【最終話】双子の兄弟、真の勇者となる
「第二代 異世界皇帝 青鬼二世の名において、久保坂壱剛、久保坂仁業、この両名に『勇者』の称号を与えるっ!」
「「はっはいっ! ありがとうございます!!」」
パチッパチッパチッパチッパチッパチッパチッパチッ…………
「時を越えた友人たちよ、これからも、異世界ならびに日本のために働いてくれるかな?」
「もちろんですっ陛下!」
「全身全霊をかけてっ!」
俺たち双子の兄弟は14歳の誕生日を迎えた今日の朝、いきなり帝城に呼び出されて、これから、お前たちの『勇者』の授与式があると告げられる…
突然の出来事に、僕たちは呆然としていたんだけど、それからはされるがままに着飾られて、皇帝陛下の御前に召し出され、皇帝陛下直々に『勇者』の称号を授与される…
正直キツネに摘まれた気分だな…
そうそう、あまりにも突然すぎて、僕なんかまだ実感が湧かないよ…
まぁ、授与されたからには、全身全霊を持ってみんなのために働くことには、不満はないんだが…
そうだね、もちろん僕だって、全力で『勇者』の名に恥じない、働きをするつもりだけど…
大体からして、四年前に『勇者』の称号の話しが持ち上がった時に、俺たちはしっかり辞退したはずだったよなぁ?
ああっ、確かに辞退したよ、僕、その時のこと、今でもシッカリ覚えているもんっ…………………
「なんでなんだよぉ、なんで辞退なんかしたんだよぉ?」
「そうよ、あなたたちがいなかったら、今頃、地球や異世界の生き物たちは、死に絶えていたかもしれないのよぉ?」
「そうだな、おまえ達には『勇者』になる資格が十分に備わっていたはずなのに…」
「まぁ、まぁ、俺も残念に思うけど、壱剛と仁業には、それなりに、ちゃんとした考えがあって辞退したんだろぉ?」
「う、うん……、ふたりでちゃんと話し合って決めたことなんだ…」
「ああ、やっぱり俺たちに『勇者』の称号は相応しくない…」
今から四年前、僕たち兄弟は『生き物たちの破滅』を一緒に退けた仲間たちから、なぜ『勇者』の称号を辞退したのかと、質問攻めにあっていた…
「なぁ、壱剛、仁業、よかったらその理由、俺たちに聞かせてくれないか?」
「えっ…そっそれは……………」
「なぁ仁業……、おまえがそれをみんなに聞かせるのが怖いのはわかる…俺だって怖くて怖くてたまらない…、だけど、みんなは俺たちにとって大切な人たちだろ? このまま黙っててもいいのか……?」
「うっ…うん、わかったよ……」
「いやっ! ちょっと待ってくれ! 聞いておいてなんだが、そんなに思い詰めるような内容なのか…? それなら、無理をしなくていい! 俺たちはおまえたちが苦しむところんなんて見たくないんだ、悪かった! 忘れてくれ!」
「うんっ、うんっ、ごめんねっ! もう聞かないから、忘れてっ!」
「いやっ違うんだっ、僕が躊躇したばっかりに、みんなに心配かけてしまってごめん!……このことは僕たち兄弟でなん度も話し合って決めてたことなんだ、みんなにはちゃんと話すべきだって!」
「ああっ仁業の言うことは本当だ! 俺たちは前世の記憶が戻ってから、なん度も話し合ってきた、そして出た結論は、この先このまま黙って時を過ごしていくことのほうが、俺たちをますます苦しめることになると…。これを話せば、もしかしたら、おまえたちに嫌われるかもしれない…、だけど嫌ってもいいから聞いて欲しい! 頼むっ!」
「それほどまでに………」
「わかった、聞こう」
「ええ、私も聞くわ、あなたたちがそれほどまでに覚悟を決めたのなら」
「そうだな、俺たちも腹を括って聞くことにしよう」
「「ありがとう………」」
「先に言っておきたいんだけど、今から、僕が話すことは、全部、僕がやったことで、壱剛には全く関係のない話なんだ…」
「それは違うなっ、俺はあの時、おまえを止めようと思えば止めれたはずなんだ、だけど、俺はそれをしなかった…、俺だっておまえと同罪だ。頼むから自分ひとりで罪を背負おうとしないでくれ……」
「壱剛………わかった、ありがとう…」
こうして、僕は覚悟を決めて、僕たち兄弟の前世であった出来事の一部始終をみんなに話し始めた…
僕たち兄弟は、前世では東郷夏彦というひとりの若者であったこと…
そして、76人もの未来ある若者達を死に追いやったこと…
その76人の中に、裕太くんとサキちゃんがいたこと…
奇妙な偶然から異世界に辿り着き、魔物達の日本の侵略に加担しこと…
侵略阻止に立ち上がった、大吾くんと美羽ちゃんを殺そうとしたこと…
ひょんなことから、自分の中にもうひとりの自分の存在(1号)に気づいたこと…
そんな悪行の末に、地球の女神様に罰を与えられ、改心し、自分たちの存在の全てをかけ、魂すら消滅させる覚悟で、僕が殺めた76人が死ななかった別世界を女神様に作ってもらったことを話した……。
「………こりゃぁ、また、とんでもない話を聞いてしまったなぁ」
「ええ、〈始原の理〉たちの物語を地でいくような話だったね…」
「で、全てを聞いた俺の感想だがぁ…、おまえ達を嫌いになる要素が少しも見当たらない…、そんなところかなぁ、もちろん話しの最初の部分は、ちょっとヤバイかなぁって思ってたけど…」
「そうねぇ、私も同意見ね」
「って言うかさぁ、おまえ達が全てを捧げてくれたおかげで、この世界が出来たわけだろぉ、それを考えると、感謝すら感じるなっ!」
「そう、そう、ヒミコおばさんが言ってたじゃないか、前世の世界は壊滅寸前まで追い込まれたってっ! それって、仁業が今話ししてくれた世界の話だろっ?」
「いやっ、ちょっと待ってくれよ! 俺たちは、裕太やサキの命を奪い、大吾や美羽の命を奪おうとしたんだぞっ!」
「ああ、それを言うなら、おまえ達は、[混沌]のカケラのオルギーや[傲慢]の女神ルゥシーおばさんを嫌いになったのか?」
「そうね、オルギーはまだしも、ルゥシーおばさんは私たちを殺そうとしてたのよ? なのにあなた達はそのふたりとも、嫌うどころか助けちゃったわよね?」
「そっそれは…」
「それは違うとでも言いたいのか? いやっ同じだろ? 今の俺たちと同じで、おまえ達は、あの時あのふたりを嫌いになんてなってなかったんだろ?」
「「うっ………うっわ〜ん!」」
「あ〜! 大谷先輩が双子の小学生たちを泣かせたーっ!」
「えっ? ちょっちょっと待って! ごめん泣かせるつもりじゃ…」
「ヒッヒックっ、ち、違うよ、嬉し泣きだよぉ」
「ヒックっ、おっ俺は泣いてなんか、ヒッ…無いぞ! ヒックッ」
「ハハハッ! そうだなふたりとも泣いてなんかいないな!」
「「「「「ハハッハハハハッ」」」」」
ああ、あったなぁ〜、そんなこと…
でもさぁ、あの時、みんなは僕らを前世ごと受け入れてくれたけど、よくよく考えてみれば、『勇者』の辞退を納得したかまでは、聞いていなかったよねぇ…
あっそうだなっ、確かにっ! そうかぁ、あの時みんな、辞退までは納得していなかったんだな…
ほらっ、壱剛、みんなが呼んでるっ
「どこ行ってたんだよぉ、主役がウロウロするんじゃねぇよぉ…」
「「いやぁ、ごめん、ごめん」」
「それじゃ、改めてっ、壱剛、仁業、『勇者』の称号授与、おめでとう!」
「「「「「おめでとうっ!!!!」」」」」
「「あっありがとう!」」
「それじゃぁ、これは俺たち〈始原の理〉全員からのプレゼントだ!」
「えっ! ありがとうっ!…、ってこれは道着?」
「あっホントだっ! でもなんだかちょっと派手だぞ」
「勇者だからなっ! ちょっとは派手じゃないとなっ」
「その道着は世界で二着しかないのよっ、ここぞって時に着てね!」
「「うんっ! 大切にする!」」
「それから、姫姫ちゃんからもふたりに贈り物があるのよね」
「えっ姫姫からも?」
「なによぉ壱剛、私からのプレゼントはいらないって言うの?」
「いやっいるっ! いるに決まってるだろぉ」
「なになに? えっ本?」
「そうっ、本よ、でもね、ただの本じゃないのよぉ〜」
「えっ! もしかしたら、俺たちが知りたがってことが書かれてある本だとか…?」
「ピンポーン! 正解っ」
「壱剛や仁業が知りたかったこと?」
「うんっ、そうなんだ美羽ちゃん、四年前、僕たちが前世の別世界でやってきたことを、みんなに告白したじゃない?」
「ええ、そうね、その時のこと、今でもしっかり覚えているわ」
「それでだ、あの時、仁業が告白したことって、あくまでも全部俺たちの目線から見て、行動した出来事の話しだったろ?…でも、俺たち以外のみんなは、その時どう感じて、どう行動したのかまでは、当然、俺たちにはわからない…」
「そうそう、今の世界のみんなに聞いても、別世界の出来事だから、みんなだって当然わからない、だから、あの告白の後、女神である姫姫ちゃんに聞いて見たんだ、その時の別世界のみんなのことわかる? ってね……あの時のこと覚えてくれてたんだ…姫姫ちゃん」
「フフフッ、ちょっと時間がかかってしまったけど、あんたたちの誕生日で、『勇者』の授与式の、この特別な日に間に合ってよかったわ!」
「あの日から、こんなに長い時間かけて、調べてくれたんだな、ありがとうっ!」
「ああっホントだね! 大事に読むよ、本当にありがとう!」
「この本はね、実を言うと私だけが頑張ったわけじゃないのよ、ヒミコお姉様とピロちゃんにも手伝ってもらったのよ、後でふたりにもお礼を言っておいてね」
「ヒミコおばちゃんはわかるけど、ピロッシにも?」
「初めはね、大谷ちゃんと塩谷先生に共作で執筆してもらうつもりだったんだけどね、ふたりとも当事者じゃない? だから、言霊使いの特殊な能力が使える、ピロちゃんに頼んでみたのよ、でも、あんたたちの前世、ピロちゃんとも関わっていたのね、驚いたわぁ」
「へぇ〜、いいなぁ、別世界での俺たちのことが書かれてあるのかぁ」
「ねぇねぇ、壱剛、仁業、あんたたちが読み終わったら、私たちにも読ませて!」
「フフフッ、みんなそう言うだろうと思って、15冊作っておいたわ、みんなにもあげちゃっていいわよね? 壱剛、仁業?」
「ああっ、もちろん構わないぜ!」
「そうだね、みんなにもぜひ読んでもらいたいしね!」
こうして、僕たちの誕生日で『勇者』の授与式の日となった特別な日は、嬉しいサプライズがてんこ盛りで、生涯忘れられない日になったんだ…
そういえば、ヒミコおばちゃんが、俺たちの前世の記憶を取り戻させてくれた日、俺たち軽いノリで『真の勇者』を目指そうなんて、息巻いてたよなぁ…
ああ…言っていたねぇ〜、今思えば恥ずかしい限りだよぉ…
まぁ、でもよかったんじゃねぇの? 終わりよければ全て良しだぜっ!
そうだねっ! でも…『勇者』になったのはいいけど、こんなに平和な世の中で、僕たちが活躍できる日なんて来るんだろうか?
ハハハッ! そんな日、来なくたっていいんだよ。
それもそうかっ! 僕たちが『勇者』だったてこと、みんなが忘れるぐらいに、平和な世の中がずっと続くほうが、絶対にいいもんねっ!
よしっ! それじゃ、今後の『勇者』としての俺たちの目標は、この世に『勇者』なんていなくてもいい世の中にするっ。それで行こうぜっ!
おおっ! いいねぇ〜それっ! そうしようっ!
それじゃ、今後の目標も決まったことだし、俺たち双子の冒険譚はここで一旦終わりだな。
そうだね、また、いつかみんなと会える日を心待ちにするとしよう。
えっ? 俺たちの前世、別世界のお話しはしないのかって?
もちろん、するさ!
でも、ちょっとだけ休憩だ、すぐまた、みんなに会いに来るから…
それじゃ、みんな元気でね!
俺たちの話を聞いてくれて、ありがとう! またなっ!
………………………
双子の小学生勇者は2度死ぬ!
第一部 完