と決めつけていたから、相手を翻弄できていた。しかし、もはや俺たちは革命軍だ。エルフ・オーク軍が、こちらの意図を見透かしていたらどうなるのか、ひどく不安になってきた。


「カネ、いい作戦だと思うんだけど、エルフやオークも俺たちの意図を察知して手を打ってくるんじゃないのか?」

「ゲームの理論なら当然こちらの意図を読みにかかります。ご指摘の点はもっともです」

「具体的にはどんな手で来る可能性があるんだ?」

「電撃戦でしょうね。こちらが町を出るところを狙って一斉に襲い掛かり殲滅を狙ってくるでしょう」


 俺は血の気が引くのが分かった。そんな手で来られたら革命軍はひとたまりもない。血みどろの殺戮の場になるだろう。

「ええ!?」


「だから、逃げる準備を急がせました。準備が不十分でも移送隊は革命宣言から五日目には町を出します。先行して逃げてもらいます」

「じゃあ我々も急いで逃げたほうがいいじゃないのか?」

「それはダメです。移送隊を逃がすための攪乱と迎撃が必要です」


 アコが答える。

「また、迎撃戦か」

「そうです。長征って、そういうものです」

 アコが尋ねる。

「今回は、焦土作戦は選べないよな」

「それも考慮しました。この戦術面だけなら在りですが、戦略的観点から選べない作戦です」

 俺はこういう話がピンとこない。


「どういう意味だ?」

「オーク軍を町に意図的に突入させて市街戦に持ち込み、町ごと焼き払う作戦ですが、この戦場だけなら勝てる可能性が高いです。しかし、住民ごと町を焼き払ったとなると、革命軍は名乗れなくなります。民衆の敵となったら、長期戦で勝ち目は零です」


 こいつは平気で恐ろしいことを計算する。AIのヤバさに俺はあきれた。


アコが尋ねる。

「じゃあ、どうやって迎え撃つ?足止めを食わす?」

「まずはオーソドックスに補給路を叩きましょう。奪うか燃やしてしまえれば最高なのですが、補給路を狙われていると分からせるだけでも効果がります」

「なるほど」

「それと、町の偽装です」

「偽装?」

「この前、焼き討ちを食わせましたから、彼らも慎重になり、しばらくは遠くから町の様子をうかがうでしょう」

「それで?」

「武装して籠城に備えているように見せかけます。人形と旗くらいでいいでしょう」

「ふーん」


「ただ、ここから先は統率と機密の維持が、最も危険な要因です」

 どうも、この辺の感覚は俺にはないようだ。

「分かりやすく言ってほしんだけど」


「今まではチョーハが率いてきた連中を動かせばよかったのですが、今は、町の住民が対象です。彼らには命令できませんし、彼らの考え方はバラバラです。つまり……」

「統率ができない。なるほど」

「そのうえで、自分の保身と利益のために、我々のやろうとしていることを、エルフ側に流す者がいるかもしれない」

「つまり、機密は守られない可能性がある」

「そういうことです」

「じゃあどうするんだ?」

「人心掌握はAIにできる話じゃないですね。作戦は、全容を把握している者は私たちだけにとどめることです。チョーハにも、必要以上は話さないことです。彼は、皆に説明して回る可能性が高いですから」

「今回は、不確定な要素が沢山あるということか」

「大雑把に言うとそうなります。ただ、こちらには一枚、切れる札があります」

「えー?なんだそれ??」

「ブルーピルです」


町を占領したがために、統率も機密も維持できない!?

ここからどうやって逃げ出すんだ!

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