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振り子  作者: 糸東 甚九郎
第十一幕  静かに始まる、三十五億の争奪戦
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九十八・モリブデン鋼はどこに

九十八・モリブデン鋼はどこに



   ガチャガチャ・・・・・・  ガインッ

   ガチャ  グイッ  ・・・・・・パチッ

   ・・・・・・グウオォォォンッ・・・・・・

   グイングイングイングイン・・・・・・


「水崎さん、これで大丈夫ですよ。二ヶ所、部品が傷んでたんで、交換しときましたから。チタン製のものやモリブデン鋼も、これで圧造可能のはずです」

「わりぃなやぁ、日曜に! いやぁ、助かったべや! これ、少ねぇけど・・・・・・」

「いえいえ、そんな・・・・・・」


 玄桐の家にある機械が、稼働音を響かせている。

 整備業者がメンテナンスを終え、工場の機械はまた、一時的に動くようになった。


「だーいじだから、ほれ! 取っといてくれや。日曜出勤の、お礼だんべな!」

「すみません。そんな、大したことはしてないんですが。じゃあ、また何かあったらいつでも呼んで下さい? 見た感じだと、まだ、この機械はしばらく動くと思いますが」

「ありがとなぁ。ほんと、助かった!」

「やったなぁ、おやじぃ! これであとは、ネジを作ればいいだけだぜぃ!」


 業者は、帽子を取って信治にぺこりと頭を下げ、帰っていった。


「ほれ、玄桐! モリブデン鋼の材料なら、確か倉庫にあるはずだから、持ってこいやー」

「あいよぉ! よーっしゃぁ! 紅葉ぁ、待っててくれよなぁー」


 機械油まみれの作業服を着た玄桐は、がさごそと倉庫の引き出しを漁っている。


「んー・・・・・・? どれだぁ? ねーぞぉ、おやじぃ!」

「んなわけねーべ! 確か、あるはずだんべよ。・・・・・・どれぇ!」


 見かねた信治が、玄桐と一緒に倉庫内を探し始めた。


「・・・・・・ねぇなー」

「ほら、ねーだろぉ?」

「・・・・・・なんでだべ」

「知んねーよぉ!」

「・・・・・・あ!」

「え、何?」


 信治は、丸い黒メガネをくいっと上げ、汗をたらりと流す。


「・・・・・・売っとばしちったかもしんねー・・・・・・」

「な、なぁんだとーっ? なんでだよぉ、おやじぃ!」


 信治の肩を掴み、この世の終わりのような顔をして、ぐわんぐわんと揺さぶる玄桐。


「だって、しゃあんめよぉ! 金がなくて、その日食いつなぐのも、大変だったんだかんな!」

「そっ、そうだけどよぉー・・・・・・。あー、だめだぁ。終わった・・・・・・」


 がっくりと、その場で何もかも燃えつきたかのような顔をして、玄桐は地面に突っ伏した。


「玄桐? 今日は、サンプルを作りゃいーんだべ? その、常盤さんって人に電話して、別な材料のものでもいいか、聞いてみろや? 普通の材料ならあるべ。とりあえず、規格だけ合わせて、後からモリブデン鋼の本サンプルを渡すってことにすりゃ、よかんべ?」


 信治は、冷静な目で、玄桐に問いかけた。


「そ、そうかっ! そーだよな。おやじぃ、頭いいぜぃ!」

「お前がバカなだけだべ。元はと言えば、こんな無茶なスケジュールで約束しちまうから、慌ただしくなっちまうんだかんな?」

「ま、まぁ、かてぇことは抜きだ! えーと、紅葉にかけて、父ちゃんに繋いでもらうか」


 スマートフォンを取り出し、玄桐は画面をタップして紅葉に電話をかけ始めた。しかし、ずっと呼び出し音が鳴ったまま。

 玄桐は「なぜだー」と、しおれるように項垂れてしまった。


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