【第十六話】最後の作戦会議
「あなたたちっ、いったいなにを騒いでいるのっ! あまりに五月蝿くて、始祖様がご立腹よ!」
「えっ?、あっ!、カトゥラお姉様! そっそれが〜、そっそのぉ…」
「なによっ! 早く仰いっ!」
「ヅゥラーラお姉様が、敵の手に落ちちゃったの!」
「はぁぁぁぁあっ? なにを言っているのウィッグラ? 敵なんてどこにいるのよっ?」
「そっそれが〜、そっそのぉ…」
「だからっ! 早く仰いっ!」
ついに15人揃った〈始原の理〉を持つ仲間たちは、お互いの近況を伝え合い、今はゆったり寛いでいた…。
「しっかし、このテント、スンゲェ快適だな! 自分の家にいるよりも快適だよ!」
「うんっうんっ! それに見て! このハンモック、どんなに揺らしても絶対に落ちないのよ!」
「お〜! いいなソレっ! 俺の無限巾着袋にも入ってるよな?……おっあった! 俺も使ってみよ!」
「………………ねぇ大吾ちゃん」
「ん〜? どうした、姫姫ちゃん…」
「確かに、ヒロシちゃんは敵の出方を見るまでは、のんびりしていようって、言ってたけど…、あまりにものんびりしすぎじゃない?」
「えっまずいのか?……でも、見てみろよ、言った本人が一番のんびりしてるぞ、だからいいんじゃないのか?」
「えっ? なっ! なんでヒロシちゃんはドラム缶風呂になんか浸かってるのよ!」
「ん〜っ? どうした女神ちゃん?…あっあぁ! 女神ちゃんも風呂に入りたいのかぁ〜?」
「いやっ入りたいけどっ! 今、こんなところで、のんびり風呂に浸かってて大丈夫なの?」
「あ〜っ! 大丈夫だぞ、ほらっ! ちゃんと水着、着てっから!」
「んっも〜! そういうことじゃないわよっ!」
「ハハハッ、冗談、冗談、女神ちゃんはこう言いたいんだろぉ? こんなところでのんびりしてて、敵が襲って来たらどうするのっ? ってな」
「そうよ!」
「大丈夫! 大丈夫! 敵なんか絶対に襲ってこないから〜」
「なんで、そんなこと言い切れるのよっ!」
「ほら、よく考えてみろよ、最初はたったふたりの小学生に、エルフの精鋭ふたりがあっさり負けちゃったんだろ?」
「うん…」
「んで、次に50人体制の弓隊も、あっさり制圧しちゃった」
「うん、そうよ…」
「そんで、最後は極めつけ、敵の幹部が率いる千人体制の弓隊とエルフの戦士たち50人を、たった3台のバイクと一匹のクマが、これまた、あっさりと制圧したんだろ? しかも、人質を立ててまで、していながら…」
「うん、そうね…」
「だろぉ?女神ちゃん、この今の敵の状態をね、世間一般では『万策尽きた』って言うんだよ」
「じゃっじゃあ、攻撃してこない敵は、次になにしてくるっていうのよ?」
「交渉だな」
「交渉ぉ? なんの?」
「う〜ん、そうだなぁ、敵の高飛車な態度からして、『ゴブリン50人を返すから、女神と女幹部を差し出しなさい!』ってところだろうなぁ」
「ねぇ、敵はバカなの?」
「ああ、かなり残念な人たちには変わりないだろうなぁ…」
〈あー、あー、本日は晴天なり、本日は晴天なり、ただいまマイクのテスト中、ただいまマイクのテスト中……〉
「おっ! 来たみたいだぞ」
「なんだか、楽しそうねぇ、ヒロシちゃん?」
「そんなことは無いぞ、ちゃんと真面目にやってるから、心配無用だぞ?」
〈異世界から来た強き者たちよ、聞こえるかしら?…私は誇り高きオルギウス王国、第一王女カトゥラ、妹のヅゥラーラに失礼があったようで、私はそのお詫びがしたいのと、あなたたちとの会話を望んでいるわ、聞こえているなら返事をしてくださるかしら?…〉
「なにしてんの? 返事しないの?」
「ああ、もうちょっと焦らしてからだな、そのうち化けの皮が剥がれるかもしれないだろ?」
〈もっもう一度言うわ、私は誇り高きオルギウス王国、第一王女カトゥラ、聞こえているなら返事をなさいっ、異世界から来た者たちっ!…………………どっどういうことよっ! 私は第一王女なのよ!…………………えっ? ええ! わかっているわ!〉
「あらら、もう化けの皮が剥がれたのね、間違いなくこの女も残念臭が漂ってるはずよ…」
「ああ、どうやらそのようだなぁ」
〈きっ! きぃぃ! なんなの! 私はあの誇り高き、オルギ…〉
〈あー、聞こえるか、返事が遅くなってすまない、俺が異世界から来たヤツらの代表だ、この国の偉い人が、いったい俺たちになんの用だ?〉
〈はっ……、そう、あなたが代表の方ね、妹が迷惑をかけたわ、ごめんなさいね〉
〈ああ、あの女子のお姉さんか、まぁコチラには全く被害がなかったからいいけど?〉
〈えっ? それじゃ、許してくれるのね?〉
〈ああ、大丈夫だ〉
〈そっそうなのね? それでは、私の妹を返して欲しいのだけど…〉
〈まぁ、それはいいけど、見返りになにをしてくれるんだ?〉
〈よく、聞いてくれたわ! コチラはゴブリン50人の返還を約束するわ!〉
「あらら? ゴブリン50人はヒロシちゃんの予想どうりだったけど、予想してた態度とはだいぶ違うわねぇ」
「ふ〜む、どうやら、大吾がつかまえた捕虜の妹ちゃんは、よっぽどこのお姉ちゃんから大事にされているか、もしくは…」
「もしくは?」
〈ちょっと、聞いてるの?〉
〈あぁ、すまない!聞こえてるよ、ゴブリン50人と交換だったな? だが、それは却下だなぁ…コチラの条件としてはゴブリン10,138人じゃ無いと、飲むわけにはいかねぇなぁ〉
〈いっ!10,138人?それなら、今コチラにいるゴブリン達、全員じゃない!〉
〈ダメなら、あんたと妹ちゃんの交換でもいいぜ〉
〈いっ嫌よっ!なんで私が、バカな妹の代わりにならなければならないのよ!〉
「ふ〜む…………」
「ちょっとヒロシちゃん、なにを考え込んでるの?」
「ああ、ちょっとな…」
〈そうかっ、それならしょうがねぇな、それじゃ俺たちはこのまま妹ちゃんを連れて、異世界まで一旦戻ることにしよう、おいっみんな! 一旦戻るぞ!〉
〈ちょっ!ちょっと待ちなさいっ! わかった! わかったわ! 連れて来たゴブリンたち全員返すから! だから、妹を連れて行かないでちょうだいっ!〉
〈その言葉に嘘はないな?〉
〈私はオルギウス王国の第一王女なのよ! 絶対に嘘などつかないわ!〉
〈まあ、もしも嘘なら、そのまま妹ちゃんを連れて異世界に戻るだけだがな〉
〈わかったわ! 絶対に約束は守るから、あなたたちも絶対に約束を守りなさいよ?〉
〈ああ、俺たちも約束は絶対に守る〉
〈それじゃ、ゴブリンたちの返還はどうすればいい? かなり大勢になるから、すぐには全員、集めることはできないわよ?〉
〈ああ、それもそうだなぁ、あっ、ちょっと待っててくれ〉
「なぁ、サキ、後10000人ほど、この無限巾着袋に、入るかなぁ?」
「ええ、大丈夫よ、16人の無限巾着袋(仮)に分散すれば余裕よ!」
「(仮)ってぇ…、わかった! ありがとよっ、サキ」
〈またせたな、それじゃ、三日間に分けて返還してくれるか? 最終日に全員、無事回収できたと確認したら、妹ちゃんは必ず返すから〉
〈ええ、でも最初と次の日の二日間とも、妹の安否がちゃんと確認できるところまで、連れて来なさいよ、近くでなくていいから〉
〈ああ、それも約束しよう〉
〈それで、ゴブリンたちの返還場所はどうするの?〉
〈う〜ん、そうだなぁ、確かあんた達が住んでいるのは、デッカいお城だったな?〉
〈ええそうよ…、あっダメよ! あんた達をお城の中に入れることはできないわ!〉
〈ああ、それは俺たちもわかってるよ、お城の中じゃなくて、お城の外だよ、もちろん外壁よりも外だな、どうせ、ゴブリン達は、一旦お城の中に待機させるんだろ? それなら、その方が手っ取り早く受け渡しできるだろ?〉
〈う〜ん…いいわ、それじゃ外壁の正面門の前に広場があるから、そこに来てちょうだい、時間は明日のお昼1時から、あっあなた達、時計は持っているわよね?〉
〈ああ、大丈夫だ〉
〈それじゃ、明日は遅れないように来てちょうだい〉
〈了解! それじゃお姫様、頼んだぜ〉
「ねぇヒロシちゃん、妹のヅゥラーラだっけ? あの子はあれほどまでに、女神である私にこだわってたのに、姉のカトゥラは、私のことひと言も口に出さなかったわねぇ、どうしてかしら?」
「ああ、おそらく妹ちゃんは、地球や異世界の終わり、つまり『生き物たちの破滅』には、女神ちゃんよりも、なくてはならない存在なんだろうな」
「なるほどねぇ、でも、そんな重要な子、敵に返しちゃってもよかったの?」
「ああ、まずはゴブリンたちを解放するのが最優先だからな」
「そうね、その通りよね! それにゴブリン達全員が解放されたら、もう人質を気にしなくてもよくなるしね!」
「それで、ヒロシ、オマエ明日からのゴブリンたちの引き取りの時、なにかやらかそうと企んでるんじゃないのか?」
「企むに決まってんじゃんっ裕太くん! 明日からみんなにも働きまくってもらうぜっ!」
「おうっ! 任せとけ!んで、なにをするんだ?」
「まずは下見からだな」
「おーっいいねぇ! 詳しく聞かせろよ!」
「よーし、それじゃみんな聞いてくれ、まず俺たちはだなぁ…………………」
翌日、約束通り、連れ去れたゴブリンの子どもたちの返還が始まった。
エルフの城から、ゴブリンの子どもたちが、列を乱すことなくゾロゾロとコチラの方に歩いてくる。
ゴブリンたちは僕たちの顔をみて、安堵の表情を浮かべて、とても嬉しそうにしている。
どうやら僕たちが日本人だということがわかったのだろう、日本人だとわかって安心してくれるのが、とても誇らしく嬉しい気持ちになる。
解放されたゴブリンの数人に、連れ去られてから、その後のどう過ごしたかなどの聞き取りを行ったが、全員がその当時のことは全く思い出せないようだった。
おそらく、エルフたちの強い洗脳が解けたと同時に、その当時の記憶も消えてしまったのだろう。まぁ、辛い記憶が残らなかったのは、ゴブリン達にとってはよかったことだったと思う。
順調にゴブリンたちの返還が進んでいくなか、その頃、僕たちの別働隊がエルフの城の中に忍び込んでいた。
「雄二、まずは最上階から調べていこうと思うんだが、どうだ?」
「うん、そうだね、上の階にいくほど人の気配が少なくなっているから、その方がいいかもしれないね」
「そうか、それにして、オマエのその危険察知能力って、すごく便利だよな」
「うん、でも、裕太くんの触れるだけで、そのものの構造が手に取るようにわかるっていう能力も、羨ましいと思うよ」
「いや、でも、この能力のおかげで、休みの度に、サチコとサキに引っ張り出されて、あれ調べろ、これ調べろって、こき使われるんだぜぇ、プライベートなんてあったもんじゃないんだぞ」
「ハハッ、そうだね、研究者や発明家が、その能力をほっとくわけないもんねっ…んっ、誰か来るよ、そのドアの向こうの廊下の右側から、距離は約12メートル」
「そうか、それじゃ、そこの物陰に隠れよう」
ギィィィィ、バタン
「ユタちゃんとユウちゃん、いるんでしょ? オイラっすよ、ピロッシっス」
「ピロッシ? よかった! 無事だったんだね?」
「ああ、心配したぜぇ」
「うん、オイラは元気っすよ、心配かけてゴメンっス」
「ああ、本当に元気そうだね!」
「ところで、なんで俺たちのことがわかったんだ?」
「声っすよ、オイラ1階の広間にいたんっスけど、上からユタちゃんとユウちゃんの声が聞こえたから」
「えっ? 僕たち今、4階にいるよね? 1階から、小声で話している僕たちの声が聞こえたの?」
「そうっス、なんでだかわかんないっスけど、ここに連れてこられる少し前から、人の声だけは、かなりの広範囲でも聞き取れるようになってたんスよ」
「ふ〜ん、多分[言霊使い]の能力なんだろうな…ところでピロッシ、オマエこんなところまで来て、大丈夫なのか?」
「大丈夫っスよ、今、下はゴブリンの子どもたちの解放で、上へ下への大混乱中っスからね、ところでオイラ、これをふたりに渡そうと思って」
「んっ? 紙束? なんだいこれ?」
「このお城の5階から地下1階までの、間取り図っスよ」
「おお!助かるぜっ、んっ? この星印と丸印はなんだ?」
「星印が、オイラはまだ会ったことは無いんっスけど、始祖様っていうボスの部屋っスね、オイラが知る限り、始祖様はその部屋から出たことがないから、その部屋には入らな方がいいと思うっス…それで地下1階の丸印の部屋は、謎の部屋っスね」
「謎の部屋?」
「そうっス、その部屋からは、かなり小さな声が聞こえてくるんっスけど、厳重に鍵がかかってて、中に入れなかったんっスよ、しかも、その部屋、見た感じ何年もドアが開かれた形跡がなかったんっスよ」
「何年も開かれていないドアの向こうから、声が聞こえてくるねぇ…確かに謎の部屋だな、う〜ん、それは、少々危険を冒してでも、調べる必要があるかもしれないなぁ…」
「それで、その小さな声はピロッシでも解読できない声だったの?」
「はいっス、こんな経験初めてだったんで、それで丸印をつけておいたっス」
「そうかぁ、ピロッシでも聞き取れない謎の声かぁ…ところでピロッシ、オマエもここから解放されるんだろ?」
「そうっス、でもオイラは最終日の最後の方だと思うっスよ」
「それじゃ、最終日にはまた…ちょっと待って? そういえばオマエ、エルフたちの洗脳にかかってないようだな?」
「う〜ん、そうなんスよぉ、なんでかわからないけど…、でもオイラ洗脳されたふりして、その場をごまかしているっス」
「そうか、バレないように気をつけろよ、じゃあ最終日に、また会おうな」
「うん、最後まで気を抜いちゃダメだよ」
「はいっス、それじゃ、ふたりとも気をつけて…」
「いやぁ〜ピロッシが元気でいてくれて、よかったな」
「そうだ、無線でみんなに知らせてあげよう……みんな聞こえるかい? ピロッシは無事だったよ、詳細は帰って知らせるね」
「ハハハッ、みんなの喜ぶ顔が目に浮かぶな」
「うん、そうだね、ピロッシのおかげで、この城の間取り図も手に入っちゃったから、僕らの目的の半分以上は終わっちゃったけど、残りの仕事も頑張って終わらせることにしよう」
「ところで、この階段を上がれば、例のボス部屋があるけど、オマエの危険察知はどう出てる?」
「うん、もう一度調べてみるよ…………………っ!」
「どうしたっ?」
「いやぁ、ピロッシにあらかじめ聞いておいてよかったよ…、どうやら上の階は行かない方がいいかもしれない」
「なにか、あるのか?」
「うん、凄い結界が張ってあったよ、それも二世のおじさんが張る結界以上の結界がね、僕はここまで凄い結界を見たのは初めてだよ…」
「そうか、それでどんな結界なんだ?」
「それが、かなり複雑で幾重にも重ねられているから、ひとつひとつの意味まではわからないけど、その結界達を見てハッキリ言えることは、上の階のボス部屋の中には、とんでもなく危険な物が置いてあるってことだね」
「んっ? なんでひとつひとつは、わからないのにそう言い切れる?」
「う〜ん、そうだなぁ、あまり意味のない結界を複雑に絡み合わせた暗号結界とでも言うべきかなぁ」
「暗号結界?」
「うん、結界って上手くやれば、破ることだってできるじゃない?」
「ああ、そうだな、現に二世のおっちゃんの、ゲート不正使用を阻止する結界も、エルフ達に破られているわけだしな」
「うん、それで上に張ってある結界はね、破られないことを大前提とした、かなり複雑で繊細な結界が張ってあるんだ、それも、どういうわけか、外界からの影響を一切受けないだとかの、まるで、もの凄い危険物を扱うような、慎重に慎重を重ねて考えられた結界がね」
「なるほど、そういうことか…それなら、雄二の言う通り、これ以上、上には進まない方が良さそうだなぁ」
「うん、5階は諦めよう、もしもボスに鉢合わせになったりしたら、どう言う状況になるか、全く読めないからね…」
「と、言うわけで、みんなにはすまないが、5階だけは手付かずのままなんだ…」
「いや、その判断は正しかったと思うぞ」
「そうね、ゴブリン達の解放がすべて終わるまでは下手なことはすべきじゃないわ、5階はかなり危険だってことが、わかっただけでも上出来だと思うわよ」
ゴブリンたちの解放初日は、予定通り滞りなく終わり、僕たちはキャンプ地に戻っていた、そして今は偵察組ふたりの報告を聞いている。
「それじゃあ、ピロッシが言っていた、『謎の部屋』はどうだったの? 無事に行くことは出来た?」
「ああ、ピロッシが1階で待っててくれてな、ピロッシの案内で誰にも見つからないように、たどり着くことができたよ」
「ふん、ふん、それで謎の部屋には入ることが出来たの?」
「ああ、バッチリだ! そこで、面白いものも見つけたしな」
「なになに! その面白いものって?」
「うん、古代のものと思われる石柱を見つけたよ、まあ、エジプトで発見されたロゼッタストーンみたいなものだね」
「ロゼッタストーン知ってるぞ、たしか、昔のことが書き刻まれた、石碑のようなものだろ?…てぇことは、その石になにか文字が刻まれていたのか?」
「ああ、文字らしきものが刻まれていたが、あのピロッシですら、すぐには解読できなくってなぁ、でも、ピロッシが言うには、今まで聞こえてきた謎の声は、間違いなく、その石から聞こえてくるって言っていたぞ、俺たちには全く聞こえなかったけどな」
「ふ〜ん、なんなんだろうねぇその石…すごく興味がわくわね」
「ああ、それなら持ってきたぞ、その石」
「え!ほんと? 見せて、見せて!」
「ほらっ」
ドォ〜ンっ
「うわぁ、ホントだ! でも思ったより大きくはないわねぇ…うんっすっごく細かい文字が刻まれているのね、これを解読できれば、もしかするとエルフにまつわる歴史が紐解かれるかもしれないわねぇ」
「ああ、おそらくエルフたちの祖先が書き刻んだものだと推測できるからな」
「じゃあ、文字の解読は、ピロッシが解放されてからのお楽しみだな!」
「ああ、楽しみだ! それで、他には目新しい情報はないのか?」
「それが、あったんだよ! とびきり僕たちに役立つ情報がね」
「そうなのかっ! 流石は俺たちの二大賢者だな、それでその情報ってなんだ?」
「ああ、それがな……………………………………」
「えぇぇぇ! その話し、本当なの?」
「ああ、間違いない!俺は虱潰しに、辺りをさぐりまくったし、雄二には何度も危険察知を使って調べてもらったけど、どこにも見つからなかったからな」
「ねぇねぇ、私、エルフ達に出会ってからずっと思ってたんだけど…エルフってバカなの?」
「ああ、姫姫ちゃんが思っていた通りの、実に残念な種族なんだろうな…」
「ハハハハッ、裕太くん、雄二、ありがとな!その情報のおかげで、今後のヤツら出方が見えたよ…」
「ああそうだな、ヒロシ、それだけの武器を隠し持ってたんだ、ヤツらは必ず最終日に仕掛けてくるつもりだな」
「ああ、間違いないだろうな」
「えっ? でも大吾くん、それなら、妹のヅゥラーラが捕まった時、なんですぐに仕掛けてこなかったの? そのエルフの攻撃がうまくいっていたなら、今回のゴブリン解放はしなくて済んだのに」
「だって、あいつらは俺たちがどこにいるのかも知らなかったんだぞ、俺たちを捜索しているうちに、また全滅させらるかもしれない、そうなれば貴重な武器も失うことになる、だから動かなかった。…でも今回は違う」
「そうか! 今回はゴブリン達を保護しなければならないから、僕らはヤツらの前に姿を現さなければならないもんね、しかも城から狙い撃ちしやすい、広場の前で」
「そういうことだな」
「ところで、サキ、こちらからの異世界への帰り道はまだできそうにないのか?」
「ええ、ヒロシ先輩、こちらに持ってきた機器では、あと5日はかかると思うわ」
「それじゃ、異世界からの援軍は、あとどれぐらいで来れると思う?」
「そうねぇ、私たちみたいに少人数ならすぐに来れると思うけど、援軍となれば、それなりの人数になるでしょ? だからあと10日はかかると思うわ」
「だそうだ、大吾、そうなるとここは俺たちだけで、エルフの城を落とすしかないと思うんだが」
「ああ、そうだな、ヤツらが仕掛けてこなければ、このまま援軍を待ってもいいかなって思っていたんだが…」
「そうね、ヤツらに時間を与えない方が良さそうね、性懲りも無く、異世界からゴブリン達を攫ってくるかもしれないし、またなにか企んでこられても、面倒なことになりそうだし」
「よしっ! それじゃこれから最後の作戦会議だ、これで終わりにさせよう!」
「おうっ! まかせろ大吾、これで最後にしようぜ! ところで何か策はあるのか、ヒロシ?」
「そうだなぁ、次はヤツらも総力戦で襲ってくるだろうから、こっちも総力戦で迎え撃つ、まあ、基本はシンプルにヒットアンドアウエイって感じかな」
「ほうっ、珍しく正攻法なんだな、俺はまた、別働隊なんかを作って奇襲攻撃でもするのかと思ったが」
「いや、今回はそれはしないほうがいいだろう」
「なんでだ、大吾?」
「こちらが、全員揃ってないと、向こうは武器の出し惜しみをするかもしれないだろ? 今回の裕太くんと雄二の不在は人質の引き取りだけだったから、デコイ人形でなんとか誤魔化せたが、いざ戦闘となるとそういうわけにはいかないからな。次の戦闘では、俺たち全員攻撃で、ヤツらの武器を全て吐き出させるんだ」
「なるほどなっ!」
「それじゃ、まずはみんなの配置から言うぞ、前衛はヨコ、ムラ、コレの三人衆、お前達の役目はわかっているな?」
「ああ、もちろん!」
「俺たちの大盾で、敵の攻撃は全部防いでやるよ!」
「もの凄い殺気でサポートもできるしな!」
「ああ、頼んだぞ、次は後衛の遠距離攻撃隊、雄二、塩谷、サキの3人、お前達も大丈夫だな?」
「うん、僕は主に敵の防衛施設の破壊だね」
「雄二の大弓は破壊力抜群だもんね、それで僕は敵の制圧だな」
「そして、私は敵の武器の破壊ね」
「そうだ、今、言った6人が今回の戦いのメインとなる、ほかのヤツらは遊撃にまわってもらう、大吾、美羽、俺が敵を引きつける陽動にまわり。裕太くん、美奈、大谷は敵にスキが生じたら接近戦で撹乱、サチコはチーム全体のサポートだ、サチコ、例の植物達は持ってきてるんだろ?」
「ええ、大丈夫、みんな元気にしてるわよ」
「おっ、またあいつらを拝めるんだな、それは楽しみだっ!」
「えっと、僕たち兄弟の配置はどうなるの?」
「ああ、お前達は俺たちの最後尾で待機組だ」
「えぇぇぇっ! 僕らもちゃんと戦えるよ?」
「仁業、俺たちが戦いに加わったら、いったい誰が姫姫を守るんだ?」
「あっそうかっ! ごめんっ! 壱剛、姫姫ちゃん、なんだか僕、張り切りすぎてたよ」
「いいえ、いいのよ、それよりも私、足手纏いになってごめんね」
「それはどうかな姫姫ちゃん、俺はこの戦いの大詰めで、姫姫ちゃんの力を必要とする時が、必ずくると思っているぞ」
「大吾ちゃん、それホント?」
「ああ、俺はあのエルフの城から、神がかり的な、なにかの力を感じるんだ、その力に対抗すためには、女神である姫姫ちゃんの力は、無くてははならないものになる…そんな気がしてならないんだ」
「聞いたか、仁業? どうやら、俺たちが姫姫を守り抜くことも、今度の戦いの一部となるらしいぜ」
「うんっ! そうだねっ、姫姫ちゃんのことは、僕ら兄弟が必ず守ってみせるから、みんなは安心して、戦いに集中してほしい!」
「よく言ったぜ、仁業!」
「壱剛も、姫姫ちゃんのことは任せたぜ!」
「ああっまかせろっ!」
その後、僕たちは2日後に仕掛けてくるだろう、エルフ達の迎撃作戦会議を夜遅くまでおこなった。
途中で、小学生トリオはもう寝ろと、言われると思ったが、予想に反して最後まで僕たちの参加を許してくれた。
みんな、きっと、この最後の戦いが、そんなに生やさしいものではないと感じているのだろう。僕は身が引き締まる思いがした。
だけど、大丈夫だ! この仲間達ならどんな困難が待ち構えていようと、絶対に乗り切れる!
そう思うと、なんだかその通りになるような気がして、安心した僕は床についた途端に深い眠りに落ちた………。