ACT.15 長征戦略
町の実験奪取はできた しかし、ここには止まれない
アコは言う「逃げ回って、逃げ回って、虎を倒せる機会を待つ」
大変な、一夜が明けた。
俺たちは、まず、チョーハ率いる移送隊を迎えに二人を送り出した。次に六人を選び、二人一組で交替しながら歩哨に立つ配置をした。他にもやらなくてはならないことは山ほどあるが、まずは休んで腹を満たす必要があった。町の中を出歩くのは、無用に住民を刺激することになるので、占拠した軍施設二階で、軍に蓄えられていた食料で腹を満たす。
俺はアコと一緒に食事を始めた。今後の相手方の反撃への備えについて考える必要があるので、バッテリーの残量は少ないがパソコンを起動した。
カネが現れた。今回はブレザー姿だが、セットが凝っている。ホテルのレストランで朝食を取っている風である。
「やあ、アコ、タケ、おはよう。たぶん君らも朝食を食べていると思って合わせてみたよ」
「AIは飯を食べる必要はないだろ」
俺が突っ込むとアコが聞いてきた。
「タケ、今まで余裕がなさ過ぎて聞けてなかったんだが、このカネって何者なんだ?」
たしかにアコやチョーハにこいつが何者かを説明していなかった。しかし、俺もたいしてわかっているわけではない。
「アコ、こいつは人工知能、AI,Artificial Intelligenceなんだ。人間としての実体があるわけじゃない。本来は、人間の活動を助けるための補助装置みたいなものだ」
アコはちょっと考え込んだ。何かを思い出そうとしている。
「……もしかして『2001年宇宙の旅』の、えーっと、ハルだっけ、あんな奴か?」
画面の中で、カネが両手を広げて見せる。
「素晴らしい!私の高祖父をご存じなんですね!」
「ハルはお前ほどおしゃべりでも、ふざけてもいなかったぞ、もっとも裏切者になったけど」
「人に人格があるように、人工知能にも、いろいろあるんですよ」
「まあ俺は、一緒にやってくれて有能なら人でもAIでもかまわん。ただ、裏切るなよ」
「もちろんです。アコ内蔵助殿。昨夜は見事な討ち入りでした」
「ふん、お前に褒められると、なんだか馬鹿にされているようで嫌だ」
クラノスケ?ウチイリ?アコとカネにしか分からない話をしているが、もっと大事な話題がある。
「カネ、この後、エルフ、オーク側の動きはどうなる可能性が高いんだ?」
「そうですねえ。早ければ七日後、遅くても十日後に、一個中隊、まあ二百人くらいの軍で、この町を包囲して、我々を殲滅する作戦に出るでしょうね」
「包囲殲滅?!」
「そりゃそうでしょう。昨晩、我々は『危険な武装組織』から『革命軍』に見事に昇格したんですから。この一週間足らずで、コソ泥から革命軍。すごいスピード出世です」
俺は動揺したが、アコは大して驚きもしていない。
「まあ、そうなるよな。俺たちは虎の尻尾を踏みつけた上に顔を蹴とばしたんだ。こうなった以上、俺たちは逃げ回るか、虎を倒すかしないと生き残れない」
「さすが、アコ将軍、分かってらっしゃる」
俺はカネに尋ねた。
「ということは、我々はこれから……?」
カネとアコが同時に答えた。
「逃げる!」
「そんな……これからずっと……」
アコが答えた。
「逃げ回って、逃げ回って、虎を倒せる機会を待つ」
カネが言った。
「アコ将軍、かの毛沢東の戦略で行くんですね」
「そうだ、長征だ」
ツィックマの町に異変が起きたことを町の人たちは、朝早い時間には異変に気づいていたはずだが、用心深い彼らは、いきなり騒ぎ出したりはしない。まずは家の中から目を凝らして、次は通りに出て物陰からそっと様子をうかがっている。それでも、昼が近い時間になると、軍の施設の周りに人が集まりだしたが、遠巻きに見ている。
昼になってチョーハが移送隊の人々、老人、女性、子どもに護衛を率いて町に到着した。そのまま、軍の施設に入って来て、前庭で皆を休ませた。さすがにここまで来ると、町の人たちも集まりだした。ワンダラの集団が軍の施設の前に陣取っていると知り、少しずつ声が上がり始めた。
俺はインシュンが背負ってきたソーラーチャージャーを受け取り、早速、パソコンの充電を始めた。アコとチョーハが、少し離れたところで、打ち合わせというか、議論というか、けっこう声高に話している。
軍の施設を取り巻く人の数がどんどん増える。事態について、何らかの説明を求める緊張が高まりつつある。やがて、どよめきが聞こえだした。
俺たちは長征に出ることになりどうだ
他方、町では異変に気付いた人々が集まりだした




