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知らない時間

目を覚ますと、先ほどいた物置ではなく今度は普通のベッドの上だった。おそるおそる頭に手をやると、大きめの絆創膏が貼られており、血は出ていないようだった。ほっと胸を撫でおろす。今は何時だろうか。辺りを見渡すと壁掛け時計が目に入ったが、なぜか読めない。針がなぜか5本あるし、文字盤は15個もある。どういうことだ。


どうにかそれを読もうと考えていると、部屋の扉が勢いよく開いた。咄嗟に目をやると、元気そうな女の子が部屋に転がり込んできた。見る所によると、中学生くらいだろうか。


「あ、起きてるー。ごめんね、力いっぱい殴っちゃって」


てへへ、と舌を出しながら悪びれも無く女の子が言う。意識が途切れる寸前のことを思い出すに、この子が彼の言っていた『千歳』という女の子で、俺を殴った張本人だろう。


「あぁ、君だったのか。いや負けたよ。不意打ちとはいえ、やるじゃないか」


「でしょー?わたし、力だけは強いんだ」


むんっと力こぶを見せてくれる。この子は素直で、話してくれると思ったから会話を続けることにした。


「ねぇお嬢さん、ここはどこ?」


「どこってわたしたちの家だよ」


「そういうことではないんだが、あ、住所は?住所言える?」


「住所は、〇✕県△□市の€∂町だよ!」


ここで数少ない読者の為に補足しておこう。俺が住んでいた住所は富山県高岡市の住宅地だ。うん、ちゃんと言える。当たり前だ。別にプライバシーとかの観点で記号になっているわけではない。ただ純粋にこの子、千歳ちゃんはそう言っているのだ。記号とかではなく、ちゃんと住所を。ただそれが、俺、そして読者にもなんと言っているのか分からないだけで。俺たちの知らない言語で住所を言っているのだ。こちらが理解できないだけで。


「悪いんだけど、もう一度言ってくれる?」


「だーかーらー、〇✕県△□市の€∂町だって!」


うん、やはり分からない。話す言葉は日本語のそれなのになぜ住所だけが?いやそういえば時計もおかしかったな。


「ねぇ、千歳ちゃん?だよね。今何時か分かる?」


「なんでわたしの名前知ってるの!?」


「いやそれはいいんだ。ねぇ今何時?」


壁掛け時計を指さす。それに倣って千歳ちゃんも時計を見る。


「おじさん、わたしのこと馬鹿にしてるの!?もう中学生だもん、時計ぐらい読めるよ!」


「うん、そっか、で、今何時?」


「ペン時、エナガ分じゃん!」


「はぁ?」


なんというか、ちょっと予想通りと言うか期待通りと言うか、いや欲しかった答えではないんだけど、ですよね、みたいな妙な納得感があった。


「おじさん、あんまり大きな声出すとまた殴るからね」


「ごめんごめん、もう一個だけ聞いていい?今日って何月何日?西暦も教えてほしいな」


「おじさん、そんなことも忘れちゃったの?


「殴られたせいかな」


「そっかー、大変だね」


千歳ちゃんはポケットの中から手のひらサイズの板を取り出して液晶を指で操作していた。あぁ、スマホ持ってるんだ。


「今日はねー・・・」


千歳ちゃんはお目当ての画面に辿り着いたのだろう、勢いよく画面をこちらに向けながら笑顔で言った。


「西暦217年の弩月62日だよ!!!」


ようし分かった!!!異世界だコレ!!!!!!!!

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