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丁度良かったからですか?

ハイデマリーにとっては寝耳に水の婚約話


…今、閣下は何とおっしゃった?なんか私と彼の婚約についてと聞こえた気がするんだけど、私の耳どうかしちゃったのかしら。

「ハイデマリー嬢?」

「ああ、はい。失礼しました」

「大丈夫か?顔色がすぐれぬようだが」

ふぅ、とひとつ息をつく。

「あの、大事な事なので確認させて頂きたいのですが…私とご子息の婚約についてとおっしゃいましたか?」

「そうだが…おや、知らなかったのかい?父君から何も聞いていないのかい?」

「はい…」

「フェリクスからも?」

「はい…ただ、そういうお話になる可能性はあるのかなとは思っておりました」

全く頭になかった訳じゃない。自邸での夜会のパートナーなんて婚約者が務めるのが普通だもの。ただ、打診があるかなという程度にしか思ってなかった。

閣下は腕を組み天を仰いでいる。夫人は心配そうに私を見つめ、アデル様は…

「お兄様、ご本人抜きでお話を進めていたって事ですの⁈」

あり得ない…という表情で彼に噛み付いている。彼は肩をすくめ

「ハイデマリーを通すと話が進まないからね、先に父上とバーンスタイン伯に話を通しただけさ」

「でも…」

「アデル様、大丈夫です。予想よりお話しが進んでいたので少し驚いただけですわ」

結婚、しかも彼となんて全く考えてもいなかったけど、決まってしまったなら覚悟を決めるしかない。

「閣下、お話しを進めて頂いても大丈夫でございます」

ほう、と片眉を上げた閣下は

「うむ…まあ今日は夜会の件まででいいだろう。クラウディア、君から説明してあげなさい。フェリクスは私と執務室へ」

彼を伴って退室される閣下を立ち上がって見送る。ドアの前で振り向いた閣下は

「我が家は君が嫁いでくる日を楽しみにしているからね、これからもよろしく」

と言って執務室へ向かった。


残された私と夫人、アデル様は再びソファに座ると顔を見合わせて笑った。

「ふふふ、フェルが旦那様にたっぷり絞られている間に少しお話しましょうね」

「ええ、叱られて反省するといいのだわ」

「私も帰ったら父を締め上げます」

少し温くなったお茶は侍女長が入れ直してくれた。手土産のバタークリームサンドも供される。

「あら、美味しい」

「少しお酒の風味がして…大人のお菓子ですわね」

「お気に召したなら幸いですわ」

「そうそう、夜会の事だけどね…」

彼が張り切って私の支度を手配している事、招待客の事、当日のスケジュールについて…夫人からひと通りの説明がなされた。

「旦那様が言っていたように、私達は貴女が嫁いでくる日を楽しみにしているけど、貴女は納得していて?」

納得しているかと言われれば、納得はしてない。そもそもなんで私なの?という感じ。彼と同級生という事は…自分で言うのもなんだけど、立派な嫁ぎ遅れ(いきおくれ)。理由を探してみても思いつくのは『丁度良かったから』くらい。家格差も許容範囲、それなりに社交もこなせるし、歳下や他国のご令嬢をいちから仕立て上げるよりは、私と婚約したほうがいいと判断したんだろう…

そう答えれば夫人とアデル様は顔を見合わせ、ため息をついた。

「勉強や仕事は優秀だけど、肝心なところがダメだったのね…」

「全く伝わってなかったのね…」

シュンとしたふたりの様子が申し訳ないけど、それくらいしか理由が思いつかないんだもの。

そうしているうちに彼が戻ってきた。閣下から絞られたのだろう、心無しかしょぼくれている。

そんな彼に夫人とアデル様、ふたりが向けた視線は…鋭かった。

「な、なんかあった?」

「フェル、ちょっと私の部屋へ」

「勘弁してください、母上。まだハイデマリーと話しも出来てないのに」

「だからこそです!」

また置いてけぼりですか…なんだか話しが通じてないみたいだし、もうお暇したほうがいいんじゃないかしら…

顔に現れていたんだろう、アデル様から声がかかった。

「ハイデマリー様、今お帰りになるとなんだか面倒な事になりそうですから…私とお庭でも見て回りませんか?」

えーっ、やっぱり帰っちゃダメなのね。

…公爵家のお庭は素晴らしかった。美しく刈られた灌木、蔓薔薇のアーチの先には瀟洒な東屋。アデル様は設置されているベンチに私を誘った。

「少しお話ししても?」

隣り合わせで話すアデル様は前を向いたまま。なんだか話しにくそうだけど、大丈夫かしら。

「その…ハイデマリー様は兄の事どう思ってらっしゃるのかお聞きしても?」

「それは男性として、という事でしょうか?」

「はい…今回のお話は兄が一方的に進めていたようなので…」

そうですねぇ、確かに私の気持ちとかは置いてけぼりでしたね。

「…そうですね、今シーズンずっとフェリクス様と夜会に出てましたでしょう?お仕事も一緒ですし、フェリクス様の隣にいる事が当たり前になっていて…私、勘違いしちゃいけない、これはニセモノだからって思うようにしていたのです」

「…という事は?」

私のほうを向いたアデル様は期待に満ちた顔をしていた。

「…あんまり自覚してなかったのですけれど、お慕いしていたんだと思います。私とはないだろうと思っていたし、婚約の事も何も聞いていなかったのでびっくりしました。まあ、気心も知れておりますし、本当に丁度良かったんだと思いますよ。それでもいいと思ってますし、彼だけでなくご家族の皆様に望んで頂いているみたいなので。大丈夫ですよ、アデル様。ちゃんと嫁いで参りますから」

アデル様は花のような笑顔で抱きついてきた。

「そろそろお母様のお説教も終わるでしょうから戻りましょうか」

アデル様とふたり手を繋いで戻れば、先程の部屋のソファに座り膝に肘をついて頭を抱える彼と、まだお怒りモードで向かいのソファに座る夫人の姿があった。














次回「本気だったんですか」

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