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ACT.11 追撃戦

オークの一個小隊を火計で迎え撃った俺たちは、とりあえずチョーハ隊と合流した

しかしゆっくり休む暇はない  今度は追撃戦が始まる

 谷から尾根まで登り返すのは辛い。加えて、森を焼いてしまったという自責の念と先ほどまでの凄まじい緊張からの解放もあり、精神的にはグダグダの状態である。松明をかざした盗賊団の一人が先頭に立って進む。篤子は最後尾についた。背後を振り返りながら登ってくる。ようやく尾根までたどり着いた時に、夜がうっすら明けてきた。


 尾根についてようやく一休みした。水を飲む。気が付いたら、八時間以上、水を飲んでいなかった。ただのぬるい水が、これまで飲んだどんな飲み物より旨い。


 俺たちは少しばかりの食料を食べて、先行したチョーハ隊を追い、灌木が多い尾根を北上していく。


 昼を過ぎた頃、インシュンが大きな岩の上に座り、あたりを警戒しているのが見えてきた。俺たちに気が付くと立ち上がり手を振っている。俺たちは、ようやく休みを取っているチョーハ隊に追いついた。灌木の影の草むらに女性や子供は疲れてうずくまっている。老人の多くは横になっている。チョーハも横になって寝ていた。


 俺も一休みしようと腰を下ろすと、篤子から足を蹴とばされて言われた。

「おい、タケ。俺たちは休んでる暇なんかないぞ。引き上げるオークの連中を尾根から追撃するために先回りするんだ。チョーハを起こせ」

 鉄の女である。俺は立ち上がりしぶしぶチョーハを起こした。

「おお、タケ参謀、アコ将軍。皆もそろっているようだな。よかった、よかった」

 篤子はちっとも喜んでいない。

「すぐに次の作戦の打ち合わせをするぞ。チョーハ北西の尾根までの道筋を教えろ。どれくらいかかるかも知りたい。タケ。カネも呼べ」


 俺はパソコンを開いて起動した。画面にカネが現れる。あいかわらずにたにたしている。服装は昨夜見た作業服のままだが、今度は背景が変わっている。窓があって、窓越しに田舎町が見える。

「アコ将軍、見事な指揮ぶりだったねえ。『効果はバツグンだ』」

 カネは篤子やチョーハには通じないギャグを放ち、へらへらしている。

「お世辞はいいから、次の作戦だ」

 篤子はいじられていることには気づかない、というか無頓着だ。

 俺は、インシュンに預けていたソーラーチャージャーを広げてパソコンにつないだ。カネが画面に地形図を出した。カネがどこから地形図のデータを得たのか追求したいところだが、今は、行動計画優先である。カネが説明をはじめた。

「今、我々はこのあたりだね」

 地形図に青いマークがつく。

「焼き討ちから生き残ったオークの連中が辿る可能性が高い道は、こうかな」

 地形図に赤い破線が現れた。小さな尾根を越えて、次の谷筋沿いに山を下っている。

「尾根から襲うとしたら、ポイントはこの辺だろうね」

 谷沿いの尾根にいくつか黒いバツが現れた。

「おすすめはここだね」

 一つだけ残してバツが消えた。渓谷の幅が狭く、下の道と尾根までの高低差が五十メートルほどある。

「ここなら、ちょっと先のあたりで見張っていれば、彼らがやってくるのも見えるし、攻撃のタイミングも計れる」

 チョーハが尋ねた。

「この辺まで石を持ってきて落とすのか?」

 カネが画面に戻ってきた。

「その必要はないと思うよ。このあたりの地質は風化が進んだ柱状節理だからね」

 チョーハが繰り返す。

「チュージョーセツリ?」

 カネがニタニタして言う。

「タケには分かるよね」

「火山の溶岩が固まったのが柱のような岩の束になっている地質です。風化すると崩れやすくなります」

「そういうこと」

 俺には疑問があった。

「でもどうやって崩すんだ?下手をすると、崩している本人ごと落下するぞ」 

 カネは右手の人差し指を立ててウィンクする。

「君たち、ロープ持ってるでしょ。それを命綱にすれば、落とす岩に直接乗っても行けるでしょ」

 こいつはほんとうにいやらしい作戦を考える。


 またしても、追撃隊と移送隊に分かれて進む。

 今回は、地形や地理に詳しい者と力が強い者が必要だったので、チョーハとインシュンも追撃隊に加わり、代わりに三名が移送隊に移った。勘弁してほしいが、俺はあいかわらず追撃隊である。


 オークに先回りするため、追撃隊は休みをすぐに切り上げて、攻撃予定地点に向かう。移送隊はゆっくり休んでから、追撃隊を追ってくることになる。


 尾根沿いの道はけっこう歩きやすい。三時間ほど進むと攻撃予定地点に近づいてきた。少し雲は多いが、午後の陽射しがまだ谷に届いている。

 谷は尾根の左側に切れ込んでいる。川が削った浸食地形で、道は川と尾根から落ち込む崖の間を通っているようだ。尾根から谷の方に近づくと、いきなり足場が悪くなる。浮石が散在し、柱状節理の岩の隙間に灌木が根を伸ばしている。うかつに谷に近づくと足場が崩れる恐れがある。


 俺はパソコンを開いた。画面の中でカネがニヤニヤしながら腕組みをしている。

「おい、カネ。予定地点に着いたぞ」

「そろそろだと思っていたよ。カメラで崖の上の方を左から右にパンしてもらえるかな?」

 俺は言われたとおりにパンした。

「うん、いい感じだ。正面右に松みたいな木が生えているのが分かるかな?」

「ああ、分かる」

「あの木の根元が狙い目だね。ただ近づく者には命綱を付けとくべきだろうけど。それとタケは、この先五十メートルあたりまで移動して、谷を監視しなくちゃね。アコにスマホを持たせてね」

 どうやら、また俺が攻撃の合図を送る係りになったようだ。

「今回はどのくらい待つことになりそうなんだ?」

「そうだねえ。早ければ一時間くらい、遅くても三時間も待てば来るよ」

「今回は、わりと時間がタイトじゃないか」

「必然的にそうなるさ。彼らはダメージを被ってる。なんとか基地に戻ろうと動くだろう。少なくとも日が落ちる前には、谷を抜けようとするだろうからね」


 俺はカネの計略をチョーハと篤子に伝えて、篤子にスマホを渡した。チョーハの指示で、盗賊の一人が槍を持ち命綱をつけて、松の木に向かう。命綱は、インシュンともう二人で確保した。攻撃態勢が整ったのを確認して、俺は監視地点に移動した。


 ゆっくり陽が傾いていく。一時間過ぎたあたりで、谷の奥の方に動くものが見えてきた。俺はカネと篤子に話しかけた。

「どうやら、それらしい連中が見えてきたよ」

 篤子から返事があった。

「何人くらいだ?」

「それはまだ分からない」

「了解。攻撃の五分前までには連絡してくれ」

「わかりました」

 俺はずっと谷の奥を見続けた。オークたちの足取りが遅い気がする。

 やがて彼らの全容が見えてきた。十二、三人のようだ。槍を杖にしたり、他の者に肩を借りて歩いている者もいる。カネの焼き討ち作戦でかなり痛めつけられている。

 篤子に連絡を入れる。

「人数がだいたいわかったよ。十二、三人のようだ」

「了解。こちらは配置に着く。攻撃のタイミングは、そちらから指示してほしい」

 カネが勝手に答えた。

「了解。私がタイミングを測ろう。タケ、カメラを谷に向けてくれるかな」

 俺はパソコンカメラを谷に向けた。


 さらにゆっくりと時間が過ぎていく。オークたちの顔の表情や怪我や火傷の状況が、俺には遠目ながら分かるようになってきた。


「今だよ」

 カネの言い方は、そっけない。


 少しの間、何も起きなかった。失敗したかなと思いはじめた頃、崖が崩れ出した。俺は、大きな石が三、四個落ちる風景を予想していたが、実際に起きたのは予想をはるかに上回る事態だった。崖の上一面が、まるごと崩落した。谷に大きな音がこだまし、土煙が立ち、嗅いだことのない臭いがした。


 しばらくして、土煙が収まり、谷底の状況が見えてきた。オークの大半は石の下に押しつぶされている。何人か直撃を免れた者もいるようだが、立ち上がることもできないようだ。


 カネの声がした。

「この現場での作戦行動も終了したね。予想どおりだよ。オーク一個小隊壊滅。これで我々は、とっても危険な武装組織に昇格だ。おめでとう」


カネの作戦で、俺たちは、オーク一個小隊を壊滅させた

カネが言う 「これで我々は、とっても危険な武装組織に昇格だ」


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