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いつの間にそんな話に

フェリクスが動きます


「君のお願いに応じているんだから、僕のお願いも聞いてくれるよね?」

シーズンも半ばになり、王家主催の夜会が落ち着いた頃の事。

執務室の片隅の休憩スペースでお茶を飲んでいたら、彼が向かいに座るなりそう切り出した。

なんか嫌な予感がする…

「来月、僕の家で夜会があるんだけどそれにパートナーとして出て欲しい。あ、ドレスがとかの言い訳は無しね。髪飾りから靴まで全部こちらで用意するから、君は当日の朝馬車に乗るだけでいいよ。それと次の休みの日、予定ないよね。迎えに行くからウチに来て。両親にも紹介しておきたいし」

け、決定事項なの⁈私の意見は反映されないと?

「でも、あの、主催ならパートナーがいなくても不都合はないかと…それにご両親に紹介って、ただの同僚で仕事絡みのパートナーの私が?」

「でも僕のパートナーでしょ?」

にこやかに笑っているように見えるけど、この顔は交渉で相手を追い詰める時の顔だ…

正直に言えば、私はこの顔を()()()()()()のが好きだ。決して真正面から見たいとは思わない…絶対に逆らえそうにないから。

「わかった?」

蛇に睨まれた蛙ってこういう心境なのかしら…

「はい、わかりました…」

「ああ、昼過ぎには迎えに行くからね。午後のお茶を一緒にと母から言われてるから」

言うだけ言って彼は休憩スペースを出ていった…残された私は冷めていくお茶を前に動く事もできずしばらくそのまま座り込んでいた。

「バーンスタイン嬢、ご面会の方が…」

面会相手の来訪が告げられ、やっと現実に戻る事ができた私を待っていたのは、同僚達からの何とも言えない生温かい視線だった。


ああ、気が重い…

今回の公爵家への訪問と夜会に招待された件は父に報告しない訳にはいかない。夕食後、父の執務室を訪れた。

「お父様、少しご相談が…」

領地からの報告書に目を通していた父に声をかける。

「ハイデマリーが相談なんて珍しいね」

髪に白いものが増えた父は、机の前のソファセットに私を誘う。

「あの、私の夜会の同伴者についてはご存知でしたかしら?」

「ああ、もちろん知っているよ。それで?」

来月の公爵家の夜会に招待された事、その関係で次の休みに公爵家へ訪問する事…事前に相談できず承知してしまった事を報告して謝った。

「…ああ、その件なら連絡があったよ。まあ、お断りできる相手でもないし、悪い話でもないじゃないか」

父は少し寂しそうに笑いながら続けた。

「ハイデマリーは押しに弱いだろう?持ち帰ってきたってきっと押し切られたと思うよ」

父は私の知らない事も知っている感じがして釈然としなかったけど、それ以上は聞き出す事も出来ず、自室へ帰った。


それから次の休みまでは手土産の手配だとか、ドレス選びだとかで慌ただしく過ぎていき…

当日は私の心とは裏腹によく晴れていた。

「うん、明るい色も良く似合うね。夜会でも着ればいいのに。今度プレゼントするね」

今日は侍女達が『絶対コレです!』と勧めてきた薄紫のドレス。私の明るい茶色の髪に合うのだそう。でも、紫って彼の瞳の色なのよね…機嫌がいいのはそのせいかしら。

公爵家の馬車に同乗し、王宮近くの公爵家へ。彼のエスコートで玄関を入れば、この屋敷の執事長と侍女長と思われる壮年の男女が出迎えてくれた。

「ようこそおいで下さいました、バーンスタイン様。ご案内させていただきます」

手土産の包みを侍女長に渡す。執事長を先頭に私と彼、最後に侍女長の並びで屋内を進む。ある一室の前で止まった執事長がドアをノックした。

「どうぞ」

えっこの声は公爵閣下?彼の腕に添えていた手に力が入る。

「緊張しなくても大丈夫だよ」

反対の手で添えた手をポンポンと叩かれ、ひとつ息を吐く。

「お連れしましたよ」

開かれたドアの向こうには彼によく似た面差しの公爵閣下と、柔和な笑顔の夫人そしてキラキラとした美貌の妹君がいた。

えっ、この中に入るの?無理無理無理!

「どうぞお入りになって?」

夫人の声かけに彼の腕から手を外し、礼をする。ドレスを摘む指が震えているけれど、声だけはなんとか…

「お初にお目にかかります。バーンスタイン伯爵が長女、ハイデマリーでございます。今日はお招きいただきありがとうございます」

「ああよく来てくれたね。まぁそんなに固くならず座ったらどうだい?」

彼の手が私の腰に添えて…いやいやいや、それ、ニセモノにしちゃダメなヤツ…スッと腰を押されてソファに誘われる。夫人の対面、左斜め前には公爵閣下、右隣に彼、夫人の隣には妹君…ああもう帰りたい。

侍女長がお茶をサーブし、執事長が私の手土産…我が領で唯一の特産品のワインと干し葡萄を使った焼き菓子を公爵閣下と夫人に披露してくれる。

「まあ、美味しそうな焼き菓子ね。アルノー、出してくれる?」

「ほう、18年ものか」

「はい、ご令嬢が今年成人を迎えるとお聞きしておりましたので。ご家族でのお祝いの時にでも召し上がっていただければと」

とりあえず手土産は気に入ってもらえたようでホッとする。

「あの、ハイデマリー様とお呼びしてもよろしいですか?」

「もちろんでございます」

「私の事はアデルとお呼び下さいませ」

妹君はアーデルハイド様…いきなり愛称呼びですか?

「それなら僕の事もフェルと」

妹と張り合わないで!そもそも名前呼びだってしてないでしょうが!

「さて、ハイデマリー嬢、今日来てもらったのはね」

続く閣下の言葉に、私は唖然とした。

「君とフェリクスの婚約についてなんだが…」






エピソードタイトルはハイデマリーの心境となります

次は「丁度良かったからですか」です

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