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【第一話】女神のゴリ押し

「前世ではあなた達は確かに〈なんちゃって勇者〉だったわ…。でも今なのっ! 今こそ〈真の勇者〉になれるチャンスが訪れたのよっ!」

「ちょっと待ってくれよ女神さん、確かに2号は前世では〈なんちゃって勇者〉だったかもしれないけど、俺は勇者なんてなったつもりは一度もないぞ!」

「ちょっ、ちょっと待ってふたりとも。確かに僕は前世ではロクでも無い勇者だったけど、〈なんちゃって勇者〉なんておちゃらけた呼び方はなんというか…。僕が殺害した76人もの若者に申し訳ないというか…。例えば〈史上最悪の駄勇者〉だとか、もっと辛辣な呼び方のほうがいいというか…」

「なにを言っているの2号ちゃん? あなたは前世でその罪を全て自分の魂ごと捧げて償い終えているのよ。昔のこと、しかも前世のことなんて、今更蒸し返すのはおやめなさい!」

「いやいや、はじめに前世のこと蒸し返したのは女神さんじゃねぇか…なぁ2号」

「そうだよねぇ1号…」

「えっ? なにか言ったかしら、あなた達?」

「「いえっ! なにも言ってませんっ」」

「それで女神さん、俺たちに前世の記憶まで蘇らせて、いったいなにをさせるつもりなんだ?」

「そう! そこよ1号ちゃん! あなた達もさっきのニュース見たでしょ?」

「あ、ああっ! 慎一郎おじさんが、軍事クーデターを起こしたってニュースのこと?」

「そうよ!2号ちゃんっ、話が早くて助かるわぁ〜」

「まっ! 待て待て! 女神さん。小学四年生で10歳児の俺たちに、その事件を解決しろとか、まさか言わないよな!」

「あらっ、言うわよ」

「「エッ?……えぇぇぇぇぇっ!!!」」

 

 

時間が遡ること、今から30分ほど前……。

僕ら双子の兄弟は16歳年上の自衛隊員の大吾くんと14歳年上の警察官の美羽ちゃんが、珍しく二人同時に立花家に帰省していると聞き、泊まり込みで遊びに来ていた。

前世で2号と呼ばれていた僕の今世の名前は「久保坂 仁業」

前世で1号と呼ばれていた僕の双子の兄の今世の名前は「久保坂 壱剛」

なんとも適当感満載な名前であるが、僕らの両親いわく、どうしてもこの名前しか浮かばなかったとこのこと。

前世の記憶が蘇った今だからわかるが、きっと女神様が面白がって僕たちの両親にそう仕向けたのだろう…。まったく!人の名前で遊ばないでほしい!

さて、話しは戻るが、遊びに来ていた立花家で朝食をいただいている時のこと、つけぱなしにしていたテレビから緊急速報が伝えられた。

 

《番組の途中ですが、只今入りました緊急速報をお伝えします!》

《当局政治部の伝えによりますと、今から30分ほど前に、陸上自衛隊と思われる武装集団が首相官邸および内閣府を包囲したとのこと。この行動は自衛隊による軍事クーデターと考えられ、首謀者は自衛隊の統合幕僚長、立花慎一郎氏と見られております。詳しい情報が入り次第、随時続報をお伝えいたします!》

《繰り返し緊急速報をお伝えします!》……

 

ブッ!ブゥゥゥゥゥゥゥゥ!!

ちょうどその時、四人で啜っていた味噌汁を全員吹き出してしまう。

「ゲホッッ! なっなんだってぇ! そっんな…まさか親父が?……壱剛、仁業! 俺は今から自衛隊に戻る! お前達はゆっくりしていってくれ!」

そう言うと、大吾くんは慌ただしく外に飛び出していく。

「………。わっ私も警察署に行ってみるわ!壱剛くん、仁業くん、ごめんね!」

しばらく呆然としていた美羽ちゃんだったが、我に帰ると、大吾くん同様に外に飛び出して行った………。

 

「これは、由々しき事態ねぇ…」

いつの間にか、大吾くんと美羽ちゃんの母親である立花ヒミコおばさんが、僕ら兄弟の背後に立っていた。

「びっびっくりした!おばちゃん!いつの間にっ?」

「それはそうと、おばさん! おばさんも自衛隊の幹部でしょ? 大吾くんと一緒に行かなくてもいいの?」

「いいのよ。それよりも私はあなた達に大事なお願いがあるの、聞いてくれるかしら?」

「えっ? 俺らにお願い?…そりゃぁまぁ、俺らに出来ることなら、もちろん聞くけど…なぁ、仁業?」

「えっ、ああ…もちろん聞くさ!」

「フフッ、それを聞いて安心したわ、それじゃ二人とも目を瞑りなさい」

僕たち二人は言われるがまま目を瞑ると、眉間の部分に人差し指らしきものが触れた瞬間……。

「あっ、ああああああっ! あんたは女神さん!」

「えっ、えええええ! 女神さまぁ〜?」

「どうやら、あなた達、無事に前世の記憶が戻ったようね……………」

 

 

そして今に至るわけだけど……。

「まぁまぁ、まずは落ち着きなさいあなた達。今からなにが起きているのか状況を説明するから」

「……まぁ、こうなっちまったもんはしようがないな。それでなんだい? その状況ってのは…」

「そうね、まずはうちのダーリンの状況ね。軍事クーデターなんて大層なことやらかしたと思われるいるようだけど、あれはダーリンではないわ」

「えっ、どういうこと?」

「正確にいえば、ダーリンの体を乗っ取ったものの仕業ね」

「そっそれじゃぁ、慎一郎おじさんはどうなったの? 大丈夫なの!?」

「ええ、大丈夫よ、ダーリンは今は眠っている状態、体を乗っ取ったものが出ていけば自然に目覚めるわ」

「はぁっ…良かったっ。で、その体を乗っ取ったヤツの正体はわかるのか?」

「そうね、あまり詳しくはわからなかったけど、その正体は思念生命体。私が人間になる前の存在と全く同じね。あなた達にもっとわかりやすく言うと、神と呼ばれる存在よ」

「かっ!神様!? 僕たちは神様を相手にしないといけないの!?」

「大丈夫よ。その神様は人間には…もっと言うと日本人には一切危害を加えるつもりはないらしいから」

「じゃあ、その言い方からすると、人間以外のものに危害を加えるつもりなんだな……って、まさかっ!」

「そうっ、そのまさかよ1号ちゃん。その神様は異世界の魔物達を根絶やしにしようと考えているわね」

「エッ!? えぇぇぇっ! そそそっそいつはマズイじゃん!」

「あわわわっ! どっどどどうしよう!」

「だから、ちょっと落ち着きなさいあなた達。それを止めるために、あなた達がその神様のところに説得しにいくのよ!」

「かっ神様を説得って、簡単に言ってくれるけど、俺たちはまだ10歳なんだぞ、どう考えても無謀だろ?」

「それがね、そうでもないのよ」

「…どういうこと?」

「その神様はね、どうやら生まれてまだ11年ほどで、歳はあなた達とそう変わらないのよ。それにね、どうやらその神様、なにか誤解をしているみたいなの。どういう誤解なのかまではわからないけど、その誤解を解けばきっと異世界への攻撃をやめてくれるはずなの」

「そっ、そうなのか?…でもでも、その神様を説得しようにも、神様に接触しないと無理だよな? 間違いなくその神様は自衛隊の人たちからガッチリ守られているはずだから、そもそも会話すらできないんじゃねぇの?」

「そうなのよね〜。でも大丈夫よ!そのためにあなた達の前世の記憶を蘇らせたのだから」

「えっとそれは…」

「あなた達、前世で異世界皇帝の二世ちゃん…、青鬼二世から魔術の手解きを受けているでしょ?」

「そっそうか! なるほど、皇帝陛下直伝の魔術を使えば、なんとか自衛隊のガードを潜って神様に直接会えるかもしれない!」

「ちょっと待て! 2号は皇帝陛下から術を伝授されているかもしれないけど、俺はされていないから、魔術なんか使えないぞ!」

「1号ちゃん、それは思い込みよ、元々前世であなた達は、東極夏彦という一人の男の子だったのよ。2号ちゃんが魔術を使えるなら、自ずとあなたも使えるはずよ。ちょっと落ち着いて、その当時のことを思い出してごらんなさい」

「………つっ?………使えるかもしれない!」

「でしょっ! でもこれだけは言っておくけど、攻撃魔術は使わないこと! 周りにいる自衛隊員達もその神様から強烈な催眠術をかけられて操られているだけなの。さっきも言ったけど、その神様はまずあなた達に危害を加えることは無いと思うけど、万が一危害を加えられそうになって、自分の身を守らなければならない場面に出くわさない限り、攻撃魔術は使わないでね。いいかしら?」

「ああ、もちろん! なんの罪もない人を傷つけるわけにはいかないもんな!」

「そうだね! 僕もつかわない!」

「フフフッ、いい返事だわ」

「それに、これでも俺たちはドニー・リー師匠の弟子だもんな」

「そうそう! 師匠の顔に泥を塗るわけにはいかないからね《不殺》は貫くよ!」

「あら、そうだったわね、今世であなた達は、異世界の英雄《不殺》のドニー・リーちゃんに槍術を習っていたのだったわね、いい師を持ったわね!」

「うんっ!最高の師匠だよ」

「ところで、慎一郎のおっちゃんに取り憑いている神様の説得って、いつから始めればいい?」

「そうね、おそらくその神様は異世界の攻撃の前にやることがあるはず、それが終わってからの方がいいと思うわ」

「えっ、そのやることってなに?」

「日本政府の乗っ取りよ、異世界へ攻撃を仕掛けるとしても、日本政府の了承が無いと、いくら神様でも自衛隊全体を動かすのは難しいわ。だからまず内閣総理大臣を強力な催眠術を使って操ろうとするはず、そして各大臣、衆議院議員、参議院議員の全員、少なくともそこまでの洗脳はやってくるでしょうね。それが終わるまでは、あなた達は様子見をしておいて欲しいの」

「なるほど…日本国民を害する気がなく、国民達の無駄な混乱を最小限に防ぐのなら、まずは政府を乗っ取って、異世界への攻撃があたかも国会で成立したようするのがベストだもんね」

「そう言うことね」

「ふ〜っそれじゃあ、のんびりしている場合じゃないけど、そこまで慌てる必要もないってことだな、とりあえず作戦を練って準備をするぐらいの余裕はありそうだ」

「そうだね……。でもちょっと待って、今気がついたけど、女神様はこの件は僕たちに任せっきりで、動いてくれる様子が見えないのだけど、それはなぜ?」

「それがね……、異世界への攻撃よりももっと深刻な問題があるのよ……」

「…………聞きたくないけど、気になる!一体なにがあったんだ?」

「それはね、私たちの住む宇宙と全く別の宇宙の間に亀裂が入ってしまったの…。今回の騒動を起こした神様はその別宇宙からその亀裂を通って私たちの宇宙に入り込んできたようなのだけど、その亀裂を放っておくと、とんでもないことが起きてしまうの……私はその亀裂の修復に向かわなければならない。だからダーリンの件はあなた達に頼むしかなかったの…」

「そっそんなことが…。でっ、そのとんでもないことって、どんなことが起きるの?」

「全宇宙の崩壊よ…」

「「………………………ナっっっなにぃぃぃ!!」」

「女神さん!こんなところで、のんびりしてて大丈夫なのか?」

「それは大丈夫、修復はすでに始めているわ。今は土台作りをしているようなものだから、ここにいてもまだ大丈夫よ。でも、そのうちその亀裂付近まで行かなければできない、細かな作業が出てくる。その段階が来たらすぐにでもここを発たなければならないわ」

「その修復、上手くいきそうなの?」

「ええ、大丈夫! 伊達に気が遠くなるような時間を生きてきてはいないのよ! 必ず上手くやり遂げるわ!」

「ふ〜っ女神さんがそう言うのなら、信じて待つしかないなぁ。ところでなんでそんな亀裂が入ったんだろう?」

「えっ? そっそそそうねぇ〜、んっん〜なっななんでかしらねぇ〜」

「………女神さまぁ〜知ってた?。前世の時から気づいていただけど、女神様は嘘やごまかしが大層下手だってこと……」

「そっそうなの…? ふ〜っバレちゃったもの仕方がないわね。白状するけどその亀裂ができたのは私の所為かもしれないの…。それもあなた達に関係することでね…」

「えっ俺たちも関係しているのか?」

「そうよ、あなた達ふたりは前世で東郷夏彦という一人の男の子だったことは当然覚えているわよね?」

「もちろん覚えてるよ、母の虐待に遭って、人格がふたつになってしまったんだ…」

「それで、あなた達は2号ちゃんが殺めた76人の若者に、自分の魂を捧げて二度と輪廻転生ができなくなるのも承知で、その76人が死なない世界を作り上げちゃったでしょ。その時よ、どうやらその時、私やらかっしちゃったみたいなのね…」

「なっなにをやらかしたんだ?」

「元々あなたたちは、ひとりの男の子だったけど、その中には1号と2号という、ふたりの人格が出来ちゃつたから、その人格を分離させて、ふたつの魂を作り出しちゃったのね。それでそのふたつの魂をそれぞれ半分に分けて、片方は76人が死なない世界用に、もう片方はふたりが輪廻転生ができるように、輪廻の輪に入れちゃったのね…」

「そっそれで?」

「そしたら、その私の行為がこの世の理に触れたみたいでね、宇宙全体に歪みができちゃって…それでたまたま近くで生まれたばかりの宇宙を吸い寄せちゃって、ド〜ン!ってわけなの…」

「ド〜ン!って……。いやっちょっと待てよ、それじゃ今、慎一郎のおっちゃんに取り憑いている神様は、どちらかと言うと被害者じゃねぇか!」

「まあ、そういうことになるわねぇ〜テヘッ!」

「テヘッ!じゃあねーよっ!」

「まあ、まあ、1号。その女神様の愚行のおかげで僕たちはまた転生できたわけだし…」

「ちょっと2号ちゃん、愚行ってなによ!」

「ああ…まあ、それを言われると女神さんに文句は言えねぇわな〜」

「でしょ? だからここはひとつ、異世界を救済して、女神様が言われる通り真の勇者を目指してみようよ!」

「ああっそうだな!いっちょ頑張ってみっか!」

こうして僕ら双子の兄弟は、異世界を正体不明の神様から救い出すために動き出すことになったんだ………。

 

「ねぇちょっと聞いてる!愚行ってなによ!愚行って!………………」

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