ACT.14 夜襲
俺たちはついに逃げ出したツィクマの町に迫った。
カネがあっさり言う
「夜襲ですね。彼らの本拠地、軍の施設を強襲するのがいいでしょう」
翌朝はひどく曇っていた。今にも雨の降りそうな天気である。
俺は、ソーラーチャージャーを使って、二台の暗視装置とノートパソコンを充電しないといけない。充電の進行状況を示すインジケーターがほんのわずかずつしか増えていかない。
昼を過ぎた。いずれの機器の充電も70%に少し届かないが、作戦会議をしないといけないので、パソコンを起動し、カネを呼んだ。
「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン!」
カネが画面に現れた。派手なチェック柄のブレザーを着て、丸縁眼鏡をしている。こいつはいったい何がしたいんだろう。チョーハはきょとんとしている。アコがよせばいいのにつっこんだ。
「へえー、ハクション大魔王か?」
「おや、ご存じでしたか?カクガクドーでもアニメは見る?」
カネがかぶせてきた。やめさせないと話が進まない。
「バッテリーの充電が不十分です。はやく始めましょう。カネ、始めて」
俺は、主導権を取りに動いた。
「まずは敵状の分析ですけど、ツィクマの連中はまるっきり警戒してないと思われます」
カネが眼鏡の端をちょっと持ち上げ、にやつきながら語りだした。
アコが尋ねる。
「なぜ、そんな分析になるんだ?派遣した部隊が帰ってこないだぞ」
「派遣部隊が壊滅するなんて考えも及ばないからです。まだ、山中を捜索してるか、掃討作戦の実行中と思っているでしょう」
チョーハが尋ねる。
「で、どうするんだ?」
「夜襲ですね。彼らの本拠地、軍の施設を強襲するのがいいでしょう」
「どうやって?」
「残ってる兵は数人ですが、まともにやり合って怪我人を出すのは上策とは言えないので、まず陽動しましょう。町の入口あたりに検問所がありますよね。四、五人で石を投げつけて騒ぎを起こします」
「それで?」
「町の外に逃げます。追ってくる連中を矢で倒します。今夜は小雨になるでしょうから、暗視装置があれば、こちらが圧倒的に有利です」
「それから町に入り軍の指揮所を襲います。焼き払ってもいいんですが、町に延焼して食糧庫が燃えると台無しですから、侵入して占拠ですね。ここが一番危ない所です。できれば、敵を暗がりに誘い込み射殺すのがいいでしょう。彼らと近接戦はしないことです」
確かに、はじめの包囲を突破するとき以外、カネの作戦は、直接わたり合うのを避けている。
「今回の武器は闇と雨ですね」
カネがニヤニヤしながら言った。
夜襲部隊が編成された。アコが指揮官で、俺はまたしても編入された。
俺はヘルメットに草を結び付け偽装した。日暮れを待って町に近づく。たしかに町に切迫した感じはない。雨も降りだした。これも武器とは分かっているが、濡れながら待つのは辛い。暗視装置を装着した射手が配置に就いた。検問所から飛び出してくるオーク兵を背後から狙う。他の連中も散開した。
チョーハの話によると、町の入口側の検問所にはオーク兵が二名詰めている。いつもは、一名があたりを巡視し、もう一名が所内に待機している。そして、真夜中に交代が行われる。この時は四名がそろい、申し送りの伝達を行っているらしい。俺たちが狙うのは、この交代のタイミングである。
一時間くらい待ったろうか。検問所に動きが現れた。交代が始まったようだ。盗賊団の中でも身軽で足の速い四人が駆け出し、検問所に投石し大声で叫んだ。オーク兵たちが検問所から飛び出してくる。ご丁寧なことに、左手に松明を掲げている。挑発者たちを追って、射手の前を駆け抜けたオーク兵を背後から矢が襲う。松明をより高く掲げ、あたりの様子をうかがおうとするオーク兵は格好の標的だった。
「脚だ!脚を刺して動けなくしろ!!」
アコの指示が飛ぶ。矢が刺さり、動きが止まった彼らを槍手が襲う。
「もういい!町に入るっ!」
町中の様子を知るものが先頭になって、駆け込んでいく。すぐに、先日、脱走した軍の施設にたどり着いた。パソコンを開きカネを呼ぶ。画面は暗いまま、カネの声がした。
「ほう、うまい具合に目標地点にたどり着いたね。タケ、カメラを建物に向けて、左上から、Z字を描くようにパンできるかな?」
俺は言われた通りパンした。カネがコメントする。
「もう、大人数の兵は中にはいないけど、一人は残っていると考えた方がいいね。出て来てもらおうか?」
アコがあきれたように言う。
「どうやって?」
「オーク兵の口ぶりを真似て叫ぶんだ。『盗賊どもが、そっちに逃げたっ!』てね」
盗賊団の連中が顔を見合わせた。一人がうなずいて、手をメガホンにして、大声で叫んだ。
ちょっと間があって、施設入り口の扉が開いた。一名のオーク兵が剣を片手に飛び出してきた。アコが黙って指差す。二人の射手が続けざまに矢を射た。オーク兵は短く叫んで倒れ、それでもよろよろと起き上がろうとした。 槍手が三人で近寄り、一人が牽制している間に、一人が側面から脚を刺した。倒れたところを、もう一人が背から刺す。
俺たちは建物に入った。
建物は石造りの三階建てで地下牢がある。
一階から順番に部屋を改めていく。一階が兵士の待機場所だったらしい。衣服や武器が散らかり、獣臭い体臭が残っている。二階は小部屋に分かれている。中に潜んでいる奴がいる可能性は完全には排除できない。一部屋ずつ慎重に開けては、改めていく。
二班に分かれて部屋を改めていた別の班から声が上がった。行ってみると、カンテラに照らされ、オークが一名ベッドに横たわっている。重傷を負って手当てを受けている最中のようだ。俺たちを見て、顔は歪み、両手でベッドのマットにしがみついている。おそらく、俺たちが脱走したときに重傷を負わせた奴だ。動けないようだ。無抵抗なので、見張りを二人立てて次に進む。
三階は部屋の調度が違っている。明らかにオークたちの居場所より高級感があり清潔だ。
槍手が前面に構えて立ち、部屋を開けていく。手前の部屋は、明らかに士官室だ。部屋には地図があり、机の上には筆記用具や時計、双眼鏡などもある。部屋の一角には武器や簡易な鎧も置いてある。
さらに奥に部屋がある。反撃への備えを整え、ドアを開ける。香水のような匂いがする。カンテラに照らされた部屋の奥には、大きく贅沢なベッドがあった。槍手が構えながら進む。剣を持った者が、一気に上掛けを引きはがした。誰もいない。
アコが進み出て、ベッドに手を置いた。
「まだ暖かい。逃げたばかりだ!部屋のどこかに脱出路があるはずだ」
皆で壁沿いを探していく。カネが声を出した。
「壁を叩きながら一周してみるのはどうかな?音の違いに気を付けて」
槍の柄で叩きながら進むと音が違う所に行き当たった。カンテラを持ってきて調べると壁に切れ目がある。槍の柄で突くと壁が回り、一人がかろうじて通れる階段が現れた。
アコが指示する。
「そこの三人は、すぐに戻って正面入り口から馬を繋いでいるところに回れ。待ち伏せろ。そちらの三人は正面入り口から建物の裏手に回り込め。俺たちは、ここから追う。できれば生け捕りにしたい」
六人が駆けだしていく。俺はアコと暗視装置を着けた射手に続いて部屋の階段を降りた。階段の先は、調理場脇のごみ置き場に続いていた。逃げたエルフが、あたりに潜んでいるかもしれず、俺はビクビクしながらついていく。
アコが立ち止まった。耳につけたヘッドセットでカネとやり取りしているようだ。アコが俺を振り返った。
「おいタケ、パソコンを出して、あたりをゆっくりカメラで撮れ。音を立てるな、声も出すな」
俺は言われたとおりに、パソコンを開き周囲をゆっくり撮っていく。
カネの声がした。
「いたよ。斜め右前方の資材置き場の中だよ。姿勢を低くしている」
アコがうなずいた。射手が胸元から呼子を出して鳴らす。これは犬笛ではなくて、鋭い音がする。暗がりの中を、先ほど展開した六人がやってきた。
アコは身振りで資材置き場を囲むように俺も含め九人を配置した。ゆっくり囲みを絞っていく。
あと六メートルくらいになった所でアコが言った。
「出てこい。手を地面から離すな、這って、出てこい」
しばらく返事も動きもない。
「出てこないなら、火をかけて焼き殺すぞ」
今度は少し音がした。何かを引きずるような音がする。槍手が前に出て構える。
隠れていた奴が這いながら出てきた。ローブのような服を着ている。エルフのようだ。
アコが指示する。
「ゆっくり座れ……そうだ。急に動くなよ。そのまま、服を脱げ」
囲んでいる盗賊団の面々の表情に脅えがある。それに気がついたアコが言う。
「大丈夫だ。こいつは魔法を使ったりしない。身を隠すことすらできないんだぞ」
捕らえたエルフは下着だけの裸にされた。右脚を怪我していた。ここの牢獄から脱出した後の遭遇戦で、アコが槍で刺した傷であろう。エルフはそのまま引き立てられて、地下牢に押し込まれた。
次はオーク兵の始末である。検問所を破った際に矢を射かけたところまで戻ったところ、四名のうち二名はすでに死んでいた。残り二名のうち一名は、その場に座り込んだままになっていた。
もう一名が逃げ出していた。明け方まで捜索して、町のすぐ近くの橋の下に隠れていたのを見つけた。これも槍を突きつけて引き立て、座り込んでいたオークに肩を貸させて町に連れ帰り、地下牢に押し込めた。
雨が上がり朝日が昇り始めるころ、俺たちはツィクマの町をエルフとオークの支配から解き放った。
俺たちはエルフからツィクマの町を奪った……




