【第十九話】生き物たちの破滅
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ! わっ、わっ、私の…私の……」
自分を見る、俺たちの様子があまりにもおかしいと気づいたエルフのおばさんは、急いで手鏡で自分の顔を写す。
そこには、さっきまでフッサフッサあったものが、今ではすっかり無くなっていることに気づいたおばさんは、その場にヘナヘナとへたり込んでしまった。
今まで、憎たらしく思っていたエルフのおばさんだが、あまりにも落ち込んだその姿に、俺たちはなんだか可哀想に思えてきた…
「一応言っておくけど、私はちゃんと止めようとしたのよ、『神力』まで使うとあんたハゲるわよって…、それをあんたったらまったく聞かないから…」
「ど…うし…て…?……『神力』…を……つかっ……た…ら…」
「ああっもう! しっかりしなさいっ! そんなもの決まってるじゃないっ、私たち女神の『神力』はその豊かな髪に宿っているのよ。それを、あんな風に思いっきり使い切っちゃたら、ハゲるのは当然じゃないっ!」
「そっ…そん…な…」
「もう抜けてしまったんだもの、仕方ないじゃない、後は元通りに生えて来るのを待つことね」
「どっどれくらいっ?」
「う〜ん、あんたの髪、結構長かったわよね…確か腰ぐらいまではあったから…後、5、6年もすれば、元に戻るんじゃない?」
「そっそんなに待てないわっ! お願いっヒミコ! 私を…私を今すぐ殺してちょうだいっ!」
「嫌よっ!あんた殺しても、数年すればまた復活するでしょ? それでまた悪巧みなんかされたら、たまったもんじゃないわっ!」
「そんなぁ…………。くっ…いいわっ!あなたの手を借りるまでもなく、私は私の手で死んでやるわっ! クッククククッ、あなたたちも道連れにしてねっ!」
そう言うと、エルフのおばさんは胸の前で手を組み、なにやら瞑想を始める……。
「なっなにやってるの? ハーゲンカクルゥシ!」
「……………………オーケーよっ! 了承するわっ!」
《ヴィィィンッ!ヴィィィンッ!ヴィィィンッ! 警告します。ただいま核ミサイルの起動システムが発動しました。これより5分後に核ミサイルが発射されます。目標、地球および異世界の主要都市に加え、現在地エルフ城もターゲットとなります。総員ゲートを展開して至急避難してください。ヴィィィンッ!ヴィィィンッ!ヴィィィンッ!……》
「「「えぇぇぇぇぇっ!」」」
「サキっ! 急いで、地球のどこか田舎にゲートを発現させてくれっ! なんとか、そこの小学生トリオだけでも逃すっ!」
「うんっ! わかったっ、すぐに始めるわっ!」
「ちょっと待ちなさい、大吾ちゃん、サキちゃん、私に考えがあるから大丈夫よ」
「本当かっ! 母さん!」
「ええっ大丈夫!…姫姫ちゃん、ちょっといいかしら?」
「えっ? はっはいっ!」
「フフフッ、そんなに緊張しなくても大丈夫よ?…ねぇ姫姫ちゃん、あなたの側にいる、ふたりの可愛い騎士ちゃんは、なんのために貴方に寄り添っているのかしら…? 今じゃないの? ふたりの力を解放してあげるのは…」
「ふたりの力を解放………。はっ! わかったわっヒミコお姉様っ!」
「フフフッ、任せたわよ…」
「壱剛! 仁業! 私の言うことをよく聞いてちょうだい! 今からあんた達は『護の槍』と『突の槍』に集中するの! いいっ?」
「え…、わっわかった!」
「それで?」
「核ミサイルの発射と同時に私が合図をするから、その合図であんた達は『護の槍』と『突の槍』で、お互い思いっきり撃ち合うの! わかった?」
「はっ! わかったよ!」
「なるほどな! 了解だっ」
「なっなにをするつもりなのっ? 邪魔はさせないわよっ!」
「フフフッ、邪魔をさせないってハーゲンカクルゥシ…、あんたにはそんな力どこにも残ってないでしょ?」
「くっ………」
《ヴィィィンッ! ヴィィィンッ! ヴィィィンッ! 核ミサイル発射まで3秒…》
《…2……1……ゼロ発射》
ゴォォォォ……
「今よっ! 壱剛、仁業!」
「「オゥッ!」」
ガッキィィィィィィンィィィン…ィィィン…ィィィン……
ゴォォォォォォォォォォォッウキュッ!……………
「なにが…なにが起こったのっ…? ミサイルの発射音が消えた…?」
「………ふぅ〜どうやら、またもや姫姫ちゃんに助けられたようだな、俺たち…」
「ええっ! そうね、今度は双子の可愛い騎士さん達にもねっ!」
「やっやめてよ〜可愛いはっ! 僕たちもう10歳なんだよぉ!」
「まあ、いいじゃねぇか仁業、俺は気に入ってるぜ、可愛いって」
「ハッハハハッ、たまにオマエたち兄弟は普段の態度とセリフが逆になるよな」
「それにしても、女神ちゃん、さっきの双子の撃ち合いは12月の理[不動]のやったことを再現したんだな?」
「そうよっ、ありえない状況を起こして、核ミサイルの発射を無かったことにしたのっ! 上手くいってよかったわ!」
「フフフフッ……あなた達、浮かれるのは今の内よ…私は諦めないわよ、核ミサイルは発射を無かったことにされただけで、私の結界の中にまだ存在しているのでしょ…? それなら、これからどこに連れて行かれて、どんなに拘束されようとも、私は必ず核ミサイルを発射してみせるわ…あなた達はいつ爆発するかもわからない、核ミサイルに怯えて生きていけばいいわ! オ〜ッホッホッホッホォ!」
「あらっ? ハーゲンカクルゥシ、私がそんなこと許すとでも思ってるの?」
「えっ? あ…、あなた、まさかっ!」
「そうよぉ〜、あんたの暗号結界、書き換えさせてもらったわぁ〜」
「そっそんなっ! そう簡単には……」
「そうなのよぉ〜、全然簡単じゃ無かったわぁ〜、手も足も出ないって感じぃ? でも、あんた、さっき核ミサイルのシステムを起動させる時、ちょっとの間だけ、暗号結界を解除したでしょ〜?」
「まさかっ! その間に書き換えたのっ?」
「そうよぉ〜、でもぉあんたの『神力』が回復したら、私の暗号結界なんて、すぐに破られるでしょうねぇ……、だ・か・らっ、ほらっこれプレゼントするわっ!」
スポッ!
「「「………ブッ!!!ブゥゥゥゥゥゥゥッ!」」」
「クッ!クククククッ……ブッハッ!ブハハハハハハッ!やっやめてくれぇ〜! お袋さん! はっ、腹がっよじ切れるぅ〜!ブハハハハハハッ!」
「なっ、なになにっ? ヒミコ、あなた私の頭になに被せたのっ?」
「ククククッ…じっ…自分で確認すればぁ? クックククッ…」
「ヒッ! ヒィィィィィッ!………フッ………」
エルフのおばさんは、またもや手鏡で自分の顔を確認するや否や、今度は小さく悲鳴をあげて、その場で気絶をしてしまう…。
おばさんの頭に被せられたもの…、それは昔のコント動画で見たことのある『ハゲヅラ』だった…。
おでこから頭頂部の広範囲にわたって禿げ上がったその『ハゲヅラ』の頭頂部のど真ん中には、太くて、少しウェーブのかかった一本毛が生えてある…。実に気の毒な姿に変わったエルフのおばさん…。
「クククッ…、さぁてっと、このハゲヅラが気を失っているうちに、そろそろ助けないとねっ」
そう言った女神様は、ハゲづらの頭頂部にある太い一本毛を掴むと、軽々とエルフのおばさんを起こし、おばさんの背中をバンッ、バンッ、バンッっと、三回叩いた。
ベチャッ!ベチャッ!ベチャッ!
「わっ! 三姉妹! いっ生きてるのっ?」
「う〜ん、大丈夫、気絶してるだけで、ちゃんと生きてるわよぉ」
「うわ〜、全身ベチョベチョねぇ、生まれたての小馬みたい…」
「ところで、立花のおばちゃんっ」
「なぁに、美奈ちゃん?」
「立花のおばちゃんってさあ〜、もしかして、ハゲヅラのおばちゃんが自分の部屋に核ミサイルを隠し持っていたこと知っていたんじゃない?」
「ええ、知ってたわよぉ〜、暗号結界でガチガチに守られてたこともね」
「…………………」
「どうしたの? 美奈ちゃん、黙り込んじゃって…」
「立花のおばちゃんは本当に女神様だったのね、今まで全然気が付かなかったけど…」
「黙ってて、ごめんなさいね…でもこんなことがなければ、言っても信じられなかってでしょ?」
「いやっ違うの、そうじゃなくて、立花のおばちゃんは、もしかしたら今回の騒動のこと全部知ってたんじゃないかなって思えて…。壱剛、仁業のお爺ちゃんの枕元に立ったのも、おばちゃんだったのでしょ…? それに、さっきの核ミサイルの時もまるで一度見てきたみたいに落ち着き払ってて、こうなることが予め分かってたみたいだったわ…」
「フフフッ…、流石は[発見]のカケラの持ち主ね…よく見てるわぁ…」
「それじゃあ、美奈の言っていたことは本当のことなのかい?」
「ええ…そうね…、核ミサイルが発射されるところまでは、知っていた…というより、美奈ちゃんが言ったように、以前に一度見ていて、知っていたの…」
「一度見ていてって…、それは女神だけが見れる予知夢みたいなもの?」
「いいえ…、実際にこの目で見ていたの…」
「その言い方だと、その時の核ミサイルは防ぐことが出来なかったんだね…」
「パラレルワールド……、もしかしたら、おばちゃんが見てきた世界は、この世界とは違う、並行世界の出来事なのね…」
「よく分かったわね、サキちゃん、そうよ、その並行世界では裕太ちゃんが言ったように、核ミサイルを防ぐことが出来なかった…、そして、地球と異世界は壊滅状態寸前にまで追い込まれてしまったの…、その世界では15の〈始原の理〉が全て揃っていなかったから…どうしても防ぐことが出来なかったわ…」
「その揃っていなかった〈始原の理〉って、僕たちのことだね…」
「えっそうなのお母さん…? 壱剛と仁業はその世界にいなかったの…?」
「ええそうね、[矛盾]のカケラを持つふたりはいなかったわ…、でもその代わりというのもなんなんだけど、[混沌]のカケラを持ったひとりの男の子はいたわ…」
「そうか、その[混沌]のカケラを持った男の子が、なんらかの理由があって、今のこの世界で[矛盾]のカケラを持つ壱剛と仁業に生まれ変わった…」
「その通りよ雄二ちゃん」
「なるほど、そういうことだったのかぁ…。でもお袋さんのさっきの話しだと、核ミサイルまでのことなら分かるけど、それ以降のことは、まだどうなるか分から無いってことだよな?」
「そのことなら安心してもいいわよヒロシちゃん、そこのハゲヅラにハゲヅラを被せた瞬間に、『生き物たちの破滅』による悪意は全て断ち切ったわっ!」
「そうか〜っ! 終わったんだな? よかった〜!……んっ? でも悪意を持っていたということは…『生き物たちの破滅』てぇのは、なにかの意思をもつ生物だったのか?」
「そうね、この際だからみんなもちゃんと理解しておいてちょうだい、『生き物たちの破滅』ていうのはね、人間や魔物たちのことを良く思わない、[理]たちの悪意の集合体みたいなものなの」
「う〜ん、[理]って神様のことなんでしょ?、だから人間や魔物たちの味方って、少し勘違いしてたけど、すべての理が私たちの味方ってワケじゃ無いってことなのね?」
「そうよぉ〜、だってほらっ、そこのハゲヅラだって[傲慢]の[理]なのよぉ」
「確かにそうだね…、だけど、なんでそんなに人間や魔物を嫌うんだろう?…もしかして環境破壊なんかしちゃったからかなぁ?」
「それもあるかもしれないけど…、本当のところはね、人間や魔物たちの知能が、私たち[理]に近づいて来たからなの…。大半の[理]たちはその成長を喜んでいるのだけど、一部の[理]たちは、いつか自分たちが支配される側にまわるかもしれないと懸念してしまったのね…」
「なるほどなぁ…確かに[傲慢]の神が人間なんかにコキ使われうのは、死ぬほど嫌だろうしなぁ」
「それそれ…、さっきだって自分の髪の毛が全部無くなった時なんて、みんなから哀れみの目で見られただけで、自殺しそうになったぐらいだもんね…」
「まっ、そんなワケで、最後まで抵抗していた[傲慢]の[理]も、ついに私たちの手に落ちたので、これで今回の『生き物たちの破滅』は完全に終わったって宣言していいわっ!」
「ふ〜っ、やれやれ、一時はどうなることかと思ったよぉ〜」
「あ〜そうだね〜、でもハゲヅラはこのまま放っておいて大丈夫なの?」
「ええっ大丈夫よ! 私の呪いをタップ〜リ乗せたハゲヅラを被せちゃったからね! ハゲヅラが目を覚ましたら、最後の仕上げをするわっ!」
「「「うっうぅぅぅん…」」」
「あらっ? ハゲヅラの前に三姉妹ちゃんが目を覚ましたようね、それじゃ、私は核ミサイルの処理があるから、後は任せたわよっ」
「え〜っそんなぁ〜、こいつらちょっと面倒臭いんだよなぁ〜、じゃっここは、女同士、女子たちに任せるわぁ、俺たち外のエルフ兵たち集めて来るから…」
「ちょっと! ナニ言ってるの? 私たちも嫌ぁよっ! あっそうだ、三姉妹相手なんだから、三兄弟でいいんじゃ無いの?三人衆先輩っよろしくねっ! 私たちもエルフ兵たちの回収をして来るから!」
「あっちょっと待てっ!……ってもう行っちゃったよぉ」
「どうするよぉ、ムラぁ?」
「どうするもナニも、とりあえず起こして、大丈夫かどうか確認した方がいいんじゃ無いのか?」
「それもそうだな…、なんたってあのおばさんに飲み込まれてたんだからなぁ…」
「おい…、大丈夫か?」
「うっううっ……はっ! あなた達!…死んでいなかったの…? ということは…はっ始祖様…? 始祖様はどこっ? …ヅゥラーラ! ウイッグラ! 起きなさい!」
「うっ…カトゥラお姉様…どうしたの…?」
「うぅぅ…お姉様達…無事だったのね…よかった…」
「それどころじゃ無いのよっ! 始祖様が始祖様がどこにもいないのっ!」
「あのぉ〜、ちょっといいか? オマエ達が言う、始祖様ならそこで寝ているのがそうだよ…」
「「「えっ?………………ブゥゥゥゥゥゥゥッ!!!」」」
「どっどう言うことぉ?なんで始祖様の頭が禿げ上がっているのっ?」
「うっ嘘よ…こっこんな…」
「あっあなた達ねっ? あなた達が、始祖様にこんな辱めを受けさせたのねっ!」
「いやいやっ! 俺たちじゃねぇーよっ!」
「嘘おっしゃいっ! あなた達以外、ここには誰もいないじゃ無い!」
「おいたわしやぁ始祖様……あなた達は絶対に許さないわっ!」
「そうよっ! あなた達なんか私たちが切り捨ててくれるわっ!」
「ちょっちょっちょっと待ってくれっ! 俺たちの話も聞いてくれよ!」
「問答無用! 出よっ! 破神剣!」
「出よっ! 破龍剣!」
「出よっ! 破虎剣!」
「おいおいっ、どっから出したんだよ? そんな長い剣?」
「ちょっと危ない! オマエ達には長すぎだぞ ?その剣!」
「うわぁ! 持ち上げるだけでフラフラしてんじゃねぇか? マジで危ないって!」
「「「うるさいっ! 死になさいっ! タァァァッ!!!」」」
「「「うわっ!!!」」」
ザクッ、ザクッ、ザクッ
「「「ぬっ抜けないわっ!」」」
「だから言っただろぉ、オマエ達には長すぎるってぇ…」
「おいおいっ! 無理に引き抜こうとしたら危ないって!」
「も〜ぉしょうがねぇなぁ〜退いてろっ!」
「なっなにをするつもりっ!」
ズボッ
「いいから、いいから、オマエ長女ちゃんだったな、え〜と長女ちゃんのタッパからすると、こんなもんか?」
パッキ〜ンッ!
「おっ折ったっ?…私の破神剣が……なっなんてことをっ!」
「ほれっ、持ってみろ!」
「えっ?………ちょ…ちょうどいいかも…」
「だろぉ? それじゃちょっと構えてみろ」
「こっこうかしら?」
「おっ、いいねぇ、サマになってんじゃねぇか!」
「そっそうなのっ?」
「よしっ、それじゃ剣の振り方な、いいか? さっきみたいに振り切ったらダメだぞ、さっきは床に刺さっただけですんだけど、下手したら自分の足を切っちまうからな。いいかぁ、よく見てろよ?…こう上段に構えて…お腹の前でグッと止める。ほれっやってみろ」
「……エイッ!」
「おーっ! いいじゃん! いいじゃんっ! かなり良かったぞっ!」
「ウフフフッ! そおっ?」
「「………………………おっ俺たちも教えてやろうか?」」
「「………………………よっよろしく頼むわ」」
「ふ〜っ! エルフ兵たちも千人近くの回収となると、流石に骨だったなぁ…」
「ああっ、結構、時間がかかったなぁ…、でも、あいつら大丈かなぁ…三姉妹を無理やり押し付けちゃったけどぉ…」
「そうねぇ〜、でもほらっ三人衆先輩たちって、先輩達の中でも女の子には、特に優しいじゃない? 顔は怖いけど…、だからなんとか上手く宥めてるんじゃないの?」
「顔は怖いは余計だろぉ………おっ! 居た、居たっ……んんっ? なにやってんだあいつら……」
「いやぁ〜、びっくりだなぁ〜、あれだけ屁っ放り腰だったカトゥラちゃんが…コレ、ムラ、見てくれよっ!」
「ふむっふむっ、確かに堂に入ってるなぁ…、だが惜しいな! うちのヅゥラーラちゃんと比べると、あと一歩ってところかなぁ…」
「なにを言っているのかなぁムラ?、うちのウィッグラちゃんを見ろよっ! 正に女剣士だぜっ! こりゃ将来、歴史に名を残す剣士になるんじゃないのかぁ!」
「いや、いや…コレよ、確かに凄いがうちの……」
「「「先生方っ!次の技を教えてくださるかしらっ?」」」
「おっ…おう………いや、オマエ達にはまだ早いって言いたいところだが…」
「う〜ん、確かにここまで飲み込みが早いとなると…」
「だなっ! 次いってみるかっ!」
「「「キャー! ヤッターッ!!!」」」
「あのぉ〜修行中にすみません……」
「おっ! オマエ達、もう帰ってきたのか?」
「もうって…、あれから、かれこれ3時間ぐらい経ってるぞ」
「ええっ、そんなに時間が経ってたのかよ?」
「あら、あら、みんなも帰ってきてたのね、ちょうどよかったわ」
「あっお袋さん、お帰り。ところで核ミサイルは大丈夫か?」
「ええっ大丈夫よ、とっても安全な場所に保管してきたわ、そのうち日本から技術者を呼んで、完全に解体してもらうつもりよ」
「そうかっ、それじゃとりあえず一件落着ってところかな?」
「そうね、今回の『生き物たちの破滅』の危機は完全に去ったって言ってもいいわね、後は今回の騒動を起こした首謀者達の処遇を決めないとね…。三姉妹ちゃん、ちょっとそこの始祖様を起こしてくれるかしら?」
「なによっ、偉そうにっ!」
「たかだか[無]の女神ごときがっ!」
「そうよっ! 私たちに指図しないでちょうだいっ!」
「まぁ、まぁ、そう言わずに、オマエ達だって自分たちエルフたちが完敗したってこと理解してるんだろぉ?」
「そうだぞ、負けてしまったオマエ達にとって、これからエルフ達が生きていく上で大事な話になる」
「まぁ、ここは俺たちの顔を立てて、お袋さんの言う通りにしてくれよ」
「……まあ、先生達がそんなに言うのなら、仕方がないわねぇ…」
「そうね、ここわ先生達のお顔を立てることにするわ…」
「始祖様、起きてください……始祖様、起きてください……」
「ねぇ、塩ちゃん、あの三姉妹ちゃん、三人衆ちゃん達には、なんであんなに素直なの?」
「さぁ、それが僕らにも、よくわからないだよぉ…」
「始祖様、起きてください……。朝ごはん冷めちゃいますわよ…」
「うぅぅ…うんっ? 朝ごはんできてるのぉ…? って!ヒミコッっ!」
「あらっおはよう! ハーゲルカクルゥシ」
「あっ! そうだったわっ! このハゲヅラっ……っ?……っ?ぬっ脱げないじゃないっ!」
「そうよぉ〜脱げないわよぉ〜、だって私の呪いをたっぷり込めてあるんだものぉ〜」
「のっ呪いですってぇ〜!」
「そうっ私がそのハゲヅラに込めた呪いはねぇ〜、一度被ってしまうと、私が与えた条件をクリアしない限り、決して脱ぐことができないし、上から帽子なんかを被って隠そうとしても、絶対に被れないように出来てるのよぉ〜。そしてそのハゲヅラを被っている限り、あんたの神力は愚か、魔素の蓄積すら出来なくなるわぁ〜」
「そんなぁ、それじゃ、このハゲヅラを被っている限り、私はただの人間と変わらないってことになるじゃないっ…」
「そうよぉ〜、あんたはこれから、変な髪型の、ちょっと耳の長い普通のおばさんとして、生きていくことになるのよぉ〜」
「ちょっ、ちょっと待って! でも、あなたが出した条件を、私がクリア出来れば、いいんでしょっ? はっ早くその条件を教えてちょうだいっ!」
「いいわぁ、教えてあげる、その条件はね、今からあんたは、他人の役に立つことや他人のためになる良い行いをしていくの、良い行いをする度にあんたのそのハゲヅラに一本づつ毛が生えてくるわぁ、それで毛が全て生え揃ったら、そのハゲヅラはポロッと取れて、元の女神としての力が戻ってくるのよぉ」
「わっわかった! 良い行いをすればいいのねっ?」
「でも、気をつけてねぇ〜、あんたが少しでも、また悪巧みを企てようものなら、せっかく生えてきた毛も、また抜け落ちてしまう、もしくは良い行いをいくらやっても、なかなか毛が生えてこなくなるのよぉ〜。わかったぁ〜?」
「うんっうんっ! わかった、もう決して悪巧みなんか企まないわっ!」
「「「ちょっとお待ちなさいっ![無]の女神っ」」」
「うぁっ! ビックリした、なぁに、三姉妹ちゃん?」
「始祖様に罰を与えるのなら、私たちにも罰を与えなさいっ!」
「そうねっ! 私たちも同罪でしょっ」
「始祖様と同じハゲヅラを私たちにも被せなさいっ!」
「う〜ん…、それもそうねぇ〜」
「ちょっと待ってっ! ヒミコ、その娘たちには罪はないわっ! その娘たちは、なにもわからずに、私の指示に従っただけなのっ!」
「いいえっ! 始祖様、私たちはちゃんと理解してました」
「その上で、私たちは、私たちの意志で始祖様に従ったのです」
「始祖様と同じ罰を受けるのは、至極当然のことっ!」
「あ…あなたち……」
「わかったわぁ〜それじゃあ、三姉妹ちゃんたちには、この坊主ヅラを被ってもらうわぁ〜、いくら共犯でも主犯とは違うのだから、これぐらいで納得なさい」
「私からもお願いするわ、その坊主ヅラで納得してちょうだい…」
「始祖様がそういうのなら…」
「わかりました、それで納得しますわ…」
「それで、その坊主ヅラには、どんな呪いがかかっているの?」
「う〜ん、この坊主ヅラはハーゲルカクルゥシのハゲヅラと大体同じね、良い行いをする度に、全体の髪の毛が1ミリずつ伸びていくのよ」
「「「わかったわ、被せてちょうだい」」」
スポッ、スポッ、スポッ
「ほぉ〜、なんだか修行僧みたいで凛としていて、なかなかいいんじゃないか?」
「ああ、お前たちの剣とその頭、しっくりきてるよ」
「やっぱ、元がいいからナニやってもサマになるんだなぁ」
「「「フフフッ…、ありがとうございます! 先生方」」」
「あのぉ〜、一応そのヅラも罰なんですけどぉ〜…、まっいいかっ」
こうして、エルフ側の主犯格への罰を与え終わった、女神さんは、残りのエルフたちの今後の処遇を通達するため、一階の大広間へと場所を移して、エルフの兵士やその家族たち全員をその場に集めることにした。
その場に集まった約二千人にも及ぶエルフたちは、誰も声を立てず、神妙に女神さんの言葉を待っていた。
「さてと、これで全員かしらぁ? なかなかの大所帯ねぇ…。あらっ? 裕太ちゃん、あんたの首元、なにか光ってない?」
「えっ…?、おっおわっ!」
裕太の首元が光った原因は、無限巾着袋だった。
光は徐々に増していき、目が開けられないほど発光する!
「う…、今のはなんだったんだ?」
「見て! あれは裕太先輩が持ち帰った、ロゼッタストーンじゃないっ?」
忽然と姿を現した、ロゼッタストーン。
これには、前世を知っていた女神さんも不足の事態だったようで、緊張した面持ちに変わる。
おい、おい、まだなんかあんのかよぉ〜
俺たちは、なにが起こってもいいように身構えて、ただただロゼッタストーンを見入ることしか出来なかった…………。