水底にて
うつむき歩く少年がいる。彼が一歩踏み出すたび仄かに白く光る砂がゆらりふわりと舞い上がる。
彼は星明りの中をただ歩くのが好きだ。
ここは何もかもが故郷と違う。しかし音もなく舞い上がる白い砂だけは似ている。
もっとも、彼の故郷は星明りなど届かぬ深い海の底で、砂は光を発してなどいなかったが。
大抵の者は故郷を思うとき空を見上げるが、揺らめく水面や瞬く星々は故郷にはない。
故に彼は下を見ている。
彼の名はカイル。かつては全てが海に沈んだ世界を冒険していた。
今はただここにいる。