【第十二話】小さき女神の不安
「そう……[不動]の登場で、〈始原の理〉たちの中から反乱を起こしてしまう理が出てしまうの…」
「どういうこと?」
「さっきも話した通り、[不動]の理は〈始原の理〉たちをまとめる役目があったの、それで2月から11月までの過程を、あらゆる生き物たちが、種を存続させるためのひつのサイクルとして法則化しようとしたのね」
「2月から11月?…それって1月の理[混沌]が入ってないんじゃない?」
「ええそうなの、[不動]の理は、その法則の中に[混沌]を加えなかった、なぜなら、今まで順調に成長してきた生き物たちが、再び[混沌]のサイクルに入ったときに、どのような状態になるかわからないから、もしかしたら消滅してしまう可能性だってあるでしょ?」
「う〜ん、なるほどなぁ、確かに[不動]の判断は頷けるなぁ…」
「それでね、それに怒った[混沌]は力で[不動]をねじ伏せて、自分もサイクルに入れるように画策したの」
「そうか、それが姫姫ちゃんのいう反乱なのね」
「そう、そしてある時[混沌]は、[不動]の不意をついてを襲うのだけど、その時、近くにいた[版図]が[不動]を庇って[混沌]の襲撃をまともに受けて三つに割れてしまい、加勢に入った[研鑽]と[創造]は消滅の危機まで追い込まれてしまうの」
「うわぁ〜、[混沌]は派手にやらかしたんだなぁ」
「そう、反乱の張本人の[混沌]は、ちょっと[不動]を脅すだけで済ませるつもりだったみたいで、まさかここまで大事になるとは思ってなくてね、その惨状に大いに反省したわ。そして、ひどく心を痛めた[混沌]は、自分自身をふたつに割って、[研鑽]と[創造]に自分の存在ごと与えて、消滅を防ごうとしたの。自らの消滅も顧みずにね…。結果[研鑽]と[創造]は消滅を間逃れることになるのだけど…」
「そう聞くと、[混沌]は根っからの悪ではなかったことがわかるな」
「そうよっ! だって考えても見て、そもそも生き物を生み出したのは[混沌]だったのでしょ? それって、生き物たちの産みの親ってことよね?」
「オマエの言いたいことはわかるぞ美奈、[不動]の決めた法則に入れないってことは、自分の子どもの成長にまったく関われないってことだもんな」
「そうだな…[混沌]のやったことは賛同できないけど、その気持ちは充分に理解できるよなぁ…」
「そう、今みんなが[混沌]に同情したように、[不動]や他の理たちも[混沌]に甚く同情してね、[不動]は、消滅しかかった[混沌]に、自分が持っていた[矛]と[盾]を授けて、なんとか[混沌]の消滅を防ごうとしたわ」
「えっ? なんで[矛]と[盾]なの? それで消滅を防げるの?」
「ええ、[不動]が持っていた[矛]はどんなものでも貫ける[矛]、そして[盾]の方は、どんな武器でも防ぎきる[盾]だったの」
「なんだか、どっかで聞いたような話だな…」
「フフフッそうね…、[不動]は、ふたつに割れた[混沌]の片割れのひとつに[矛]、もうひとつに[盾]を授けて、お互いに[矛]と[盾]をぶつけ合わすように指示したのね、それで、ふたつの片割れたちは、[不動]に言われた通りに、お互いの[矛]と[盾]をぶつけ合わせたわ、それで何度もぶつけ合わせているうちに、次第にふたつの片割れたちの消滅がおさまり始めていったの」
「んんっ? もしかして、[不動]は[矛]と[盾]をぶつけ合わさせることで、ありえない状況を起こさせて、消滅をあり得ないこと、つまり無かったことにしたのか?」
「多分そうだと思う……。それで[不動]と他の理たちは、元々[混沌]だった、ふたつの片割れたちを、改めてふたつでひとつの理[矛盾]として、サイクルの中に迎え入れたの」
「へぇ〜、なんだか、めでたし、めでたし的な結末だな」
「なるほど、それで、壱剛が持っているのは[矛]、仁業が持っているのが[盾]で、ふたつ合わせて〈始原の理〉[矛盾]になるってわけなんだ」
「そうよ」
「ふむふむ、なんだか見えてきたぞ、てぇことは、残りの俺たち三人の理は、元々[版図]だった三つに割れた片割れたちってことになるんじゃないのか?」
「その通りよ、三人衆ちゃん!」
「おい、おい、小さい女神さんまで、俺たちのことを3人1パックみたいに言うんだな…。まあ、いいけど…」
「あらっ? 違うの?」
「いやっまあ、そうなんだけどさぁ…」
「フフフッ…、今ヨコちゃんが言ったように、三つに割れた[版図]の片割れたちは、[不動]からそれぞれ[阿][修][羅]の力を与えられて、三つでひとつの〈始原の理〉[阿修羅]となったわ、この理はね、主に『守護』を司るわ」
「おおっ!なんだかカッコいいじゃねぇか! なぁコレ、ムラ?」
「ああ、想像していたものより、ずっといいぞ!」
「なぁ、確か[阿修羅]って三面六臂の戦いの神様だったよな?」
「ええ、ムラちゃんがいうように、仏教の守護神としても有名だけど、それと同一かどうかはわからないわ、でもなんらかの形で関係しているんじゃ無いのかしら?」
「へぇ〜、で、三つのうち、誰がどの理を持ってんの?」
「えっとね〜まず[阿]の理はヨコちゃんね、どんな理かというと、主に『媚びへつらい』を司っていてね、相手を屈服させる力を持っているわ」
「ブハッ! 中学の頃のオマエそのものじゃねぇかっ」
「くぅぅっ! なにも言い返せねぇ…」
「次に[修]の理はムラちゃんよ、主に『かざる』を司っていてね、意味は自らを強く、大きく見せたりする力を持っているわ」
「なるほど、修飾の方の[修]ね、確かにムラって見た目怖いもんなぁ」
「そうなんだよ! 本当は俺、結構やさしいんだぜ!」
「フフッ、それから最後の[羅]の理はコレちゃんで、主に『捕獲網』を司っていてね、要は猟なんかに使う網のことね、敵を捕らえて味方の戦況を良くする力を持っているわ」
「ああっ思い出した! 中学の頃、他校のヤツらと揉めると、オマエ、ヒロシから他校のひとりを引っ捕まえて情報を聞き出してこい、とかなんとか言われて、いいように使われていたもんなぁ」
「ああ、そうだった、確かにいつもヒロシに上手く乗せられて、いいように使われていたような気がする…」
「おいっおい! 人聞きの悪いこと言うなよ! 俺はただ自校の生徒を守るためにだなぁ……」
「はい、はい…、でもそこの双子の[矛盾]と同じように、[阿修羅]の理もオマエたち三人にしっくりくるよなぁ。もしかしてオマエたち三人は前世で三つ子だったりして?」
「ああ…それなぁ、それは前世じゃなくて、今世で俺たち三つ子だからだな」
「はいぃぃっ? いまなんてぇっ?」
「いやぁ〜、別に隠してたわけじゃないんだ、ただ言う機会が無かっただけで…、それに俺たちが三つ子って知ったところで、みんな別になにも変わらないだろぉ?」
「まあ、知ったところで、今までと変わるかって聞かれると、いいんやって答えるしかないけど…、でもびっくりしたよ!だって顔もそんなに似てないし、苗字だって違うだろ?」
「ああ、それは俺たち三卵性の三つ子? って言うのか? それなんだ。苗字が違うのは、俺たちが児童施設にいた頃、小学校に上がる前に、横山、是永、河村の三家から、それぞれ引き取られたからだよ」
「そうだったのかぁ〜いやぁ〜本当に驚いた! きっとこの場にいない大吾に後で聞かせたら、きっと目を丸くして驚くぜ!」
「いやっ大吾はもう知ってるぞ」
「嘘っ? なんで大吾先輩知ってるの?」
「随分前だけど、一度大吾に、オマエたちは三つ子なのか? って真顔で聞かれてな、それで…」
「普段はボォ〜っとしてるのに、こんなところは鋭いのよねぇ〜大吾先輩」
「ボォ〜っとは余計よ! でもそうねぇ〜、お兄ちゃんはなんだかんだ言って、人の本質みたいなもの? そんなのによく気がつくのよねぇ〜」
「ああ〜、確かにそんなところあるよなぁ……、あっ、そうそう、ちなみに、俺たちのいた児童施設は姫姫ちゃんと同じだよ」
「あらっ! そうなの、三ちゃんたちって、私の先輩だったのね!」
「おいおい…とうとう『人衆』まで端折られちゃったよ……」
「フフフッ、それじゃ、これで15の〈始原の理〉の説明はすべて終わったと思うけど、みんななにか質問はある?」
「う〜ん…それじゃ聞くけど、姫姫ちゃん、そもそも『理』ってなんなの?」
「うん、僕もそれが知りたいな、僕は『理』って聞くと、真理だとか、ありようだとかの、物事の決まりや、ただの現象みたいなものを連想していたんだけど、姫姫ちゃんの話を聞いていると、どうやら『理』にも人格があるよね?」
「…そうね…その質問には、ちゃんと答えないといけないわね……。うん、雄二ちゃんが言うように、『理』にはちゃんとした人格があるの…もっとわかりやすく言うと、『理』とは人間や魔物の言うところの『神』のことなの……」
「神様…かぁ。うん、それなら合点がいくなぁ……」
「ねぇ、陛下のおじさん、おじさんのお父さん、青鬼のおじちゃんは異世界の神様だったのよね、なんの理の神様だったのかわかる?」
「ああ、そうだな、確かぁ…[重力]の理だと、聞いた記憶があるなぁ」
「てっいうことはぁ、女神である姫姫ちゃんも、なにかの『理』なの?」
「………そっそれはね……私の理はね………」
「どうしたんだ? 女神ちゃん、なんだか言い辛そうにしてるけど…」
「そっそれが………。ごっごめんないさい!私は[終わり]の理なの!…本当に、本当にごめんなさい…うっうううっ」
「えっとぉ〜、なんで姫姫が謝るの……?」
「そうだよね、なんで? 姫姫ちゃん?」
「えっ? みんな、私は[終わり]の理なのよ! 私がこの宇宙に舞い込んできてしまったばっかりに、この宇宙の全ての生き物たちの[終わり]が来てしまうかもしれないのよっ?」
「はぁ、なるほどねっ! 女神ちゃんはそんなことを気にしていたんだ、どおりでこの会議が始まったころから、あまり元気がないなぁって思ってたよ…」
「ああ、確かに元気がなかったなぁ…、じゃあ姫姫ちゃんに聞くけど、姫姫ちゃんは『生き物たちの破滅』が来て、この宇宙の全ての生き物が終わってしまえばいいと思ってるの?」
「いいえっ! 塩谷先生っ、そんなこと絶対に思わないわっ!…私は…私は…この宇宙が大好きなの! この異世界が、この地球が大切で大切でたまらないの!『生き物たちの破滅』なんて、とっとと終息させて、地球のみんなや異世界のみんなで笑って過ごせる平和な世の中がやってくるのを心から望んでいるわ!」
「じゃぁ、大丈夫なんじゃないのか?」
「えっ? なんで…なんでそう思うの…?」
「だって、姫姫ちゃん今ハッキリと言ったじゃないっ!」
「ああ、そうだな、確かにハッキリ言い切ったなっ!(『生き物たちの破滅』なんて、とっとと終息させて)ってなっ!」
「そう、今、姫姫ちゃんが言った、《終息》ていうのも、[終わり]って意味じゃない? 違う?」
「っ!……うっううっ……そうです……同じです…同じ[終わり]という意味です……うっうわ〜ん!」
「ちょっと!ちょっと! 先輩たち! なに姫姫ちゃんを泣かせてんのよっ!」
「そうよ! 姫姫ちゃんは私たちの大切な妹分なのよ!」
「そうね、泣かせるなんて許せないわ」
「姫姫ちゃん、もう泣かなくていいのよ、あなたの心強いお姉ちゃんたちが来たからね! もう大丈夫!」
「いやいや! ちょっと待ってくれ! 俺たちは別に…なぁ、雄二?」
「えっ? うんっ…でも…ごめんないさいっ!」
「グスンっ…フフフフフッ…ありがとうお姉ちゃんたち…私元気が出てきたわ!」
「フフフッ、それは良かった!」
「また、お兄ちゃんたちに意地悪されたら、すぐに私たちを呼ぶのよ!」
「うんっ!!」
「それじゃ皇帝さん、姫姫ちゃんの元気が戻ったことだし、私たちの話し合いは以上よ」
「ハハハハッ、あいわかった! 心強い[終わり]の女神が味方に加わったと言うことで、私も元気が出てきたぞ! それでは、其の方ら〈始原の理〉の使い15名は、我ら異世界の民に手を貸してくれるということで、良いのだな?」
「おうっ! もちろんさっ!」
「うん! まずは誘拐された、すべての子どもたちを取り戻すわよ!」
「「「「「「オーーォッ!」」」」」」
「うむっ、其の方らに感謝する! でっ、其の方らに私と不殺から渡したいものがあるのだが…」
「なにか戴けるの? 嬉しい! なに?」
「それでは、まず私から、すでに壱剛と仁業には渡してあるのだがな、この巾着袋を渡すとしよう。もちろん小さき女神にも用意してある、受け取ってくれ」
「えっ私にも? ありがとう! 陛下」
「あっ! 確かに壱剛と仁業が持っていたヤツと同じだなぁ、みんな、コレってすごいんだぞ!」
「ヒロシ、コレじゃねぇよ! 無限巾着袋な!」
「無限巾着袋ぉ〜? 壱剛、私たちはそんな命名したつもりはないんだけどぉ?」
「ああ、この巾着袋は、やっぱりサキちゃんが発明したものなんだね!」
「えっとぉ、すべて私が発明したわけじゃなくって、異世界の魔術研究者と合同開発したんだけどね…。まあ、今はその話じゃなくて、なんで無限巾着袋なの? 確かに、驚くほど物が収納できるけど、無限ではないのよ」
「じゃあ、正式名称はなんて言うんだよ?」
「いいわ、よく聞いててね、この巾着袋の正式名称はね、〈ゲート次元空間方式空間有限拡張収納入出思念型巾着袋〉よ!」
「なっが〜い! 長い!長い! どこの早口言葉だよ? それじゃ覚えきれないよ! それに堅苦しい!」
「ええっ? だって、これを持った人にこの巾着袋のこと、正確に伝えないといけないじゃない?」
「まぁまぁ、無限っていうのはノリだよ、ノリ。それに俺たちこれから戦いにいくわけだろ? その戦いの最中に〈ゲート次元空間なんちゃらなんちゃらなんちゃら型巾着袋〉から〇〇を取り出して! なんて言ってたら、その間に何発も攻撃くらっちゃうかもしれないだろぉ?」
「う〜ん、それもそうねぇ〜わかった! それじゃ正式名称は後で考え直すとして、今回、私たちのあいだだけなら、〈無限巾着袋〉でいいことにするわ」
「よしっ! そう来なくっちゃ!」
「ハハハッ、それじゃ名称の件は解決したようだな、それでは次に行っても良いかな?」
「はっ! 陛下! すみませんっ!」
「良い、良い、壱剛、気にするな。それでは〈無限巾着袋〉の使い方は後回しにして、次に不殺から渡すものについてだな、それでは、不殺、説明を任せるぞ」
「はっ陛下! 畏まりました」
「ねぇ仁業」
「ん? なに?」
「壱剛って皇帝陛下とお話しする時だけ良い子になるのね」
「ハハッそうだね」
「んんっ、それでは我が弟子たちよ、ワシからはオマエたちが最も得意とする武具を授けるとする!」
「やったー! ねぇねぇ師匠? それってもしかして不殺の力が備わってる?」
「ああ、美奈よ、もちろん備わっておるぞ、それにサキに開発を手助けしてもらっているからな、オマエたち日本人の手によく馴染むものになっているぞ」
「そうなの? サキ先輩もありがとう!」
「いいえ、どういたしまして!」
「で、師匠、その武具はどこにあるんだ?」
「フフフッ、ムラよ、そう慌てるな、オマエたちが今手にしている、その巾着袋にすでに収まっておるぞ」
「おおっ! そうなんだっ」
「ねぇ、ねぇ、 仁業。もしかして、〈始原の理〉を持つ15人全員、ドニー・師匠のお弟子さんなの?」
「ああっ、そうだよ、僕たちの仲間はみんな師匠の弟子だよ。それで15人それぞれ得意な武器が違っててね、さっきのムラくんたち三人衆のみんななんかは盾術が得意でね、きっと、師匠からもらった武具は大盾だと思うよ」
「へっ? ドニー師匠って槍の達人じゃなかった? 盾術も教えてるの?」
「ああ、それね、みんなからはよく誤解されているようだけど、師匠は武芸百般、あらゆる武器に精通しているんだよ、なんで、槍術だけが有名かというとね、師匠いわく、槍がいちばん戦う相手に手加減しやすいからだって言うんだよ、それで槍ばかりを重用しているうちに、みんなのイメージが槍で固定されていったんだろうね」
「へぇ〜」
「それでは、オマエたちにその巾着袋と、授けた武具の説明を始めるわけだが、そこな小学生トリオは、もう下がって休みなさい。聞いておるぞ、オマエたちは昨日から一睡もしてないとな」
「ええっ〜! 師匠! そんなぁ、俺もみんなの武具が気になるよっ!」
「ふむ、オマエの気持ちもわかるが、今はまだ昼前、また夜に眠れぬことにならないように夕方近くには起こしてやるから、武具のことは一眠りして、後からみなに聞けば良いではないか?…それに見てみろ小さき女神の顔を、すでに解決したとはいえ、今まで自分の胸の内に抱えていた不安で疲れ切っておるではないか…」
「えっ? いいのよ壱剛、私は大丈夫よ」
「……ごめん、姫姫、俺、自分のことばかり考えてた…ここは素直に師匠の言うことを聞くよ…」
「うん! そうだね、正直、僕もクタクタだよ、さっ姫姫ちゃんも休ませてもらお?」
「わかった、それじゃ、皇帝陛下、ドニー・リー師匠、宰相さん、それからお姉ちゃん、お兄ちゃんたち、私の不安を取り除いてくれて、本当にありがとう! じゃっおやすみなさい!」
「「「「「ああっおやすみ!」」」」」
そして僕たち3人は、とても広々とした客間に案内される。
部屋に入るといきなり広々としたリビングが現れ、その両脇にはふたつのドアがあり、そこが寝室だと気づく。
ひとつの部屋はシングルで、ここが姫姫ちゃんの寝室になるのだろう、そして残りの部屋はツインになっていた、なるほど、ここが僕たちの兄弟の寝室だな。
僕たちにこの部屋をあてがったのは、姫姫ちゃんをひとりっきりで不安にならないようにした配慮だろう、流石は宰相さんだと、つくづく関心する。
姫姫ちゃんが少しだけ、僕らと話したいと言うので、今はリビング中央に鎮座していた大きくてフカフカなソファーに座って、姫姫ちゃんの話を聞いている。
「あのね、実を言うと私、今までずっと不安で不安でたまらなかったの…。はじめてこの宇宙に来た時はちょっとした好奇心からだったんだけど、今ではこの宇宙が私の故郷なんだって思えて、どうしても自分が生まれた宇宙には帰りたくないって思うようになってたの…」
「うん、うん、ずっとこの宇宙にいればいいさ」
「ありがとう…でね…ある時ふと…なんの根拠もないのだけど『生き物たちの破滅』が近づいているって気がついたの…、私は[終わり]の理…私がこの宇宙に来たせいで、『生き物たちの破滅』を呼び寄せてしまった。その時そう思ってしまったの…」
「そうかぁ…」
「それで私の宝物の『キャンあん』に塩谷先生の予言めいたことが書かれていたことに思い至ってね、みんなの迷惑を考えずに、ただただ、自分がこの宇宙に居続けたいがために、あんなクーデターなんてバカな行動を起こしたの…」
「ハハハッ、確かにはじめはバカな行動だったけど、でも今のこの状況を考えてみろよ、オマエがそのバカな行動を起こさなかったら、立花のおっちゃんが総理になることもなく、悪政とまでは言わないけど、国民たちがずっと我慢を強いられる国が続いていたんだぜ! それにっ、なっ仁業」
「うん! 僕たちとも出会うことはなかった…、それは、いざ『生き物たちの破滅』が起こった時に、15の〈始原の理〉がすべて揃うことなく敗北していた可能性だって充分にかんがえられるでしょ…? だから僕はこう思うんだ、姫姫ちゃんは、この宇宙の終わりを導く女神なんかじゃ決して無くって、逆に『生き物たちの破滅』を終わりにさせるために、助けに来てくれた女神なんだ!ってね」
「うんっうんっ! ありがとうっ! 私もみんなと話しているうちに、そうなりたいっ!って強く思うようになったわ! 壱剛! 仁業! ほんと〜うにありがとねっ!」
「「どういたしましてっ!」」
「よしっ! それじゃ、とっとと寝るとするか!」
「うんそうだね! 確か夕方から陛下がターバンの取り調べをするって言ってたから、寝坊しないで起きなくちゃいけないしね!」
「ああっ! そうだったな、それじゃ姫姫また後でな! おやすみ」
「うんっおやすみ、仁業もおやすみ」
「うん、ゆっくり休んでね、おやすみ」
こうして、この後、僕はベッドに潜り込んだ途端に深い眠りについた……。