九十九・3,500,000,000
九十九・3,500,000,000
「おぉーい。待ってくれよぉ。ほんとに、これっきりで辞めるわけ?」
「辞めるー」
「なんで? 今日はしょうがないにしてもさ、まーだ、もっといい仕事あるぜぇ?」
「ついてくんじゃねーよ。やってられっか、こんなの! 世話んなったね。さよーなら!」
紅葉は、スタッフ用通用口を出て行く。
十六夜は、紅葉の後ろからぴたりとついていき、新たなバイトの交渉をしている。
「おい・・・・・・十六夜岳!」
「ふんふふーん。考え直してくれたかな?」
「ふざけんな! ・・・・・・お前。あのトチベリー25のメンバー、普通じゃねーと思わないんかよ?」
「ふんふふふーん? 普通、とはどういった意味かな?」
「大麻は吸うわ、リンチはするわ、裏表は激しいわ・・・・・・マジであいつら、アイドル?」
「ふふーん。そりゃ、常盤紅葉のものさしで見たら、アイドルじゃないかもなぁー」
「アタシは、何となく感じたんだけど・・・・・・お前、あいつらに『海外公演』なんて言ったけど、何か、変なことでも企んでんじゃねーだろうな?」
十六夜は、紅葉のその言葉に、ぴくりと片眉を上げた。
「別に? 変なことでも何もないねー。人を疑いすぎは、よくないなぁー」
「しかも、昨日お前の代理で受け取った小包も、四日市だかっていう副社長からだと言えとかさ、いったい、何が起きてんだよ! ヤバいことだろ?」
「バイトのお子様は知らなくていいことさ。業界には業界独自のやり方ってのがあるんだ」
「なんっだそれ? ・・・・・・とにかく、ガブーンバイパー社のヤバさをこの二日間で、よぉーく見せてもらったよ! とんでもねーな、裏は!」
「ふんふふーん。まぁ、勘ぐりすぎだと思うけど。辞めちゃうやつに言っても無駄だと思うけど、最後の交渉をしてみようかなぁー?」
「うん、無駄だな。帰れよ。もうアタシについてくんなっての!」
「そうかー。いや、ある『荷物』を副社長が運びたがってるんだ。それを運び出す手伝いをしてくれれば、今日の分を上乗せして、新たに四百万ほど与えてもいいんだがね?」
紅葉は足を止め、目を丸くして驚く。
「よ、四百万っ! しかも、今日の分を上乗せって、五百五十万じゃんか! ・・・・・・いったい、お前らの金銭感覚は、どーなってんだよ・・・・・・」
「どう? ちょっと興味出た?」
「別な意味で興味津々だわ! 怪しすぎるだろ! 何だよ、荷物って。また麻薬とかか? それとも、まさか、死体とかじゃねーだろうな? 絶対ヤバいだろ! 嫌だよ!」
紅葉は目を吊り上げ、語気を強めて十六夜を睨みつけた。
「ふふーん? いいバイトだと思ったけどね? 副社長は、お困りなんだよ。量がちっと多いもんでね? 誰か、それを手伝って欲しいそうなんだ。大変な荷物でさぁ・・・・・・」
「だから、何なんだよ、それは!」
「やる気があるなら、教えてやっても良いけどね? やらないんだろう・・・・・・?」
「だって、わけもわかんねーのに、やるなんて言うわけねーだろ。まぁ、このバイトをやる以前のアタシなら、適当に『やる』って言ったかも知んねーけどな?」
「ふふん。もしやってくれるなら、その百分の一の額を、さらに上乗せしてもいいけど?」
十六夜は、首をくいっと傾けながら、不敵な笑みを浮かべて紅葉を見る。
「額? なんだ? 荷物って、金なのかよ?」
「まぁ、そういうことにしておこうかなぁ?」
「金を運ぶのに、なんでアタシみたいなバイトが必要なんだよ、副社長ってやつは?」
「ふふふーん。だから、量が多いんだよ。一人じゃ持ち運べないだろうなぁー」
「はぁ? とんでもねー大金ってこと? 一千万円とか?」
「はっ! 笑えるな。お子様の金銭感覚は。まぁ、想像できないか・・・・・・。ふんふふーん」
「なんだと? じゃあ、三千万? いや、五千万! ・・・・・・七千万とか?」
「オークションやってるんじゃないんだよ、常盤紅葉? ・・・・・・ざっと三十五億かなー」
「は、はあぁ!? さっ、さんじゅう・・・・・・ごおくっ? マジかよ・・・・・・っ!」
さらっと額を言い放った、十六夜。紅葉は、言葉を失って固まった。
「ふんふーん。そうだ。その百分の一、つまりは一パーセントをあげてもいいんだよ?」
「(あ、ありえねーっ! 三十五億の一パーセントって、三千五百万だぞ! 嘘だろ!)」
「信じてないね? まぁ、やらないんだから、どーでもいい話だよね。ふんふふーん」
紅葉は、十六夜の顔を見たまま、固まっていた。顎先へ、つうっと冷や汗を垂らして。




