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消えるものと消えないもの

翌朝、6時前に目を覚ますと記憶を頼りにあの物置へと向かった。記憶を頼りに、というか気を失っていたから記憶なんてものあるわけがないが、しらみつぶしに捜索すれば物置への入り口なんてすぐに見つけることができるだろう。目的は、もちろん先日見たあの写真をもう一度見るためだった。俺によく似た、むしろ瓜二つのその男の正体を知ることができれば、元の世界に帰る糸口になるかもしれないと直感的に思ったからだ。あの兄妹には悪いが、俺は元の世界に帰らせてもらう。


この家は二階建ての一戸建てだ、それほど大きくはない。


兄妹たちを起こさないように一階に降りて、扉を開けていく。ここは食事をとったリビング、トイレ、風呂場、ここは、確か若葉の部屋だったと思う。今は開けないでおこう。ここは、座敷。そこまでいったところで違和感に気付いた。物置への扉が無くなっている。


梯子で上り下りするような場所で床下への扉があるのではないかと思ったが、彼らはせいぜい中学生ぐらいだろう、おそらくその梯子も人一人が上り下りする程度の小さなものだ、大の男一人担いでいけるようなものじゃあない。と思いつつも、一応、床下へ続く扉を探す。が、無い。やはり無いのだ。ならば隠し扉か、すべての家具を、動く家具を見つけに行かねば、と思い至ったところで、


「おじさん、何してるの」


抑揚のない機械音声ともとれるような声がその場に響いた。瞬間、体が強張る。


「だれだ」


俺は震える声でそう言った。この家の誰かだとは思うが、その声は誰のものでもない。と言っても、茜ちゃんの声はまだ聞いたことが無いから一概には言えないが、おそらくこれは、人間の声じゃない。


「ねぇ、なにしてるの」


その声の主はもう一度、唱えるようにつぶやいた。


「トイレを、探していた」


苦しすぎる言い訳だった。ただ本能的にこの声に逆らってはいけないと思った。


「ウソツキ」


声は完全に機械音声のそれになった。そしてその言葉に俺の背中が鳥肌で埋め尽くされた。なにをされる、どうなる、危険信号は鳴りやまない。体中でアラームが鳴っているようだ。すぐさま、この場から逃げ出したい、ぎゅっと目をつぶって次の言葉を待つが、しかし、待てど暮らせど、次の言葉が発せられることはなかった。おそるおそる、振り返ると、そこには誰もおらず、ほっと胸を撫でおろすとふと壁の文字が目に入った。赤い文字。あんなところにあんな文字はなかったはずだが。


薄暗い廊下で目を凝らす。それはひらがなでこう書かれていた。


『いち』


動物の死骸を目の当たりにしたような嫌悪感がその文字から感じられた。意味は分からないが、俺は何か大変なことをしてしまったかもしれない。

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