4
ヒメカは視線を棚から外して、小さく息をついた。
「……見てみる?」
「記憶を、ですか?」
「干渉器を使えば、断片くらいなら見られるよ。無理強いはしないけど」
ヒメカが歩いた先、部室の奥。
カーテン地の布をめくると、そこに椅子と、頭にかぶせるような装置が現れた。
光の届かない静かな空間。家具というより、医療機器のようだった。
壁際には、コードが這った金属製の操作卓。その上に、薄型のモニターがひとつ据えられている。
「座って、ヘッドギアを装着すれば起動する。記憶に触れるときは、あくまで自分の意思で」
俺は躊躇した。だけど、ポケットの鍵がひんやりと掌に触れて、背中を押した。
腰を下ろす。装置がゆっくり稼働音を立てはじめた。
視界が少し暗くなる。耳に風の音が流れ込むような感覚。
頭に、映像が——映ってきた。
最初は教室だった。窓。光。普通の風景。
でも、次の瞬間、風景が“めくれた”。まるで紙の裏側を見せられるように。
《左腕に眠る記憶よ、目覚めろ》
……え?
視界の中で、俺が立ち上がる。
左手の包帯を、意味ありげにゆっくりと外す。
現れたのは、鈍く銀色に輝く――機械義手だった。
肘から先が、まるで骨格をむき出しにしたようなメカニカル構造。
表面には、文字らしき線が埋め込まれ、脈動している。心拍と連動するように。
機械義手の内部から、低く囁くような声が響いた。
《汝、力を求めるか?》
俺は――なんか知らんが、すげえ顔をしてた。
口元を指でなぞり、義手を空にかざす。画面がスローモーションになる。
「来い、“記憶喰い”……俺と共に、この世界を正す!!」
空が赤黒く染まり、重力が反転したような演出。
そこに現れた敵は……人の形をしていた。
黒いスーツ。仮面。通称、“収集者”。記憶を盗み集めて、人格を歪める奴ら。
「第十三区の守護者……邪魔だ」
仮面が歪み、背後に飛び上がる。同時に投げ込まれた球体が黒い衝撃波を広げる。
足元をきしませながら、俺は腕を突き出した。
義手がガシャリと展開し、掌から青白いコードのような紐が飛び出す。
「貫け、幻視領域――“冥廊裂覇式”ッ!!」
掌から広がった光の線は、空間そのものを裂くかのように縦横へ展開する。
床も天井もない。全方位が蒼銀の渦に包まれていく。
仮面の男は静かに震え、それから咆哮した。
「守護者……貴様らの存在そのものが、輪を乱す」
俺は跳ぶ。空気を切り裂き、屋上を越えて宙へ。
「そこが、お前の終点だ」
義手の光が敵の胸を貫く。記録断片が爆ぜ、空間が元の色に戻っていく。
仮面の男は一言も発することなく、そのまま霧のように消えた。
俺はマントを翻し、背後のヒメカを振り返る。
彼女は一歩下がって俺を見つめていた。
セリフもちゃんと用意されてた。
「やっぱり……あなたが、私の記憶を……守ってくれたんだね」
うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!
ダメだコレ!!誰にも見られちゃいけないやつだ!!
この記憶、俺自身にとってもブラックリスト入り案件だぞ!!
次の瞬間、装置がけたたましく警告音を鳴らし、光景が一気に白転。
意識が戻った。俺は椅子からずれ落ちかけ、汗だくだった。
その横で、ヒメカが……気絶してた。
いや、完全に白目むいてる。顔が赤いままなのが、逆にすごい。
たぶん、脳が「耐えられない」って判断した結果だろう。
そのとき、部室の扉ががらりと開いた。
立っていたのは、見たことのない女子。制服は同じだった。ペットボトル片手に、目がまんまるになってる。
「……は? 何これ。え、ちょ、ヒメカ倒れてんじゃん!? お前、何やったの!?」
「違う!違うんだって!俺が干渉したら 義手が喋ってきて、敵が来て、“冥廊裂覇式”で……いやもう説明になってない!!」
彼女は俺を見てから、気絶したヒメカを見て、それから黙った。
その沈黙が、何より怖かった。
俺は鍵を握り直した。たぶん、この部室――
思ってたより、いろんな意味で危険だ。
とりあえず、最初のストック分は終わりました。
好評なら続きを(AIが)書きます。