知らないものたち
毎話、気を失っては目を覚ましているが、今回も無事に俺は目を覚ますことができた。
薄暗い。ここは、どこだ。立ち上がろうとした時に気付く。縄のようなもので縛られている。こんな麻縄、漫画かアニメでしか見たこと無いぞ。まだ存在していたのか。
目線の先、暗くて分からなかったが、そこは扉だったようで重い音を鳴らしながらゆっくりと開いた。逆光だから誰がそこにいるのか分からないが、目を凝らしてみるとおそらく小さな子どものようだった。俺と目が合うと、ぴゃっと踵を返してまた扉の奥へ消えていった。つっかえを無くした扉はその重量で勢いよく閉まった。また暗闇の再訪である。
辺りを見回してみると、暗いながらも若干その様子が見て取れた。ダンボール箱や農機具、車のタイヤ、まぁ片田舎の物置といったところか。足元近くに新聞の切れ端が落ちていたので覗き込もうとすると、ある違和感に気付いた。その違和感を探ろうと新聞にさらに近付いた時、また扉がゆっくりと開いた。
「おう、起きたか、おっさん」
俺は怪しまれないよう、新聞からすぐに彼へと視線を移した。
「いやぁ、まいっちゃったよ。まさか妹がもう一人いたとはね」
「本当は警察に突き出した方がいいと思ったけどここに移動させてもらった。悪く思うなよ」
ふんっと威張りながら彼が俺の目の前に立つ。
「とりあえず縄をほどいてくれないか。このままじゃゆっくり話もできない」
「それは無理だね。またおっさんにいいようにやられちゃうし」
そう言いながら彼は壁に設置してあったスイッチを押す。途端に明るくなり、目が対応できない。瞬きを何度か繰り返すうちにようやく目が慣れてきた。先程思った通り、ここは単なる物置だった。
「そんで?なんでおっさんは人の家の風呂に勝手に入ってたの?」
彼は脇にあった木組みの椅子に腰かけながらそう問う。
「いや人んちって、俺の家なんだけど」
「そういうのはいいって」
それは何度も聞きましたと言わんばかりに両手を広げる。
「でも本当なんだ。仕事から帰ってきて妻に挨拶して風呂に入って、あぁ、そうだ。その時俺は気を失って、もしかしたらあの時に何かあったのかもしれない」
「何かってなに?じゃあ例えば奥さんか知らない人がおっさんをうちに運んで倒れてた時と同じ状況にしてたってこと?意味わからん」
確かに。
「俺だって自分の家で風呂に入ってただけだ。それ以上のことは分からない」
「まぁ嘘を言っていないように見えるし、この話はもういいか」
「ありがたい。じゃあこの縄をほどいてくれ」
「それはできない」
「なんでだ」
「また俺が襲われる」
「分かった、もうなにもしない。手を出さない」
「ほんとか?」
「ほんとだ」
「じゃあ身分証明書をだせ」
「えっ」
「なにかされたらそれをもって警察に行く」
いや全裸で持ってるわけがないですやん。
「持ってるわけがないですやん」
出ちゃった。声に。
「そっか、まぁいいや。次やったら誰かがおっさんを殺すよ」
頭に強い衝撃を受けたことを思い出す。ほんとにやられかねん。コブでもできてんのかと思い、手をやると生暖かい感触があった。驚いて手を見るとそこにはたっぷりの血が。
「ぎゃああああっぁっぁぁああ、血が出てんじゃないのよおおおおおっ」
驚きすぎてオネェになってしまった。
俺はそのまま意識を手放した。そう、またなんだ。