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ACT.1 異世界転移?!

お決まりですが、異世界の牢獄スタート!


俺、理学部大学院生・柴猛は、

そこで昭和の学生革命闘士・磯篤子、

そして異世界の盗賊チョーハと出会う。


どうやらこの世界はエルフが支配者だ。オークは兵士。一般人はパンピと呼ばれ支配されている。

 ――気がつくと、俺は牢屋だった。

 石壁、臭い藁、鉄格子。カンテラの明かり。説明不要のファンタジーチャンクだ。


「……は? ど、どうしてこうなった?」

 頭をかきむしりながら記憶を辿る。


 たしか俺――

 何か視界がボワンとなって、廃墟みたいなところに出て……黒い謎の巨漢に追いかけられ、裸締めにされ、鼻と首が死んだ。

 うん。改めて思い返しても意味が分からん。


 ――もう少し前はどうだった?俺は……地下トンネルで地震観測機材を調整してたはずだ。

「なんで地味で取柄もない観測技師が異世界牢屋スタートってなんだよ!?」


「おいっ!貴様、気がついたか?おいっ?」

 女の声がした。全然可愛くない声だ。みると向かいの檻に鉄格子を掴んで立っている女がいる。グレーのタートルネックセーターにフレアフィットのジーンズをはいている。セミロングの髪を後ろでひとくくりにしている。そして、ひどく凶暴な顔つきをしている。


「……気が付きました」

 間抜けな答えだとは思うが、質問への回答にはなっている。

「おい、貴様、ここはどこなんだ?答えろ!」

 この質問の答えは持ち合わせていない。俺自身が回答を探しているところだ。


「わかりません」

「役に立たない野郎だ」

 出会って5秒も経たずに無能判定されてしまった。


 いきなり隣の房から声がした。ざらついただみ声である。

「ここは、牢獄」

「じじい!お前も役に立たんな」

 となりのじじいは1秒で無能判定された。


 だみ声がつづけた。

「ここはツウィクマの軍の牢獄だよ。お前らは何ものなんだ?」


 女が答えた。

「俺は東京大学教養学部の学生だ。もっとも大学にはずっと行ってないけど」

 一人称に「俺」を使う女とわかった。


「おい、貴様、お前は何ものなんだ?」

 女の視線からすると、どうやら、俺が聞かれているらしい。

「大学院生です。東京大学理学部です」

 女が吠えた。

「なんだと、ノンポリかっ?」

 ノンポリ? ……人生で初めて浴びせられた罵倒だ。

(※1970年代では“政治に興味のない学生”の最大級の侮蔑らしい)


「おい、じじいお前は何者だ?」

 俺は放置されたようで、矛先は隣のだみ声に向かった。


「わしはクーマサック・チョーハ。盗人っだよ」

 盗人の自己紹介ってこんなに堂々とするものなのか。というか“チョーハ”って何人なのだろう?


「お前ら大学ってなんだ?役職か?軍の階級か?」

 女は自分は東大生と言ってる。このじじいは大学が何か知らない。俺の唯一のブランドは、この二人には無力のようだ。


 じじいがドスの聞いた声を出した

「まあいい。俺は名乗ったぞ。名前を教えろ。牢獄に入ったからには名乗るのが礼儀だ」


 昔の時代劇で「牢名主」とかいうのがいたような気がする。隣のじじいがそうかもしれない。


「はい、私は柴猛しば たけるです」

 自分でびっくりするくらい素直に答えてしまった。俺は会津の出身だ。

 会津では今でも“什の掟”と呼ばれる教育指針があって、子どもの頃から叩き込まれる。その初めの三つ、

 一、「年長者の言うことに背いてはなりませぬ」

 二、「年長者にはお辞儀をしなければなりませぬ」

 三、「嘘を言うことはなりませぬ」

 年長者に問われると条件反射で素直に口が動く。


「女、お前は?」

磯篤子いそ あつこだ。革学同の書記局四位だ」


 じじいが聞き返した。

「カクガクドー?ショキキョク?なんだそれ」

 俺も知りたい話だ。


 女が自慢そうに答えた。

「革命学生同盟だ。俺は革命の闘士だ」

 

 この女はとても面倒くさくて危険だということはおおよそ分かった。


「おい、チョーハ、俺たちを捕まえた、あの黒くてでかい連中はなんだ?なんで俺らを捕まえたんだ?」

 女がチョーハに質問した。いくらかトーンが落ち着いていた。


「ああ、あいつらは下っ端だな。俺たちはオークと呼んでる。あいつらの上にエルフって呼ばれる連中がいる。お前たちは奴らからワンダラとみなされたんだろう」

 

 オーク、エルフ!?ワンダラ??俺には、なじみがある単語が二つと未知の単語が一つ出てきた。ただ篤子にはすべて未知の単語だったようだ。

「オーク、エルフ、ワンダラ??なんだ、それ?」


 チョーハが答えた。

「だから下っ端の乱暴なのがオークで、その上にエルフがいて……」

 篤子がキレた。

「繰り返しは説明にならんだろうが!おい、タケ、お前分かるか?」

 いきなり矛先がこっちに向いた。


「えーっとオークっていうはでかくて黒っぽくて不細工で乱暴で、エルフっていうのはしゅっとしていて白くて綺麗で長生きで優雅で……ワンダラははじめて聞きました」

 篤子は俺の答えに満足がいかなかったようだ。

「見た目とか特徴を聞いているんじゃない。この世界は俺が知ってる世界じゃないことはわかってきた。だから、この世界の中でどうゆう位置付けなのかを説明しろ。ワンダラというのもな」


「いや、その、さっき目が覚めたばかりで……位置付けと言われましても……」

「じゃあ、なんでオークとエルフの特徴を知ってるんだ?」

「それはラノベでテンプレで……」

「ラノベ?テンプレ?また分からんことを言い出したな」

「えーっと、磯さんでしたっけ?WEB小説とか読まないんですか?」

「読まない、なんだそれ?理系の連中が読むものか?おまえいくつだ?」

「23歳です。理系も文系もないと思いますが……」


 俺はハタと気が付いた。

「女性に年齢を尋ねるのは失礼かと思いますが、磯さんは何年生まれででしょうか?」

「昭和22年、1947年生まれだ。おまえより一つ上だな。24歳だ」

 俺は2025年から転移した。しかし、磯篤子は1971年からしてきたことになる。

 エルフやオークがはじめて登場する俺の愛読書、映画ロード・オブ・ザ・リングの原作「指輪物語」は1955年完成だが日本語版は1972年からで、一部の人にしか知られていなかった。当然、篤子にはエルフやオークという概念があるはずはない。


「わしから説明してやろうか?」

 チョーハが割って入った。

「この世界での“位置付け”ならな。オークは兵隊で、エルフは支配者で、ワンダラは……まあ、流れ者だな」

「お前、最初からそう説明しろ!」

 篤子が怒鳴る。


 チョーハが続けた。

「この世界の住人は乱暴に分けると、エルフ、オーク、パンピだ。パンピは台帳に登録されてていて、決められた仕事をするんだが、その仕事から逃げ出したものや台帳に載ってないものがワンダラってことになる。当然、盗賊という仕事は台帳にないからわしもワンダラだな」


 篤子が尋ねた。

「じゃあ、俺やタケが捕まったのは、流れ者の危険分子とみなされたからか?」

「その通り」

 チョーハが答えた。


 俺は考えた。今、問題なのは、この世界における立ち位置ではなく、俺たちはこれからどうなるかではなかろうか?今度は俺が質問した。

「すみません。捕まったワンダラ、つまり私たちは、これからどうなるんでしょうか?」

「そうだな、初めて逃げたやつとか、間違って持ち場を離れたやつくらいだったら、持ち場に戻される。まあ、食い物は減らされるだろうがね」

「そうじゃなかったら?」

「矯正労働所行きだったらましなほうかな。たぶん、半分以上は処分だな」

「処分って?」

「殺されるってことさ」


「ふざけてるな、この世界は」

 篤子が低い声で漏らした。怒ってはいるようだが怒りの種類が別物になったようだ。

「まるっきり、ナチスのゲットーじゃないか!」

「いや、近いのは北朝鮮だと思いますよ」

 俺は余計なことを言ってしまった。篤子がきっとなって俺を責めた。

「タケ、いいか、北朝鮮は地上の楽園と呼ばれているんだぞ!」

 そうだった。1971年の左翼の知識ならこうなる。


 チョーハがまた割って入った。

「なんだか分からん話をしてるが、どうする?わしにはそろそろ迎えが来るが、お前らも一緒に来るか?」

「すみません。それはあの世に行くお迎えでしょうか?だとしたら遠慮したいのですが……」

「わしも、まだあの世に行く気はないよ、ああ、来たな」


まずは逃げなくては。


チョーハと一緒に脱獄するが・・・

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