九十八・モリブデン鋼はどこに
九十八・モリブデン鋼はどこに
ガチャガチャ・・・・・・ ガインッ
ガチャ グイッ ・・・・・・パチッ
・・・・・・グウオォォォンッ・・・・・・
グイングイングイングイン・・・・・・
「水崎さん、これで大丈夫ですよ。二ヶ所、部品が傷んでたんで、交換しときましたから。チタン製のものやモリブデン鋼も、これで圧造可能のはずです」
「わりぃなやぁ、日曜に! いやぁ、助かったべや! これ、少ねぇけど・・・・・・」
「いえいえ、そんな・・・・・・」
玄桐の家にある機械が、稼働音を響かせている。
整備業者がメンテナンスを終え、工場の機械はまた、一時的に動くようになった。
「だーいじだから、ほれ! 取っといてくれや。日曜出勤の、お礼だんべな!」
「すみません。そんな、大したことはしてないんですが。じゃあ、また何かあったらいつでも呼んで下さい? 見た感じだと、まだ、この機械はしばらく動くと思いますが」
「ありがとなぁ。ほんと、助かった!」
「やったなぁ、おやじぃ! これであとは、ネジを作ればいいだけだぜぃ!」
業者は、帽子を取って信治にぺこりと頭を下げ、帰っていった。
「ほれ、玄桐! モリブデン鋼の材料なら、確か倉庫にあるはずだから、持ってこいやー」
「あいよぉ! よーっしゃぁ! 紅葉ぁ、待っててくれよなぁー」
機械油まみれの作業服を着た玄桐は、がさごそと倉庫の引き出しを漁っている。
「んー・・・・・・? どれだぁ? ねーぞぉ、おやじぃ!」
「んなわけねーべ! 確か、あるはずだんべよ。・・・・・・どれぇ!」
見かねた信治が、玄桐と一緒に倉庫内を探し始めた。
「・・・・・・ねぇなー」
「ほら、ねーだろぉ?」
「・・・・・・なんでだべ」
「知んねーよぉ!」
「・・・・・・あ!」
「え、何?」
信治は、丸い黒メガネをくいっと上げ、汗をたらりと流す。
「・・・・・・売っとばしちったかもしんねー・・・・・・」
「な、なぁんだとーっ? なんでだよぉ、おやじぃ!」
信治の肩を掴み、この世の終わりのような顔をして、ぐわんぐわんと揺さぶる玄桐。
「だって、しゃあんめよぉ! 金がなくて、その日食いつなぐのも、大変だったんだかんな!」
「そっ、そうだけどよぉー・・・・・・。あー、だめだぁ。終わった・・・・・・」
がっくりと、その場で何もかも燃えつきたかのような顔をして、玄桐は地面に突っ伏した。
「玄桐? 今日は、サンプルを作りゃいーんだべ? その、常盤さんって人に電話して、別な材料のものでもいいか、聞いてみろや? 普通の材料ならあるべ。とりあえず、規格だけ合わせて、後からモリブデン鋼の本サンプルを渡すってことにすりゃ、よかんべ?」
信治は、冷静な目で、玄桐に問いかけた。
「そ、そうかっ! そーだよな。おやじぃ、頭いいぜぃ!」
「お前がバカなだけだべ。元はと言えば、こんな無茶なスケジュールで約束しちまうから、慌ただしくなっちまうんだかんな?」
「ま、まぁ、かてぇことは抜きだ! えーと、紅葉にかけて、父ちゃんに繋いでもらうか」
スマートフォンを取り出し、玄桐は画面をタップして紅葉に電話をかけ始めた。しかし、ずっと呼び出し音が鳴ったまま。
玄桐は「なぜだー」と、しおれるように項垂れてしまった。




